[ 239 ] ボスブラオヴォルフ

 結論から言うと僕らは苦戦していた。

 一番は魔法の相性な悪さだ。ボスブラオヴォルフは土属性魔法を主体として戦っており、レーヴェの火と風、リュカさんの風、カノーネの氷、リーラの雷、どれも効きが悪かった。加えて……。


「クソッ! なんて速さだ!」

「所長! 合わせてください! アレストルム・オルト!」

「グリーゼル・オルト!」


 ボスブラオヴォルフは尋常じゃないほど速かった。

 リュカさんの拘束風魔法とカノーネ所長による氷魔法すら、ボスブラオヴォルフには遅く感じるようで、サッと風魔法を交わすと「ガウ!」と吠えザントシルドを地面から出現させ、軽々グリーゼルを防いだ。


 土魔法というのは土がない場所では能力半減だし、他の魔法と違って物理色が強いからあまり強くないと思っていたが、ここまで土魔法が万能だとは……。


 カノーネのグリーゼルを防いだボスブラオヴォルフは、自身の出したザントシルドを踏み台にして飛び越えると、鋭い爪でカノーネへ襲いかかった。


「ヴァルムヴァント!」


 その強襲を、レーヴェの放ったシールドのような炎の結界がカノーネを守った。


「ナーデルフロア!」


 すかさずカノーネが氷の針を飛ばすも、ボスブラオヴォルフには軽々と避けられた。が、その先にはリーラの仕掛けた爆弾が埋められている。


「いまだ! グレンツェン!」


 全ての魔法の中で最速を誇る雷魔法の練度★1。グレンツェンの細い電撃が起爆装置となって設置されていた爆薬に触れた。


 ドゴォォオオオオオン!!


 轟音と爆音が、僕らの身体を揺らす。爆発の勢いは凄まじく、黒煙を上げてあたりの草木を次々と燃やしている。


「やったーーー! 成功!」

「すげっ、なんだよ。いまの……」

「リーラ! お前はあんな危ないモノを研究所においていたのか!」

「そうだけど?」

「これが終わったらお前の研究室だけ別棟にしてやる」

「ひどっ」


 立ち上る黒煙が激しくて、あれほど巨大なボスブラオヴォルフの姿が見えない。どこだ、やつは――。


「リュカ、風魔法で煙を、

『ワォオオオオオオオオ!!』


 しまったと思うよりも早く、地面から次々と無差別にザントシルドが突き出し僕らを襲った。


「がはっ!」

「リーラ!」

「リュカさん危ない! ゼレン!」


  とっさにリュカさんとリーラをゼレンで僕に引き寄せて、クーアで回復させる。その時、黒煙の中から飛び出しきてきた巨大な影がレーヴェの頭上に飛んだ。


「レーヴェさん! 上だ!」

「チッ! ヴァルムヴァ、ぐあっ!!」


 驚いたことに、ボスブラオヴォルフは爆破で飛び散った岩を足場にして蹴ると、空中で加速してレーヴェへ体当たりした。


「レーヴェさん!」


 頭上から叩き潰されたレーヴェは、尻尾で弾き飛ばされると気を失って倒れた。


『ワォオオォォォオン!!』


 まずい、また広範囲ザントシルドが来る! ゼレンでレーヴェを助けるべきか、負傷した時のためにクーアの準備をするか悩むといつ致命的なミスを起こしたが、しばらくたってもザントシルドが発動する気配がない。


 それはボスブラオヴォルフも同じったようで、頭に?を浮かべながらワオワオ吠えている。それでもザントシルドは出ない。お互いに疑問を抱き膠着していると、見知った顔の2人がやってきた。


「やっほー。なんか爆発が見えたから見にきちゃった」

「テトラさん!」

「ロイエ君、この街どうなってるの? 店長とご飯食べてたら、街の人がみんないなくなっちゃったんだけど」

「やべーな、なんだこのデケー犬は」

「店長?!」


 2人がスタスタとこちらへ歩いてくると、ボスブラオヴォルフが当然の如く攻撃してきた。


「2人とも逃げて!」

『ウォオォン!!』


 とボスブラオヴォルフは叫んだが、何も起こらない。ザントシルドが一つも突き出してこない。いったい何が……。


「私の前で土いじりなんて、させるわけないじゃないですかー、めっ!」


 次の瞬間、周辺の地面が形を変えて、砂や石がボスブラオヴォルフをとてつもない早さで包み込んだ。


「はい、オッケー」

「さーて、んじゃ俺の調理する番だな」

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