[ 039 ] ヘクセライ魔法研究所

 明日のナルリッチさんとの試作品の打ち合わせが何時間かかるのか分からないので、クルトさんとは明日の夕飯時に会う約束をして別れた。


 見回すと既にあたりは薄暗くなっており、空腹でお腹が鳴った。僕は公園を出て夕食を探すために、Bエリアの広場をうろついていると、一つの露店が目に入った。


『魔法都市ヘクセライの魔法研究所! 臨時出張中! あなたの悩みを一発解決! 無料!』


 これってミアさんが行く予定だった魔法の街ヘクセライの? 臨時の出張所……! すごく興味ある……。 けど、何か調べられて回復回路持ちだとバレた日には……国への報告だけではなく、研究のためだとか言って追い回されるんじゃ……。


「気になるけど……やめておこう」


 魔法研究出張所を後にして、僕は広場に近い焼き鳥屋の露店に入った。


 ここが一番安い。串焼き十本で銅貨二枚は、もはやどんな肉を使ってるのか不安になるほどだが、そんな事は気にしてられない。


 ふと、顔を上げるとナルリッチさんのレストランの目の前だった。店舗としては電気が落ちてるが、一階の厨房には明かりが灯っている。


「頑張ってるのかな……」

「何をですか?」

「あそこのレストランで新作を作ってるんですよ」

「へー、それは期待しちゃいますねぇ」

「きっとおいしい物が出来ますよって、誰?!」


 見ると隣には、金髪を後ろで束ね眼鏡をかけた白衣の女性が、僕の焼き鳥を食べていた。


「ごちんなってまーす。あー、おいし」

「ちょっと! それ僕の!」

「いいじゃないですかー、減るもんじゃないしー」

「ガッツリ減ってますよ! 三本も!」

「えー? ほんとー?」

「うわ、酒臭っ!」


 なんなんだこの人……。僕の泣け無しのお金で買った夕飯が……。先に食べるしかない!


「むしゃむしゃむしゃ!」

「あー! 私の焼き鳥食べないでくださいよー」

「僕のですうぅ! むしゃむしゃ!」

「えーい! 隙あり! ぴと」

「?!」


 え、これって……! 少し形状が違うけど、属性測定器?! お姉さんの白衣をよく見ると「ヘクセライ」ロゴが薄っすら見えた! まずい……回復魔力回路持ちだとバレた。


「おー? なになに? えーとこれはふごふごー!」

「わっ! だめ! しっ! あーもう!」


 属性測定器を奪い、彼女の口に焼き鳥を突っ込んで黙らせると、まだ残ってる焼き鳥に別れを告げレストランの裏まで彼女を引きずっていった。


「もぐもぐ! わぁお、拉致されるぅ〜」

「もう! 黙っててください!」

「はーい」


 レストランの裏に着くなり、僕は尋問を開始した。


「で、どこの回しもんですか」

「まわしもん? いやー、ただの研究員でっす!」

「本当ですか? なんで僕に属性測定器を使ったんですか」

「いやねー? 出張所を見てたから診察して欲しいのかなー? と思って、追いかけて来ちゃいました!」


 うーん、見た感じ王国騎士団や盗賊の仲間って感じでもないし……本当に善意の研究者なのかもしれない……。


「本当に研究所の職員ですか? 身分証ありますか?」

「お? 疑ってます? いいですよーほらぁ」


 お姉さんが見せた職員カードを、強引に奪い取った。

 

 リュカ・ベトルンケナー。二十八歳。確かにヘクセライ魔法研究所の研究員で、もう十年近く働いているらしい。発行月と去年の更新日付が入っている。


「わかりました……研究所の職員なのは信じます。で、属性測定器で何か見ましたか?」

「何もミテナイデス」

「見ましたよね?」

「……チラッとだけです」

「見たなら、誰かに話す前に死んで頂くしかありません」

「わー! やーめーてー! 軽い気持ちで、ピッとしちゃっただけじゃないですかぁ。珍しい魔法だからって殺す事ないと思いまーす! 誰にも何も言わないですから! 許して〜」


 リュカは手を擦り合わせて神に祈っている。


 どうよう……。僕が回復術師だと見られてしまった事を隠すには、もう彼女を殺すしかない……。けど、そんな事は僕には出来ない。かと言って誰にも言わないという彼女の言葉を鵜呑みにして信じる訳にもいかないし……。困ったな。


 うーん。とりあえず、僕ではこの人が危険な人なのか判断出来ないし、一緒にギルドに行ってマスターに判断してもらうのが確実かな……。


「リュカさん、僕と一緒にギルドに来て貰えますか?」

「はい! 何処へでも! あ、お酒もう少し欲しいです。えへへ」


 こうして僕は、酔っ払いのリュカさんを連れて、Bエリアから道のわかるAエリア、Dエリアを経由して西側のギルドへと移動した。

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