[ 238 ] 現れたモンスター

 まず始まったのは住民の避難だ。避難といってもこの街から逃げるわけでない。魔法研究所の地下に格納庫があり、そこが避難所になっている。


 表向きは野盗が向かってると情報を得た。と言うことにして、住民を閉じ込めた。それはボスモンスターの呼び水にするためだ。


 フィクスブルートの近くに人間が少ないと小型のモンスターばかりになってしまう。なので、住民を餌にしてボスモンスターを呼ぶしかない。絶対に僕が守らないと……。


「おい、さっさとやろうぜ」

「もう少ししてください、我々にも準備があるのです」


 待ちきれなくなったレーヴェが、つまらなそうにリュカさんに文句を垂れるが、リュカさんは何やら計算したり装置を床に設置したりと大忙しだ。


「なぁ坊主、俺様が弱らせてお前はトドメだけって話だ。手を出すんじゃねぇぞ?」

「はい。レーヴェさんが怪我したら治しますね」

「は! 生意気言うじゃねぇかよ」


 今、僕らは魔法研究所から少し離れた林の中にいる。


 林の中には、あちらこちらに色付きの紐が張り巡らされていて、あの色付きの紐で囲われた範囲内に出るらしい。避難した住民の人数と、この周辺の魔力量を計算すると、ボスモンスター1体もしくは2体出るかどうかとのことだった。


 また、ボスモンスターが出るのはより魔力の多い土地であることが多いらしい。魔力の多い土地って何かというと土が多く、木々が生い茂っていることだそうだ。


 確かにナッシュのリンドブルムは山の方から、ハイネル村のスライムは洞窟の中、フォレストのカルミールベアも森の中から、デザントも湿地帯の方から出現していた。


「ここが一番確率高いんですよね?」

「ええ、私の計算でもここだと示しています」


  魔法研究所を出る前にカノーネから言い渡された作戦はこうだ。


「まず、リュカがボスモンスターの足を止めろ。その隙にレーヴェが叩いて弱らせて、ロイエが叩く。わかったな?」

「おう」

「はい」

「わかりました」


  各々が返事をすると、最後にカノーネはリーラへ話しかけた。一匹狼っぽいリーラがこの作戦に参加してくれるのは意外だったが、話を聞いて納得した。


「リーラ準備はどうだ?」

「いいよん! それにしてもモンスターを爆破してもいいなんて、最高じゃん!」

「爆薬の位置とタイミングはお前に任せる」

「はいはいまかせてー!」


 上機嫌なリーラはるんるん気分で、あちこちに爆弾を設置していたけど、場所とか覚えてるよね? 大丈夫? 心配だ。


「よし準備は整ったな。ボクもすぐに駆けつける」


 それだけ言い残すと、カノーネは研究所へと戻って行った。カノーネが魔法研究所の中にあるフィクスブルートから魔力を奪ってモンスター発生を起こすらしい。


 僕はこれから自分の意思で星の魔力を奪う。正しい行為か分からないけど、みんなを救うにはこれしかない。みんなを守るんだ。それだけを心に誓った。


 ピーーーー


 カノーネから合図の笛の音が聞こえると、研究所の方から紫色の妖しく光りが迸り、地鳴りと共に地面が大きく揺れた。


 ゴゴゴゴゴォォオオオオ!!!


「来るぞ!」

「はい!」

「がんばりましょう!」


 ボスモンスターが出現する瞬間なんて今まで見た事もなかったけど、それはとても幻想的な光景だった。


 大地や森の木々から無数の光の胞子が集まりだし、一つの生物を作り始めた。その姿はぐにゃぐにゃと歪みながら固まると、巨大な狼のような形になっていく。


「ナーデルフロア・オルト・ヴェルト!」


 全長5メートルほどの巨大なボスブラオヴォルフとして誕生したモンスターだったが、すぐさまその四肢をリュカさんが凍らせると、レーヴェが飛んだ。


「フリューネル!」


 なんて跳躍力だ。レーヴェの持つ筋肉と風魔法で超ジャンプすると、巨大なボスブラオヴォルフの頭上へ飛んだ。


「全力で行くぜぇええー! ブレンメテオーア!!」


 ものすごい熱量を纏い巨大な火炎弾が現れると、高速でボスブラオヴォルフを強襲した。こっちまで焦げそうなほどの熱さが伝わってくる攻撃に思わず目をしかめた。


 ドゴォォオオオオオン!!


 大爆発を起こしたレーヴェのブレンメテオーアだったが、爆発の直前ボスブラオヴォルフは氷の枷を外し脱出した。どうやらブレンメテオーアによる熱でリュカさんのナーデルフロアが弱まった一瞬の隙に高速移動で逃げたらしい。


「おいおい、マジかよ。やるじゃねぇか」


 すぐにカノーネも駆けつけたが、その表情は険しく、眉を顰めていた。


「チッ。リュカとレーヴェの相性が悪かったか」

「あの、やっぱり僕も参戦した方が……」

「倒せる瞬間に魔法が使えない状態では困るんでな」


 ピシャリとカノーネに断られると、彼らは次々と魔法や爆弾を投入してボストンブラオヴォルフを追い詰めていった。僕はただそれを見つめているしかできなかった。

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