[ 084 ] シルバービー戦

「まだ残りが来るぞ!」


 ブリュレの魔法はほとんどのシルバービーを撃墜させたが、それでもまだ全体の六割ほどが残っている。ハリルベルとブリュレは魔力切れで動くこともままならない。


 どうするべきか一瞬悩んでいると、市役所の中から赤いロングヘアーの女性が風のように飛び出し、すれ違いざまに僕に指示を飛ばした。


「二人を抱えて走れ!」


 その鋭い声に、あわてて二人を風船のような軽さにすると、手を引き市役所に向かって思いっきり走った。


「死にたく無い奴は隠れろ!」


 まだ市役所まで数メートル。赤いロングヘアーの女性は待ってはくれない。背後にとてつもない魔力の奔流を感じる。


「死ね! ヘルブランランツェ・オルト・ヴェルト!」


 その声を反応して、背後を振り返ると、火山でも噴火したかのような熱量、熱風の中。火魔法練度★四の魔法が十本の槍となり、空を……世界樹を……シルバービーの群れを焼き尽くした。


「熱っ! 熱っつ!」

「ぎゃあああ! 死ぬうううおええーー」


 もはやハリルベルとブリュレは、地獄絵図になっている。幸いダメージはないので回復魔法の出番はなさそうで、少し安心した。


「市長! なにやってるんですか! 世界樹が燃えてますよ! 消火班! 早く!」


 市役所から市長と呼ばれた女性の後を追って、青い髪のセミロングにスーツを着た女性が飛び出してきた。


「ふん、あとのことは頼んだぞ」

「ちょっとー! 私の身にもなってくださいよー!」


 赤いロングヘアーの女性は、スカートをなびかせながら僕らの方へ向かってきた。この人が市長さん……マスターの親戚……。


「おいこら! テメェら! 男のくせに弱すぎだろが!」

「ひいぃ!」


 顔面蒼白で既に死にそうなハリルベルが、市長に胸ぐら掴まれて虫の息だ……! 這いつくばって逃げようとしたブリュレも足で踏まれている。


「重力使い。テメェだな? クソジジの言ってた奴は! ちょっとこのあとアタイの部屋にこい!」


 もはや恐怖で震えが止まらない。これがフォレストの現市長であり、アルノマーレさん……なのか。


「返事っ!」

「は、はい! すぐ向かいます!」

「よし! この役立たずも持ってこい!」

「はい!」


 そのままハリルベルを投げ飛ばし、あちこちへ指示を出しながら自室へと戻っていく市長。すぐにハリルベルとブリュレの口へブルーポーションを流し込んだ。


「起きろ! ハリルベル! 殺されるぞ! ブリュレ! 君もだ! おい! 起きろ!」

「う、うぅ……ロイ、エ。俺に構うな……先におぇ」

「こ、この程度……師匠なら、うぷ」

「いやいや、君らも来ないと僕が殺される!」

「ロイエ君! 私も手伝います!」

「お願いします! リュカさん!」


 仕方なく二人をまた軽くすると、リュカさんと協力し慌てて市長の後を追った。


「ここか?」


 見失ったけど、部屋のタグに市長室って書いてあるし、ここだよね? 大丈夫だよね? どうしよう! ダメだ早くしないと! ノックしちゃおう! コンコンコンコン!


「遅い!!」

「すいません!!」


 ドア越しに怒号が飛んできたので、慌ててドアを開けて二人を引き摺りながらリュカさんと部屋に入ると、市長アルノマーレが仁王立ちしていた。


 赤い真紅にオレンジのメッシュが入った髪は、炎を連想させ、ベージュンのブラウスと黒いスカートが、本人の我の強さを表しているようだった。


「まずは礼を言おう。市役所の前で食い止めてくれたおかげで人的な被害はなかった!」

「ありがとうございます!」

「次に! あたいが放った魔法で世界樹が燃えた!どうしてくれる!」

「ええええー! それ僕らのせいじゃ……」

「お前らが弱いから! あたいが出る羽目になったんだろが! 違うか?!」

「その通りです!!」


 もうダメだ。帰りたい……。とてもじゃないけどマスターのことを聞ける状態じゃ無い。しかし、あの魔法……恐ろしい威力だった。市長は、元々Sランク冒険者のミアさんと同等のレベルの冒険者と思われる。


「ナッシュの現状について教えよう。お前らには知る権利がある」

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