[ 182 ] 後始末

「一緒にフォレストへ? なぜだ」


 僕の咄嗟の提案に、アルノマールは難色を示した。


「先ほどの戦いで、嫌というほど自分の無力さを痛感しました。アルノマールさんが来なかったら僕らは全滅していたでしょう」

「そうだろうな」

「だから、もっと強くなりたいんです。僕にもアルノマールさんの稽古をつけてください!」


 アルノマールは鋭い目で僕を睨んだ後、深いため息を吐いた。


「ロイエ、お前はお前のやるべきことをやれ」

「やるべき事?」

「強くなりたいなら、何をすべきか、その足りない頭で考えるがよい。プリン行くぞ」

「はーい、ロイエ君またねー。ヴィベルスルフト・オルト!」


 それだけ言い残すと、アルノマールとプリンは風魔法で空へ飛び上がり、そのままフォレストの方へ向かって消えてしまった。


 僕のなすべき事……。その言葉を噛み砕いていると、後ろからガシッと頭を鷲掴みにされた。


「ロイエ……テメェ。なに逃げようとしてやがる」

「えぇ?」

「この廃墟をほっぽって帰ろうとはいい度胸だな!」


 掴まれた頭がメリメリと異音を発した。


「痛たたた! け、決して一人だけ逃げようだなんてそんな! 僕はもっと強くなりたくて痛たたたた!」

「いーや、完全に逃げる気だったな。覚悟しろよ!」


 それからは地獄のような日々だった。


 レオラと二人で重力魔法を使っての瓦礫の撤去と、ギルド再建の資材搬入などフル稼働で働いた。


 シュテルンが抜けた穴を補うためにラッセとグイーダ、マスターも雑務に追われていたが、ロゼが元経営者としての手腕を発揮してなんとか回っていた。


 様々な後片付けの中でも一番大変だったのは、ギルドの再建よりもポルトの代わりを探す事だった。港の男たちの誰かが港長をやれば良いのだが、人を使うことには慣れていないから無理だと断られたそうだ。


 いつまで経ってもリーダーが不在では港業務が立ち行かないため、しばらくは市長が代わりにやっていたが、本業があるからいつまでも代理は出来ない。


 そこで白羽の矢が立ったのはレオラだった。ギルドの瓦礫撤去があらかた終わると、強制的に港長として就任させられた。決めては借金が半年で返せるぞという、市長からの誘惑だった。


 レオラは港業務、ロゼはギルドの受付業務、僕は毎日溜まっていくギルドの依頼を次々こなした。


「すごい建築技術ですね……」

「この街には土魔法使いが多いからな」


 レンガ作りの家とはいえ、なんと二週間でギルドの再建が終わった。スピードを重視したため、元のサイズより少し小さくて狭いが、最低限の機能はあり業務に支障は出ていないようだ。


「ロイエさん、依頼の達成具合はどうですか?」

「ちょうど終わったところだよ」

「ピヨも頑張ったピヨ」


 夕方ギルドに戻ると、ロゼが受付をしていた。パラパラと資料をめくる姿はさまになっていて、もうすっかり受付嬢が板についている。


「となると、とりあえず山のようにあった依頼で、特に緊急性が高いものは全部終わりましたわね」

「そうだね。一生分働いた気がするよ」

「わたくしも、ギルドの受付嬢がこんなにハードワークだと初めて知りました……」

「受付嬢の衣装似合ってるピヨ」

「ありがとうピヨちゃん」


「おう! ロイエ戻ったか!」


 僕らの会話が聞こえたようで、マスターが奥の部屋から出てきた。


「受け取れ」

「なんです?」


 マスターが放り投げた袋を受け取るとジャラっと音がした。開けてみると中には金貨が詰まっていて、おそらく五十枚ほどある。


「少ねぇがすまねぇ。いまはギルドも入り用でな。ハルトスコルピオン戦では助かった。お前がいなかったらアルノマールが来ても毒で全滅していただろう。これはギルドからの礼だ。受けっておけ」

「いえ、僕こそみんながいなければ……」

「持つつ持たれつつだな。ここを出るんだろ? 旅の資金にしてくれや」


 大量の依頼をこなして、それなりにお金はもらったけど、またいつ必要になるかわからないから、貰えるなら貰っておこう。


「ありがとうございます」

「いつ出るんだ?」

「元々僕は仲間とアクアリウム経由でフォレストに戻る予定だったので、予定通り明後日にはここを出ようかと思います」

「そうか。また忙しくなるな」

「すみません……」

「なーに、代わりの労働力をもらったからな」


 ポンと頭を叩かれたのは、不貞腐れた顔のブリュレだった。


「おいー! やっぱり俺はロイエの代わりじゃねぇか!」

「アルノマールからここを手伝えって言われたんだろ?」

「そ、それはそうだけど!」

「じゃあつべこべいうな。明日からやってもらう事が山ほどあるからな、ハーハハハ!」


 昨日、ブリュレがデザントにまたやってきた。

 どうやら手紙を急いでフォレストへ届けたが、アルノマールとは行き違いになるし、アルノマールが戻ってきたら戻ってきたで、またデザントに行けと言われて、ブリュレは無駄に往復していた。


「はぁ、最近こんなんばっかりだぜ。俺も戦闘に参加したかったなぁ」

「無理無理、お前のチンケな雷魔法じゃ何の役にも立たなかったぜ」

「がーん。そんなハッキリと……」

「仕事ついでにオレが鍛えてやるからな! 期待してろ!」

「ひぃいい」

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