[ 204 ] おかえり
「うぅ〜ん……。痛っ!」
「ロイエ!? 気が付いたか?!」
「っ……。ハリルベル?」
頭に鈍い痛みを覚えながら目を開けると、そこは病室だった。白を基調とした内装は清潔感があり、僕にとっては見慣れた風景だ。
「ここは、病院? 痛っ。あ……そうだ! ハリルベル! 村長は?!」
視線を巡らせるとハリルベルの背後、隣のベットにはハイネル村の村長が寝ていて、その腕には点滴が刺さっていた。
「はぁ……。よかったぁ」
村長の顔色が戻っている。医療の遅れているこの世界に点滴の技術があってよかった……。
「おい、ロイエ。落ち着けって」
「あぁ、ごめん」
「まったく……。お前もそれなりな病人だぜ?」
病人? 自分の体を見ても特に変化はない。頭痛は少し残ってるけど、そもそもどうしてここで寝ているんだっけ?
「いきなりぶっ倒れるから心配したぜ。マスターがレッドポーション持ってたけど、外傷じゃないから意味ないって言ったんだけど、無理やりお前に飲ませてたぜ?」
そうだ、思い出した。
「僕はナッシュを目指してる途中で倒れて……」
「ああ、それで店長が村長をおぶってここまで来たんだよ」
「重かったんじゃ……」
「俺たち火魔法使いにはアングリフがあるからな。力仕事なら得意な方だ」
筋力を上げる魔法アングリフ。それでも村長の巨大は重かったはずだ。あとで店長にお礼を言っておかないと……。
ガチャ
「あら? 起きたなら呼びにこいって言ったでしょ?」
「すみません」
部屋に入ってきたのは、細身の金髪の女性で白衣を着ていた。スカートが短すぎるが、どうやらこの病院の医者らしい。この世界で医者を見たのは初めてだ。
「どれどれ? うーん、ふんふん。まだ少し熱があるわね。あと半日寝たら退院しても良いわよ」
「いえ、もう大丈夫で……「医者の言うことは聞いてください、ね?」
「はい……」
クーアやアノマリーが効かないのは既に試したから、単純な怪我や病気じゃなさそうだ。熱があるなら寝てるしかないか……。
「んじゃ、俺はみんなにロイエが意識を取り戻したことを言ってくるから、大人しくしてろよ?」
「うん、わかった」
ハリルベルが出ていくと、部屋には村長と女医と僕の三人だけが残された。女医は村長の容体を調べているようだ。
「あの、村長さんの容体は……」
「ん? ああ、大丈夫よ。片手と足は治らないけど、命に別状は無いと思うわ。斬られてすぐに凍結させたのが幸いしたみたいね。やってなければ出血死してるところだわ」
「そうですか……。ありがとうございます」
「まぁこのまま目覚めないかどうかは、本人の気力と体力次第ね。何かあったら呼んで、隣の部屋にいるから」
「わかりました」
金髪のイケイケな女医は、呼び鈴を渡すと部屋を出ていった。いま何時なんだろ。外を見ると少し日が落ちかけている気がする。
「昼過ぎの……三時くらいかな? お腹空いたな……」
時間的に半日以上は寝ていたことになる。今まで毎日忙しくて、ゆっくり寝てることなんてなかったなと、物思いに耽っていると、耳を貫通するような声が病室を浮き抜けた。
「ロイたーーん!」
「よぉー! 久しぶりー! 元気か?!」
開けっ放しのドアから飛びしてきたのは、なつかしい顔ぶれ……ピンク髪のエルツ、金髪モヒカンのジャックだった。
「ふ、二人とも! しー! ここ病室だよっ」
「ごめんごめん」
「わりぃわりぃ」
キーゼル採掘場の親方の娘エルツ。僕がこの街に来て初めて知り合った女の子だ。一年前より少し大人っぽくなって、ショートヘアだった髪は肩ほどまで伸びていた。いまだにロイたん呼びなのか……なんだか恥ずかしいからやめて欲しい……。
飲食屋を営むジャックは、見た目が全く変わっていない。金髪のモヒカンはそのままだし、少し筋肉質になったかな?という程度。風の噂でエルツが結婚しただか、婚約したと聞いたけど、見る限りそれほど凹んではいなそうだ。
「ロイたん、いきなりナッシュからいなくなるなんて、ひどいじゃーん」
「ああ、そうだったね。ごめんよ」
「そうだぜ。俺たちにも一言もないなんてなぁ、あの夜は枕濡らしたぜ」
「色々と事情があってね……」
「ま、こうして無事な姿を見せてくれただけだも、よかったよ」
本当に懐かしい、キーゼル採掘場に初めて顔を出した時や、お金が無くてジャックの店で雇ってもらったのがまるで昨日のようだ。
「ふふ。長旅だったみたいだね。おかえり」
「ただいま」
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