[ 006 ] 初めての戦闘
「大丈夫。おいで」
洞窟から出ると、そこは滝の裏にある天然の隠れ家だった。こんなところで四年間も過ごしていたのか……。父と母はもちろん心配しているだろう。しかし、それよりも一緒に捕らえられているはずの兄さんがいない。そのことの方が心配だった。
「待って、伏せて」
ハリルベルの指示に従い、こっそりと岩から顔を出すと、崖下には捕えられた盗賊団や白い鎧を着た騎士がたくさんいた。
「あれは?」
「王国騎士団だ。盗賊団を捕らえに来たんだろう」
「え、合流しなくて良いんですか?」
ハリルベルと名乗った男は、彼らと同じ鎧を着ている。違うと言えば、彼は兜や脛当てもつけていないところだろうか?
「いや、まぁそれは後で説明する。とにかくここから離れて炭鉱の街ナッシュへ行こう。歩ける?」
「足枷が……」
「どれどれ、うーん。これは魔力式の足枷か。ちょっと僕の魔力では外すのは無理そうだな……このまま歩ける?」
「はい。いつでも逃げ出せるようにと体は鍛えておきました。これをつけていてもある程度なら歩けます」
「そうか。申し訳ないけどそのまま逃げるしか無い、頑張ってくれ」
彼が何者なのかもわからないが盗賊団より話のわかる人物なのは確かだ。王国騎士団とは逆方向に生い茂る林を進む事になった。いまは信じてるついて行くしかない。
足枷の重さがややキツくなった頃、前方に一匹の狼が現れた。完全にこちらに気付いている。
「あれは?」
「クソっ、こんな時に……」
僕の知っている狼とは毛並みの色が違う。サイズ感は同じだが色が青く、目が赤い。爪の長さも異常に長く、尻尾は二メートルほどある。そして明らかに僕らに敵意を向けている。
ハリルベルは腰の剣を振り抜くと、狼が吠えようと上を向いた瞬間に、一足飛びに襲いかかった。
ハリルベルの足が思ったより早かったのか、狼はとっさにバックステップで距離を取る。が、それを見越していたかのように速度を弱めずに疾走するハリルベル。
「ヴェルア!」
叫んだ瞬間、刀身が赤く燃え上がり横薙ぎの一閃が、狼の首を一刀両断。狼は小さな石となり地面に転がった。
剣が燃える? いまのも魔法?
「ぐっ……」
その場にへたり込むハリルベル。急いで駆け寄るとあの一瞬で狼から攻撃を受けていたらしく、太ももがえぐられて、おびただしい出血をしている。僕は咄嗟に足に触れて回復魔法を施した。
「え?! まさか、回復術師……?」
「あ、はい。一応」
「しかも、呪文を使わずにクーアを使うなんて……すごい才能だ。捕えられていたのも納得だよ」
「クーア?」
「君の使っている回復魔法の名前だよ。本来は呪文詠唱で体内の魔力回路を整えるんだけど、適性が高い人は呪文なしで行使出来るんだ」
クーア。それが僕の使っていた回復魔法の名前なのか。彼について行くことで次々と明らかになる事実。しかし、回復した直後、ハリルベルは顔面蒼白になっていた。
「ハ、ハリルベルさん大丈夫ですか?」
「ギリギリ魔力が残るように調整していたのに、なぜ……くっ」
ハリルベルは急いでポーチから青色の小瓶を取り出すと一気に飲み干す。すると、徐々に顔色が良くなっていく。
「それは?」
「ふぅ……ブルーポーションだ。少量だが魔力を回復させる効果がある」
なるほど。そんな便利なものがあるのか。そして魔力枯渇には思い当たり事がある。
「すみません。僕の回復魔法……クーアが原因だと思います。自分の魔力を節約するために相手の魔力を利用する癖がついてしまって……無意識にやってしまいました」
「そんな事も出来るのか。いや大丈夫だよ」
でも少しだけ休ませてくれと、その場に座り直したハリルベルに質問を投げることにした。
「今の狼、普通の狼じゃなかったようですが」
「モンスターを見るのは初めてかい? いまのはブラオヴォルフといって、穢れによって生み出されたモンスターだ」
穢れ? ブラオヴォルフ? モンスター? 知らない単語が飛び出たが、重要なのはモンスター。そんなものが存在する世界だったのか……。
「あいつは吠えると仲間を呼ぶ習性があるから、吠える前に倒せてよかったよ」
もう大丈夫だと、立ち上がるとハリルベルは先ほどの石を拾ってポーチへ入れた。
「それは?」
「魔石だよ。汚れの元でまたモンスターが発生するから集めておかないと」
まるで常識のように話されたが全く何のことかわからない。まだ顔が白いのに再び歩き出した彼の後を追って僕も歩き出す。
「あの……どうして僕を助けてくれるのですか?」
「すまない。君が回復術師だとわかったなら、尚更奴らに渡すわけにはいかない。いまはとにかく距離を稼ごう。この先に甘い森に洞窟があるから、そこへついたら話すよ」
頷いて彼の後を追って歩き出す。だんだんと足枷のせいで足の疲労が溜まってきたが回復魔法で直しつつ歩き続けた。
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