[ 192 ] ギルドマスターは?
食事を終えて役所を出ると、僕はさっきの話の続きが気になってハリルベルに聞いてみた。
「で、ハリルベル。さっきの話だけど……」
「ああ、ヴェルアとメルクーアレッタの話だな」
「うん、練度★5のメルクーアレッタを練度★1のヴェルアで相殺したよね。しかも相性は最悪なのにどーやって……」
「ハリルベルはな、魔法のコントロールがずば抜けて高かいんじゃ」
「魔法のコントロール?」
「ああ、見てろよ? ヴェルア」
ハリルベルとブラオヴォルフを倒した時にヴェルアは見せてもらってるけど、その時は扇状に広がる炎だった。それが――。ハリルベルの手から出た火は点だった。
「え? なにこれ」
「これがヴェルアでメルクーアレッタを防げた秘密さ」
「魔法の圧縮じゃよ」
「魔法の……圧縮?」
「そうじゃ、ただ魔法を出すだけではなく、魔力回路を細かく制御することで、このように一点に集中させて魔法を顕現させる事が出来る。まぁさっきはメルクーアレッタの威力も相当落としておったがの」
「マスターも出来るピヨ?」
「いやいや、わしには無理じゃった」
マスターでさえ無理なのか……。
しかし、ヴェルアでメルクーアレッタが防げるなら、コスパは最高だ。練度が低いほど魔法の発動は速い、メルクーアレッタの後出しでヴェルアを出しても防げるという事だ。
「メルクーアレッタの線の攻撃を、ヴェルアの点で防ぐ。簡単なようで、めっちゃ難しいんだ」
それはそうだ。飛んできた釘をナットで受け止めるような物だ。相応の動体視力と魔法コントロール力が無ければ出来ない芸当だ。
「実はロイエと別れた後、すぐに練度★5になったんだけど、それ以降なかなか練度が上がらなくてさ」
「何をやってもあがらんかったな」
「火に放り込まれたり、火を飲み込んだり色々やってたらこれを編み出しちゃってさ。マスターも師匠もこれをモノにしろって言うからずっとやってたんだ」
師匠ってアルノマール市長のことかな? しかし火に放り込まれて、火を飲み込んだ? さらって流されたけど危険なワードが出てきたのを僕は聞き逃さなかった。
「もう少し鍛錬すれば、苦手な水魔法使い相手にも同等レベルで立ち向かえるじゃろう」
話していると、誰かが後ろから走ってきた。どうやら見た感じ役所の人らしい。
「はぁはぁ……。あ、アテル様、市長がお呼びです」
「ほっ、やっと手が空いたか。どれ、わしはアルノマールとちょっと話してくるから、お主らは好きにして良いぞ」
「わかりました」
マスターが役所の人と役所へ入って行くのを見送ると、僕はハリルベルに今夜ギルドで歓迎会を開いてくれる話をした。
「宴会?! もちろん俺も行くよ。ロゼも来るよな?」
「ええ、もちろんですわ」
「ピヨも行くー!」
「あ、ギルドと言えば……。ハリルベル。受付嬢のシルフィとは……」
「あ、バレちゃった?」
「うん、めちゃくちゃ睨んできたからね……」
ハリルベルはポリポリと頭を掻きつつ、恥ずかしそうに話し始めた。
「ロイエが出て行って少しした頃かな。師匠と修行をしてたら世界樹の枝が折れちゃってさ。街を歩いてたシルフィの頭の上に落ちたんだよ」
「え……」
「俺は無我夢中で助けようとしたら、突然練度が上がってさ。火魔法の練度★5のヴァルムヴァントが解放されて、助けられたんだ」
「それ以来、シルフィがハリルベルにぞっこんってわけか」
「もー、見てる方が恥ずかしいくらいの猛烈アタックでしたわ」
「いやーまぁ、ははは。修行の時間は会わないって約束はしてるけどね」
ハリルベルにも良い人が出来たみたいでよかった。リュカさんはまた婚期が遠のいたな……。
「あ、そういえば。マスターってなんでここにいるの? ナッシュのギルドはいいのかな……と思って」
「うーん、俺が言っていいのかわかんないけど……。じいさんな、ナッシュのギルドマスターを解任されたんだよ」
「え! そう……なんだ」
僕らのせいかもしれない。ナッシュを脱する時に少し暴れたみたいだし、今度会ったら謝っておこう……。しかし、既にギルドマスターではないなんて……。
「あれ? ならナッシュのギルドはどれが運営を?」
「クルトさんだよ。彼が後任のギルドマスターになったんだ」
「あー、確かに適任かも……」
ナッシュはあまり冒険者の数が多くない。初心者を育てるなら努力家のクルトさんは適任かもしれない。
「んじゃ、一旦下に降りようぜ。ロイエ達は、そのままここに来たんだろ?風呂くらい入ってから宴会に行こうぜ」
「賛成ピヨー!」
「そうですわね。デザントは砂が凄かったですから」
僕らは一度下の街へ降り、今夜の宿泊先としてお風呂付きの宿を取ることにした。
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