[ 183 ] 装備回収

 それからの残り二日も忙しかった。


 一日目、僕はファブロの武器店を訪れた。預けた武器の返却とユンガに聞きたいことがあったからだ。


「こんにちはー」

「はーい。いらっしゃいませ……。あ、ロイエさん」

「やぁユンガ。ファブロさんいる?」

「いますけど……あの、すみません」

「ああ、やっぱり魔吸石の件は……」

「はい、マスターに言われて無くしたことにしてました。その石を狙ってる奴がいるから師匠の事が大事なら黙って渡せと言われて……」

「まぁ仕方ないよ」

「ロイエさんから預かった物なのに……。すみませんでした」


 マスターの説明は間違っていない。魔吸石を持っていると星食い達に狙われるのは当然だ。ならば奪われたことにすれば良い。


「大丈夫。代わりに貰ったゼーゲドルヒはすごく役に立ったし」

「そう言って貰えると嬉しいっす。どうぞ、師匠はいつもの工房です」


 ユンガに案内されて奥の工房へ通されると、普段と変わらないファブロが剣を打っていた。


「師匠、ロイエさんです」

「おお、よく来たな。街を出るんだってな?」

「ええ、フォレスト経由でヘクセライを目指す予定です」

「そうか。ゼーゲドルヒはどうだった?」

「ボスハルトスコルピオンの硬い殻も貫通しましたよ」

「ひひひ、そりゃいい。役に立てたようでよかったわい。そうだ。預かっとったお嬢ちゃんの籠手だが、ほらあそこだ」


 指の先を見ると、宝石の外れた魔石装具が置いてあった。


「あれ?! 取れちゃいました?!」

「うむ。カルネオールは魔法を吸収する。あの宝石はザントシルドを放出する。相反する効果の同居がどうしても出来なくてな……」

「そうですか」


 確かに……。ザントシルドを出した瞬間にカルネオールの欠片が魔法を吸ってしまうのか。


「とりあえずカルネオールの刃が飛び出す仕組みは出来た。この土の宝石は槍の先なんかにつければ面白い武器が作れそうだが、ちょっとわしは大口の仕事が入ってしまってな」

「そうなんですね。よかったじゃないですか」

「ああ、生活費が底をついたからな。まずは金稼ぎだ」


 ロゼの新しい籠手と土の宝石を受け取ると、忙しそうなフォブロとユンガに強く握手をして、足早に店を出た。


 なんだかんだあったけど、二人にはすごくお世話になったな。みんなでヘーレ洞窟へ行った事を思い出してちょっと寂しくなってしまった。


「さてと……」


 次は、ロゼさんの奪われた右手の籠手を取り戻すため、ミネラの店を訪れた。


「あの……。今日はロゼさんは?」

「こんな危ない店に連れて来れないですよ」

「そ、そうですか……」

「こないだは取り乱してしまってすみませんと、お伝えください」


 装備ゾンビと化した彼女がトラウマになったのか、ロゼは頑なに行きたくないと首を縦には振らなかった。ただ、この様子を見る限り、彼女なりに反省はしているらしい。


「これがロゼさんから預かってた装備です……」


 奪った装備の間違いだけど、そこは訂正しないでおいた。ミネラはカウンターの下から布に包まれた籠手を取り出すと、中から紅い宝石が特徴の魔石装具が姿を表した。


「あれ? これはバスター鉱石?」

「ええ、一応少し改造してみました。バスター鉱石単体だと5%程度の出力アップしか望めませんでしたが、この紅い鉱石から出る魔法は50%ほど効果が上がってます」


 ヴェルアしか出ないとはいえ、50%も出力が上がれば結構な威力だ。戦力としては心強い。


「それとロイエさん、こないだの戦闘でどうでした? バスター鉱石による魔法効果アップの効果は実感しました?」

「うーん、やはり5%上がったくらいだと、体感でも分からなかったね」

「ですよね……。これだと売り物にならないですね……」


 そうか。バスター鉱石で一儲けするって言ってたな。確かに5%上がっただけだと、買った人から詐欺だと言われて商売が立ち行かなくなる可能性もあるか。


「もう少し研究して効果をupさせないと売れないですね。ロゼさんの籠手についてた宝石があればかなりの出力アップを望めそうなんですが……」

「あ、それなら……」


 さっきファブロさんの店で預かってきた土の宝石をポーチから取り出してミネラに見せた。


「わぁ! これは?!」

「土の宝石だよ。魔石を使えばザントシルドが使えるんだ」

「ほぉ……それはそれは、興味深いですね」


 ロゼに確認とってないけど、ミネラに渡しても良いかな? ダメだったら後で取り返しに来るか……。


「ロゼの確認は取ってませんが、たぶんお渡しすることは可能かと思います。ダメだったら回収しにきますが、研究材料として使っても良いですよ」

「本当ですか?! ありがとうございます! 研究してみたいと思います!」

「ダメだったら返してね?」

「も、もちろんです!」


 これがうまく行けば、応用して僕の装備も強くなるかもしれない。この街を出るまでは無理でも将来的につかえるかもしれないなら、タネは巻いておいた方が良い。


「それじゃあまた」

「あ、ロイエさん。レオラさんの分の装備も出来ているので、渡してくださいますか?」

「はい、それくらいなら」


 こうして僕は、ロゼとレオラの装備を預かると、ギルドで受付嬢をしているロゼの元へ戻った。


「おかえりなさい。ロイエさん」

「ただいま。ファブロさんとミネラさんに預けてた装備持ってきたよ。ただ土の宝石は研究のためって、ミネラさんに預けてしまいました。ダメでしたら回収して来ます」

「いえ、それなら問題ありませんわ。同じ研究者とし、珍しい物を研究したい気持ちはよくわかります」


 よかった。あとはレオラにもミネラから預かった籠手を渡しに行かないとな。レオラはここのところずっと港にいると聞いてるので、お昼を食べてから向かおう。

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