[ 241 ] 練度
「ゼクト……?!」
「魔吸石は私達の所有物だ。貴様ら下等な民が手にして良い代物ではない」
重力? ゼクトは風属性のはずじゃ。まさか風と重力のダブル? それならナッシュの外でブラオヴォルフ相手に巨大な剣を振り回していたのも納得出来る。重力魔法で剣を軽くしていたのか。
ドゴーン! バリバリバリバリ!!
遠目に見えていたもう一匹のボスブラオヴォルフに極大の雷撃が落ちると、光の泡となって消えた。
「これでボスクラスかよ! 弱すぎるだろ!」
「さて、彼らにもサクッと死んでもらいましょうか。ねぇ? ザイード」
「ガハハハ! そうだな! リシト」
ゼクトの背後に控えた2人、痩せ細ったオネエ言葉のリシトと、ガッチリとした筋肉質のザイード。2人が一歩前に出ると、それぞれが右手を僕らに向けた。ま、まずい……。重力魔法は一度食らうと抜けるのが容易じゃない。
「ヘルブランランツェ・オルト!」
ハリルベルがなんとか抵抗するが、飛んだ魔法は彼らの手ではたき落とされた。それほどまでに魔力の差がある。
「やだわー、この程度の魔法なの? 動けないってことは、避けられない。窒息をプレゼント。レプンケレットメーア」
「水は電気をよく通すんだぜ? クラウンクロイツ・オルト・ヴェルト!」
座標固定で呼び出された水の泡が僕らを包み込んでいくと、無数の電気の剣が空に舞った。
やばい……。電撃で強制的に息を吐き出され、水による窒息狙い、体は重力で動けない。なんて凶悪なコンボなんだ……! 裂傷じゃないからクーアも全く効果がない。
水の泡に包まれる直前、一か八か。僕は手に握っていた白い魔石を、口に突っ込んだ。
……ドクン。
よし、前回と同じ感覚……!
体の中で何かが解けていくような…感覚!
身体中を……。魔力が巡る!
【回復魔法:フリーデルシルドが解放されました】
【回復魔法:リーべリーレンが解放されました】
回復魔法の練度★7と8が解放された!
なんとなくわかる……! これだ!
「フリーデルシルド!」
黄色い魔法陣が広がると同時に水の泡で僕らは包まれ電撃を受けたが、痛くて苦しかったのは最初だけで、魔法陣が広がるにつれて電撃によるダメージがほとんどなくなり、水の泡が小さくなった。
恐らく9割以上カットされてると思う。属性の弱体化魔法……恐ろしい強さだ。本来回復しか出来ないからこその性能なんだろうけど、ダブル持ちにとっては無敵に近い防御魔法だ。
「……あれ? こ、これって?」
「ロイエが、やってくれたのか?」
なぜか重力による影響はあまり消えないが、それでも水と雷のダメージはほぼ無効化されたと言っても良い。
「あらやだ、聞いてないわよぉ?」
「回復魔法の練度★7か。もう少し早ければいい実験材料になったのにな。ま、ゼクトの重力は効いてるようだ。なぶり殺してやる」
そういうことだ。ゼクトの重力は強力だ。今の僕では太刀打ちできない……。もう一つ解放された魔法を試してみたいけど、かといってフリーデルシルドを解くわけはいかない。
「ザイード、リシト。出し惜しみするなクローネを使え」
「はっ、てめぇが指図すんな!」
「まぁまぁいいじゃない、美味しいところもらえるなら」
「それもそうか。んじゃ、お片付けと行くか……」
「グレンツェンクローネ」
「ヴァッサークローネ」
雷の竜巻と巨大な渦潮が現れると一点に集まり収束して弾け、その中から雷の化身のザイードと、水の化身となったリシトが現れた。
「さぁて、覚悟しろよ。これ以上王都には近寄らせるなって王からの命令なんでな」
ゼクトだけでも強いのに、さらに練度★9のクローネ系魔法の使い手が2人も……。雷魔の化身と化したザイードはテトラさんで抑えられるかもしれないが、水のリシトを止めるのは至難の業だ。相性の良いミアさんはナッシュで動けないし……。
万事休すと思った時だった。遥か上空から馴染みのある女性の声が響いた。
「ハーハハハ! 楽しそうなのが揃ってるじゃないか!」
「ピヨー! ロイエー!」
アルノマール市長に、ピヨ! 2人が来た時だった。ゼクトの重力魔法が徐々に弱まり次第になくなるのを感じた。何事かと後ろを振り向くと、アウス率いる調査班がここへ向かって土埃をあげて進軍しているのが見えた。
「あらやだ。アルノマールちゃんじゃないの。お生憎様、相性が悪いんじゃないかしら? メルクーアレッタ・オルト・ヴェ、うお!! あっぶねぇなゴラァ!」
「危ない? どちらがですか」
魔法を唱えようとしていた水の化身のリシトの足元に、雷の手裏剣が飛んできて魔法詠唱を中断させた。そしてこの聞き覚えのある声。
「ルヴィドさん!」
「ロイエ君、お待たせしました」
「私もいるよー!」
「ミルト!」
「ロートと同じ練度★9が2人ですか、修行の成果を見せるには丁度良いですね」
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