[ 181 ] アルノマール
アルノマールの放った極大の火炎弾は、爆炎と爆音と共にボスハルトスコルピオンとギルドを跡形もなく吹き飛ばした。
「ふむ、さすが私! ハーハハハ!」
「ハーハハハ! じゃねぇ!!」
「ほぉ、よく避けたな」
「死ぬところだったぞ! ぶえーくしゅ!」
本当に危なかった……。
あの瞬間、とっさにマスターがザントシルドで僕らを包むと、その中でさらにラッセさんが連動★7の氷魔法グラオペルリングに僕らを包み、その中でさらにグイーダさんがヴァリアブルクヴェレで満たして僕らは氷水の中で爆発が終わるのを待つしかなかった。
「へっしゅ!」
「寒い寒い寒い……」
「ロイエさんんんん。回復してくださいいい」
「ぼ、僕の回復魔法で寒さはどうにもできないよ……。と、とりあえず温まろう」
寒さで唇が真っ青になった面々は、焼け野原になったギルドの残火で暖を取った。
すると、まるでたこ焼きのように焼かれたザントシルドの残骸の上に、空から降りてきたアルノマールが降り立った。
「ふむ。これで回避したのか……。やるじゃないか」
「市長ぉお! もう下ろしてくださいよー!」
アルノマールの背中で、誰かの手足がバタバタと動いている。よく見るとフォレストギルドの受付嬢のプリンだった。
彼女は風魔法使いだったのか、それで背中にくくりつけて空を……。アルノマール市長の強引な性格は相変わらずのようだ。
「ぶはぁ、しんどかったぁ。おや? ロイエ君じゃないすか。こんにちはー」
「こ、こんにちは……お二人ともお久しぶりですうううぅぅううぐええ?!」
突如アルノマールに胸ぐらを掴まれると、ザントシルドの残骸のたこ焼きの中に連れてかれた。
「おい、レーラはどこだ。ここにいるのか? 私の服装はどうだ? 髪は乱れてないか?!」
「ぐぇ、ぐるじい……」
「おら! さっさと言え! レーラはこの街にいるのか?!」
レーラさんは護衛班のロートと相打ちになって死んでしまった。乙女のような瞳をしたアルノマールに、僕は真実を言えなかった。
「ごほっ。レ、レーラさんはこの街にはいませんよ」
「そうか……」
残念なような嬉しいような複雑な表情を見せると、アルノマールはマスターへ視線を向けた。
「で? オスティナート。シュテルンはどこだ」
「あ? あいつならギルドを裏切ってどっか行っちまったよ。ハルトスコルピオンを呼んだのも奴さ」
「やはりな」
「やはり? シュテルンの造反を知っていたのか?」
「まぁな。アテルが解放されたから身内に裏切り者でもいるんじゃないかと調べてたら、シュテルンの異動に不審な点が見つかってな」
アテルが誰だか一瞬迷ったが、ナッシュのマスターだ。ギルドカードに名前が記されている。
「それでフォルク市長への手紙をロゼに持たせたんですね」
「ああ、そうだ。デザントのギルドも一枚噛んでるのかも思いオスティナートではなくフォルクに宛てたんだが……。この様子だと造反はシュテルンだけのようだな」
「あの、手紙の返事ならブリュレが持ってフォレストを目指してますけど……」
「柄にもなく手紙を出してみたが返事を待つのがめんどくさくてな。私自ら聞き出してやろうと、街を抜け出して来てみたらこの有様だったわけだ。いやぁ私が来てよかったな」
「どこがだ! ギルドが跡形もなくなっちまったじゃねぇか!」
「あー? テメェ命の恩人に向かってなんて言い草だ」
確かにアルノマール市長が来なければ、僕らは全滅していた可能性が高い……。二匹目のボスハルトスコルピオンで手こずっていたのに、さらに二体現れたらどうなっていたか。
「まぁいい。奴の行き先はどうせ決まっている。私は一度フォレストに戻る。じゃぁな」
「え? も、もう帰っちゃうんですか?」
「当たり前だ。私は市長だぞ? 私がやったとバレてみろ。いらん損害賠償を請求されてみろ?」
もうバレバレだと思うけど、一応体裁とか気にする人なんだ……。トドメで街を大破壊したのはアルノマールの一撃だと思うけど……。
「おい、シュテルンの行き先だけ教えてくれ」
「王都だ。奴のギルド移動と昇格を推薦したのが、王都騎士団の護衛班だ」
「護衛班が? 俺はグランドマスターから通達を受けたが……」
「グランドマスターはほとんど騎士団に取り込まれている。表向きはグランドマスターの所業でも裏では騎士団の意向が100%通るようだ」
「なんで護衛班がシュテルンをここに……?」
「まぁ、フィクスブルートだろうな。ついこないだまでここに騎士団の調査班もいただろう。内部からと思ったのかもしれないな」
アウスの率いる調査班はアクアリウムへ向かってしまった。確かにそれを抜けば先月までここを攻め入るのは難しかっただろう。ならば内部からという事か……。
「それじゃあ私はフォレストへ戻る。じゃあな」
「あ! 待ってください! 僕もフォレストへ連れて行ってくれませんか?」
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