[ 205 ] 魔力回路

――村長がまだ意識不明のままで、病室で騒ぐわけにもいかない。悪いけどエルツとジャックには明日必ず訪ねるからと説得して帰ってもらった。


「ずいぶん仲が良いのね」

「あ、先生。すみません、騒がしくして……」

「いいのよ。少しくらい元気な方が好きだわ。それよりも――あなた。回復術師なのね」

「え……あの」

「隠さなくてもいいわ。あなたが寝てる間に計測させてもらったから」

「……」


 迂闊だった。属性測定器か……。この世界を旅してわかったことがある。人々の生活は中世のそれだが、あの属性測定器と騎士団が持ちギルド間での通信が可能になる通信装置だけが、異質な存在だ。


 科学がそれほど発展してないのにあれだけが、文明レベルが違いすぎる……。


「回復と重力のダブルね。王国に知れたら即連行案件だわ。彼ら回復術師や珍しい魔力回路が好きだからねぇ。ふふ」

「あの……。このことは内密に」

「安心して、これでも医者だからね。患者を売るような事はしないわ」

「……ありがとうございます」

「それよりも、なんかあなたの体の中……変なのよね」

「変……ですか?」

「なんて言ったら良いのかしら? 魔力の流れがおかしいわね」


 魔力の流れ……? この世界の医者ともなると患者のそんなことまでわかるのか。前世の医者の知識ではわからないところだ。


「ちょっと、おでこかして」

「……はい」

「うーん、さっきの男の子……。ハリルベル君がロイエは魔法を使いすぎて倒れたって言ってたけど、そうなの?」

「ええ、村長を救うためにずっと二つの魔法を使っていました……」

「なら、魔力の混線が起きてる可能性もあるわね……」


 魔力の混線? 回復と重力魔法を使いすぎて?ってことだよね。そんなことあるのだろうか。


「ええ。私ね昔、王都に住んでいたのよ。その時に研究所の人から聞いたことがあるの。ダブル持ちは稀に魔力回路の混線が起きると」

「起きると……どうなるんですか?」

「死んじゃうらしいよ」

「え……」


 し、死ぬ!? 魔力回路がどんな原理かわからないけど……。そんな簡単に?!


「たぶんいまギリギリのところなんだと思う。これ以上魔法を使うと……死ぬかも」

「えぇぇえ、ほ……本当ですか?」

「王都の研究所の人の話だから、信憑性は高いかも知れないわね。しばらく魔法を使うのは控えることね」

「わかり、ました……」


 魔法を使うな? そんな……。もし星食いとの戦闘になったら……。これからヘクセライで決戦だというのに。魔法が使えない? とにかくみんなに相談するしかない。


 不安を胸に抱いたまま、その日は病院で夕飯を貰い安静にして過ごした。


――翌日


「ロイエー! 迎えに来たぞー!」

「ハリルベルさん、病院ですよ。お静かに……。ロイエさんおはようございます」

「おはよう。ハリルベル、ロゼ」


 朝食を食べ終わって、朝の検診を終えた頃、二人は迎えに来てくれた。女医曰く、昨日より良くなってるけど無理は禁物とのことだ。


「ちょっと相談があるんだけど――


――え? 魔法が使えない?」


「そうなんだ。先生いわく、これ以上使うと魔力回路が焼き切れて魔力が暴走して身を滅ぼすと……」

「ええぇ……怖ッ」

「どうにかして治りませんの?」

「王都の魔法研究所に行けば、過去にそう言った事例の研究をしている人がいるとかで……」

「ロイエさん、行きましょう。王都に」

「俺たちの最終目的は王都だしな。それまでロイエは魔法禁止な」

「うん……」


 ハイネル村を襲ったやつも近くにいるはずだし、回復魔法なしで大丈夫だろうか……。不安はさらに深まるばかりだ。

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