[ 242 ] 撤退

「おい! ゼクト! なんで重力止めた?!」

「向こうを見ろ。調査班がきている。多勢に無勢、一度引くべきだ」

「ちっ! 仕方ねぇな」

「お別れの挨拶しちゃおうかしらねぇ」


 ここで3人を逃していいのか。叩けるうちに叩くべきだ。調査班のバックアップもある。追い討ちするくらいなら今……!


「ゼレン・オルト・ツヴァイ・ヴェルト!」

「うお! 引っ張られる! あのガキ!」

「チッ……。ゼレン・オルト・ヴェルト!」


 横に掛かる重力魔法はゼレンしかない。同じ魔法なら装備の分、僕の方が強い! 

「仕方ない。ザイード! リシト!」

「任せろ! ヴァイスレーヴェ!」


 グロッサ相手にミアさんが使っていた魔法だ。あの時はザントシルドの中に隠れていたからわからなかったけど、親方が僕らを守ってくれた意味がわかった。


 ザイードが手をかざすと火魔法のブレンメテオーアと同じレベルの雷の塊が、上空に突如として現れた。


「おいおいロイエ、あれはやばくねーか?」

「テトラさん!!」


 回復魔法の練度★7、フリーデルシルドが展開中だとはいえ、どこまでダメージを軽減出来るかわからない。


「任せて! ザントシルド・オルト・ヴェルト!」


 地面から土が盛り上がると、僕らを次々とザントシルドが囲って行く。相性問題からこれが一番コスパの良い防御策だ。


「動かない。その選択で良いですかー?」

「しまった!」


 ザントシルドに囲まれて行く中、隙間からリシトが両手を僕らにかざすのが見えた。まずい水魔法には座標固定魔法があった。


「レプンケレットメーア・オルト」


 極大雷魔法に対抗するために出してもらったザントシルドが裏目に出た。守りとしては鉄壁だが、座標固定して水を発生させるレプンケレットメーアに対して相性最悪だ。


「ぐっ……ごぼ」


 ザントシルドの中に突如として水が発生。瞬く間にザントシルド内が水で埋まった。


 まずいこの状況だとテトラさんも土魔法を解除できない、解除すれば雷が降ってくるからだ。しかし、解除しなければ溺死する。僕の無詠唱重力魔法でみんなを浮かせる方法もあるけど、結局、雷にやられる。水と雷……。相手にするとこれほどやっかいだとは!


 一か八か外に出るしかないと覚悟を決めた時だった。


「リーゼファウスアルム・オルト・ヴェルト!」


 微かにザントシルドの外から声が聞こえると、突然ザントシルドが破壊され、身体をぐいっと岩の腕に掴まれるとらザントシルドから強引に取り出された。


「ごぼっ!ぶは!……ハァハァ」


 目を開けるとザントシルドの中にいたみんなも、岩の腕に掴まれて取り出されていた。恐らくアウス率いる調査班の手助けだとすぐに理解したけど、それよりもザイードの極大電撃が……頭上に無いことに驚いた。


「集団自殺でもしていたのか?」

「ゲホッ。いえ、ゼクト達が……」


 視線を戻すと誰もいない。やられた。

リシトの出したレプンケレットメーアは、座標固定で出した後、ザントシルド内に放置されて、そのまま逃げられたのか……。


「なるほどな。ルヴィド、君がいながら情けない」

「申し訳ない。アウス殿、助太刀感謝します」


 ルヴィドさんとアウスはずっと一緒だったからか、2人の距離はかなり近そうだ。


「はぁはぁ、いったいなんなんだよ」

「服がびちゃびゃですわ」

「ごめーん、どうしたらいいかわかんなかったー」

「いえ、判断が難しい状況でした。テトラさんありがとうございます」

「もう少しみんなが近くにいたら他の方法もあったんだけど、離れてたからザントシルドにしちゃった」


 テトラの判断は間違ってなかったと思うけど、また同じことをされた場合の対処法は考えておいた方がいい。


 ゼクトがあっち側についている事や逃した事よりも、みんなが無事だった事が嬉しい。それぞれの顔を確認していると、カノーネだけが不機嫌な顔をしていた。


「調査班騎士団アウス。来るのが遅いんじゃ無いか?もっと早く手助け出来ただろう、本当にこちらの味方なのか?」


 カノーネが白衣の水を絞り出しながらアウスに話しかけるが、どうにも険悪な感じだ。所長のカノーネにしてみたら、騎士団は古くからの敵対関係。王を裏切ったと聞かされても完全には信じていないのだろう。


「カノーネ所長、それは申し訳ない。なんせ街の周りでブラオヴォルフが大量に沸いていたのでな、それの対処に時間がかかった」

「ムギギキ」

「ぐうの音も出ませんね」


 元はと言えば僕らが魔吸石でフィクスブルートから魔力を吸ったのが原因だ。これ以上は何もいえない。むしろ調査班には感謝しかない。

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