[ 193 ] 宿泊施設

 ロゼが宿泊したままキープしている高級宿が下の街にあると事で、僕らはやってきた。


 宿は西門のすぐそばにあり、さすが高級宿というだけあって外見は綺麗だった。宿入ると広いエントランスに豪華な照明器具が僕らを照らし、高級感を漂わせていた。


「いらっしゃいませ。おや? ロゼ様、おかえりなさいませ」

「こんにちは、ヨーレンスさん」


 ロゼの顔見知りらしい白髭のおじいさんは僕らに丁寧にお辞儀をした。整った洋服と佇まいから、彼がこの宿でそれなりの地位の人物だとわかる。


「宿泊を一名追加でお願いしますわ」

「……申し訳ございません。ただいま、満室となっていまして」


 この街で一番高級なこの宿が満席? 特にイベントをやってる様子もないし、街に人が溢れてる様子も無いが……。

 

「もしかして、例の事故の影響ですか?」

「ええ、その影響でこの辺り一体の宿は全て埋まってしまっている状況でして……」

「困りましたわね」


「あの、事故ってなんですか?」


 今日見た感じでは、フォレストの中で事故らしい事故は起きてないようだが。


「ここから西に進むとアクアリウムの街があるのはご存知ですよね?」

「うん、橋を渡った先にあるとか……。あ」


 ルヴィドさんが、フォレストとアクアリウムの途中の橋が崩落しているという話をしていた気がする。


「橋の崩落か……」

「そうです。フォレストとアクアリウムの間には深い谷に大きな橋がかけてあって、自然に壊れるような物じゃないのですが……」


 星食いの仕業ってのは、考えられるな。目的はわからないけど……。


「木材の加工が得意なハイネル村の皆様と、ナッシュからも応援がかけつけてるんですが、そのために宿泊施設をフォレストが提供してる形なのです」

「そうだったんですね」

「渓谷の橋はアクアリウムよりフォレストからの方が近いですから」


 その橋が直らないとルヴィドさん達はこっちに来れないのか……。橋が直らない限りこちらにはこれないから、万が一の場合再度アクアリウムからデザントへ船で移動して……というルートになって、大幅に時間ロスだ。


「そんなわけでして、当宿は満室になっております」

「そうですか……。困りましたわね」

「どうしようかな。あ、昔みたいにハリルベルの部屋って相部屋は無理?」

「無理というか……シルフィの家に泊まってるんだ……俺」


 ハリルベルは恥ずかしそうにもじもじとしてる。確か猛烈アタックを受けたんだったな。シルフィ、あの大人しい外見からは想像もつかない行動力だ……。


「あ、それでしたらロイエさん、私の部屋に泊まるのはどうでしょうか?」

「ん?! 待て待て待て。ロゼとロイエって、そういうこと?」

「まぁ……。そういう、ことかな」

「ほぉーん! やることやってんじゃん! 子供だ子供だと思ってたらー。ひゅーひゅー」

「どういう事ピヨ?!」

「で? どこまでやったんだ? ん? 誰にも言わないから言ってみなって」

「は、ハリルベル……」


 は、恥ずかしい……。

 誰かハリルベルの口を閉ざしてくれ……っ!


「もー! ピヨにもわかるように説明するピヨ!」

「グヒヒ。いやだからな、ロゼとロイ「グリーゼル!」


 ニヤニヤ顔で話していたハリルベルを、ロゼがカチコチに凍らせた。その様子を見てピヨが青ざめた。


「ハ、ハリルベル……凍ったピヨ!」

「ピヨちゃん?」

「ピッ?! な……なにピヨ、ロゼ……」

「こうなりたくなかったら、静かに……ね?」


 口を翼で覆うと、コクンコクンと壊れたおもちゃのように頷くピヨの体はガクガクと震えていた。

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