[ 073 ] 穴掘りのトロイ

「おおー、戻られましたか皆様」


 洞窟を出て警備していた村人に伝えると、夜中にも関わらず村長はすぐに来てくれた。


「トロイ殿も大丈夫でしたか? 三日間も中で何を?」


 村長が疑いの眼差しでトロイさんを見ている。無理もないが……ここは助け舟を出しておこう。


「トロイさんが溢れ出した五百匹のスライムを、たった一人で一箇所に集めててくれてました。おかげさまで、すぐに倒すことができたのです」

「なるほど! それはお手柄ですね。ギルドにもそのように報告しておきましょう」


 証拠に五百個の魔石を見せ、契約書にサインをして貰った。僕らは依頼を受領していないので、書類上はトロイさんがソロで倒したと言う報告書になってしまったが、仕方ない。夕飯と宿代がタダになっただけでも、儲けものだ。


「皆さんお疲れでしょう。宿を用意してありますので今夜はお休みください」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 ロゼも魔法を酷使して疲れたのか、あくびをしながら爆笑して、村長からまた笑いダケを食べたのですか?と心配されるほどだった。


 最終的には、村長から村人に対する「おめら、やどのしたぐおわっだのか」の音声変換にやられて過呼吸の末、ロゼは気絶した。


 気絶したロゼをジオグランツで軽くして、リュカさんに宿まで運んでもらい、その日は床に着いた。


――次の日、目が覚めるとハリルベルの布団の中にリュカさんが潜り込んでおり、大変危険な感じがしたのでリュカさんを軽くして元の位置に戻しておいた。


「ロイエさん! おはっす!っす!」

「おはようございます。トロイさん。よく眠れましたか?」

「ええ、おかげさまで元気になったっす」


 洞窟では暗くてよく見えなかったけど、トロイさんはいがぐり頭に細い目、ぽっこりお腹には黄色い忍び装束みたいな不思議な洋服を来た男の子だった。


「失礼かもしれませんがトロイさんって何歳ですか?」

「オイラっすか? 二十六っす」


 訂正、男の子ではなく男性だった。いがぐり頭と細い目のせいでなんだかすごく若く見えるな。年齢的にはリュカさんに近いのか。


「ロイエさん達は、フォレストを目指してると聞きましたが、良かったら馬車に乗せてもらえないっすか?」

「いいっすよ」


 おっと、口調が移ってしまった。


「それじゃ準備が出来たら教えて欲しいっす。あっちで良さげな土があったので、時間まで穴掘って待ってます」


 穴を掘って待ってる? どんだけ穴掘り好きなんだ……。チラッと見に行ったらドルックで、地面に穴を開けていた。ドルックは土魔法練度★二の魔法で、掴んだものを破壊するって聞いてたけど、あんな使い方もあったのか。


「おはようございます。ロイエさん。あの……村長が来る前にわたくし、馬車に入ってても良いでしょうか……」

「良いですよ。また笑いダケを食べてしまった事にしておきます」

「あ、ありがとうございます」


 しばらくすると、ハリルベルとリュカさんもやってきた。何かあったのかハリルベルの顔が少し赤い……。後で聞こう、と。


「皆様、準備は整いましたでしょうか?」


 村長が何やら大きな荷物を持ってやってきた。


「スライム騒ぎで長い間洞窟に潜れませんでしたが、討伐して頂いたので、夜中のうちに村人総出で特産キノコを採取してきました」


 箱には、いっぱい詰まったキノコがたくさん、昼間でもわかるくらいどれも黄色に輝いている。


「フォレストから特産キノコが欲しいと言う依頼をずっと貰っていたのですが、とりあえず第一陣として一緒に運んでもらえないでしょうか?」


 村人は解放された洞窟でキノコの採取が忙しく、配送してる暇がないとのこと。


 荷物が入り切るのか馬車の中にいるロゼに確認を取るとオッケーとの返事が返ってきた。


「ありがとうございます。こちらは正式な依頼書になります。ギルドに渡してください」

「わかりました」

「おめぇら! みなざんがおがえりだどー!」

「またきてくんろー!」


 リュカさんが綱を握って馬車を走らせると、村人はブンブンと最後まで手を振ってくれた。


 はぁ、やたら癖の強い村だった……。


「乗せて貰っておいて、あれなんすけど、食べるものないっすか?」


 新たに、土魔法使い……いや、穴掘りのトロイを仲間に加え、僕たちは深緑都市フォレストへと急いだ。

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