[ 224 ] ホルツガルネーレ
「ねぇ、ピラート」
「なんだ。親分と呼べ」
「僕たちは、もしかしてヘクセライに着くまでここで生活するのかな?」
ピラートと夕飯を食べ終えると、疑問に思ったことを口にしてみた。その答えを僕は薄々はわかっていたけど、やはり聞きたくない答えだった。
「当たり前だろ。港に着くまでやるんだよ。何言ってんだ」
ため息しか出ない。予定では、ロゼと同じ船室のベットの中で寝る予定だったのに……。心配して先ほどロゼが来てくれたけど、部屋に行けたら行くとだけ答えるしかなかった。
いや乗せてもらう代わりに仕事をしろという条件の、細かい内容を確認しないで返事をした僕も悪い。
「おい、その端っこの木箱、それだけ重いからもう少し軽くしろ」
「これだけ?」
「ああ、それだけだ」
今僕が軽くしてる木箱は20個ほどだ。ピラートはそのうち1個だけを軽くしろと言ってきた。そんな細かい調整したこともない。重力魔法は一律に掛けた方が楽だからだ。
「ど、どうやって一部だけ重さを変えるの?」
「は? そんな事も知らねぇのかよ」
「教えてください。親分」
「しょーがねぇーなー」
もし一部だけ重さを変えることが出来れば、僕の戦い方に幅がでる。これはなんとしても獲得したい。
「あー。そうだな、まずは頭の中に重力範囲を思い浮かべて、その範囲に縦横でマスを作って、その一部だけを意識して動かすんだ」
意外と理論派だった事にビックリした。てっきり、せいやー!ってやってうぉー!だよ!とか言われるのかと思ったのに……。僕は言われた通りに、集中してマス目をイメージしてその部分だけ軽くしてみる。
「もっとマスを小さくしろ。大きすぎる」
「は、はい」
さらにマス目を小さく絞り、狙いをつけた木箱だけを軽くする。
「お、いいぞ。出来てる出来てる」
「よ、よし……」
「慣れると一瞬でこれくらいは出来るぞ?」
ピラートの担当している木箱が一個飛びに軽くなったり重くなったりと、複雑な動きをし始めた。
「すご……」
「ははは。親分と呼んでもいいんだぜー?」
ピラートの魔力コントロールは、僕やハリルベルよりも高く、練度が低い代わりに培われたそのセンスはピカイチだ。
「ほら、やってみろって」
「え?! いまのを?!」
「当たり前だろ」
その夜、ピラートによる特訓は朝まで続いた。お陰で僕は四つ程度なら同時にコントロールが出来るようになった。これをどう戦闘に活かせるか、それは僕の課題だ。
――翌朝。日もまだ登っていない早朝。
船体を何かが強く打ち付けて、大きく揺れた。
「ピラート? これって何?」
「まずいな……。荷物は一旦置いてくれ。船が重い方が揺れが少なくなる」
僕は言われた通り、荷物をゆっくり床に降ろすと、貨物室を飛び出したピラートの後を追った。
甲板へ出ると、船長が大声で何か叫んでいる。
「右舷! 注意しろ! そっちに行ったぞ!」
「アイアイサー!」
船長の合図で船体の右側を覗き込むと、何人かの船乗りが魔法で水面を攻撃していた。やはり水中で何かが暴れて船体を攻撃している。
「船長! 何が攻撃してるんですか?!」
「ホルツガルネーレだ!」
「ホルツ……なんだって?!」
その時、右舷から悲鳴と共に何かが甲板へ飛び込んできた。その姿はまさにエビ。子犬ほどのサイズで、尻尾がネジのように捻れているエビが飛んできた。
「グレンツェン!」
船長の放った電撃魔法がホルツガルネーレに直撃して感電させると、ビックリしたホルツガルネーレは飛び跳ねて海へと戻って行った。
「くそ! やっぱり俺の魔法じゃダメか! 冒険者共! なんとかしろ!」
ものすごい丸投げが来たぞ。船長の雑な指示は今に始まった事じゃないが……。みんな騒ぎを聞きつけて甲板に出てきたが明らかに初めての光景に、みんな戸惑っていた。
「えへへ。私は海の上じゃ、基本的に無能なんだよねぇ」
特にお手上げ状態なのはテトラさん。土魔法使いは確かに海の上では無能以外何者でもない。なんせ土がないから……。
「ヘルブランランツェ!」
ボケっとするテトラを守るように、ハリルベルが針のように魔法を変形させて、海中から飛んできたホルツガルネーレを次々に攻撃している。
しかし、海面をよく見ると、その数は軽く50近い。僕らは、いつのまにかホルツガルネーレの群れに囲まれていた。
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