[ 147 ] ミネラ

「さっさと帰れ!」


 すごい癖の強いお婆さんだ。いまからこの人と話をしなきゃいけないと思うと、気が重い……。


「あの、僕らギルドで依頼を見て来たんですけど、希少鉱石の採掘っていう……」

「そんなもん知らん! 帰れ!」


 え――。

 話すら通じないよー。

 チラッとレオラに視線を送ると、任せて!と腕まくりをして店に向かっていった。


「待ってよ。ほらこれだよ。依頼書。お婆さんが出したんじゃないの?」

「知らんというとるじゃろがー! ヴェルア!」

「あちち!」


 とんでもない婆さんだ。冒険者以外が人に向けて魔法を使うのは禁止されているのに。


「危ないじゃない!!」

「さっさと帰らんからじゃろが!」

「だからギルドの依頼で来たって言ってんでしょ!」

「知らんと言ってるじゃろが!」

「もー! わからずやー!」


 攻撃的な二人が話し合いなんて出来るわけなかった。


「あ、あの……二人とも落ち着いて」


「早く依頼を受理しなさいよ!」

「帰らんと騎士団を呼ぶぞい!」

「呼んでみなさいよ!」


 ダメだ全然聞いてない。とりあえず依頼を出してないというなら、何かの間違いかもしれない。


「レオラ、一度帰りましょうか……

「お婆ちゃん! 何してるのよ!」


 武器屋だか防具屋なのかわからない建物の中から、白いサラサラの髪をなびかせて、若い女性が飛び出してきた。


「ダメでしょ! お客さんに喧嘩売らないで!」


「ち、違うんじゃよ。こいつらは店に入らずにうちの前でぺちゃくちゃと……」

「ご、ごめんなさい。店の前で話していたのは事実です。僕らギルドから依頼を受けて来た冒険者です」


 お婆さんより話が通じそうなので、若い女性に依頼書を差し出した。


「あー、これね。私が出した依頼で間違いないです」

「え? それじゃあ、あなたがミネラさん?」

「はい、ミネラは私です。祖母がご迷惑をかけて申し訳ありません」


 このお婆さんじゃなくて、こっちの女性がミネラさんだったか……。よかった。


「僕は冒険者のロイエ、こちらは同じく冒険者のレオラです。この依頼についてお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 ギルドカードを提示することで、事態を理解してくれたらしい。お婆さんを店の前に残すと、店の中へと案内してくれた。


「本当にごめんなさい。祖母が……」

「いえ、大丈夫です」

「そうそう、元気があって良いじゃない」

「元気がありすぎるんですけどね」


店の中は外よりも酷かった。足の踏み場もないほどに様々な材料が転がり、作りかけの鎧や盾が散乱している。


「お恥ずかしい限りです。祖母も私も片付けが苦手で……」

「だ、大丈夫ですよ。それより依頼の内容って」

「はい、ここは元々父がやっていた武器屋でした。父はとにかく強い武器を求めて日々鍛治に精を出していました。そんな父の跡を都合と私も鍛治師を目指していました」


 ミネラさんが父の跡を継いで鍛治師として、ここで生計を……立ててるとは思えないが……。


「父が武器を作っていたので、店の品揃えにバリエーションを出すために私は防具を作りました」

「それで防具がたくさんあるんですね」

「ええ、父が亡くなってから私は防具しか作ったことがないので、武器屋としてやっていけなくて……」


 なるほど……。それで武器屋なのに防具ばかりあるのか。しかし武器屋のメッカで防具か、逆に売れそうな気もするけどな。


「防具売れないんですか? ここら辺で防具を売ってる店が少ないから、逆に人気ありそうな気がしますけど」

「それが自分の体に合うような防具ばかり作っていたので、女性用しかなく……」


 それは売れないかもしれない。チラッとミネラさんを見ると、豊満な胸が視界に入る。自分の体に合うようにか……。武器は兼用できても防具は難しい。


「それでなぜ、希少鉱石の採掘依頼を? 希少鉱石ってなんでしょうか?」

「はい、父が命と引き換えに持って帰って来た鉱石があります」


 すると突然、ミネラさんが自分の胸の谷間に手を突っ込んだ。


「わお!」

「ちょっ」


 ズボッと抜き出した手には、紐で結ばれた小さな緑の石が握られていた。


「これです。父は死の間際の遺言で、これをバスター鉱石と呼んでいました」

「これを採取してくればいいんですか?」

「どんな石なの?」

「そうですね……。お二人は何魔法が使えますか?」

「僕らは二人とも重力です」

「あ、それなら丁度良いですね」

「この鉄の塊を限界まで重くしてくれますか? ジオグランツはぴったり二倍まで重くできますよね?」

「ええ、そうですね」


 ミネラさんから鉄の塊を受け取ると、魔法をかける。


「ジオグランツ」

「どうですか?」

「どうと言われても、重くなりました」

「うんうん、では一度解除して、今度はこのバスター鉱石を持ったまま魔法をかけてください」


 言われた通りに、一度解除してバスター鉱石を握り再度ジオグランツをかけてみた。


「ジオグランツ」

「どうですか?」


 特に目ための変化はない。ただ……。


「さっきより少し重い?ような気が」

「そうです。このバスター鉱石には魔法を強化する効果があるみたいなんです」

「えええー! すごい発見じゃないですか!」

「でしょう? でしょう?」


 わずかな差だが、この小さなバスター鉱石でわかるほど効果が出てるなら、もっと大きな鉱石があればかなり違って来るのでは……。


「この鉱石はどこで取れるんですか?」

「アインザーム火山の火口だそうです」

「火口?!」

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