[ 012 ] 階段
ナッシュ門の厚みはおよそ五メートルほどで、途中に扉があった。恐らく先ほどの門番は賄賂を貰ってここで少しだけ休憩をしているのだろう。セキュリティとしては少し心配だった。
門を進むと出口にも門番がいたが、こちらの門番は門を通って来た者に対しては、確認等はしてないらしく「ナッシュの街へようこそ」とまで言われた。
この世界に来てから初めての街に、僕のワクワクは止まらない。どんな人がいて、どんな生活をしているのか、どんな出会いがあるのか。両親や兄さんがいるかもしれない……。
街に一歩入ると、ふわっと独特な土の匂いが漂って来た。あちらこちらからカツンカツンと何かを叩く音、蒸気が噴き出す音などが聞こえてくる。
人の流れが少ない通りとはいえ、九年間屋敷に隔離され、四年間洞窟にいた僕にとっては何もかもが新鮮でいろんな音があるだけで、夢のような光景だった。
「すごいね……人がこんなにいる……」
感動なのか砂埃が目に入ったのかわかないけど、なぜだか涙が止まらなかった。
「中央広場に行けばもっとすごいよ」
ハリルベルに付いてくと、どの家も煉瓦造りが基本らしく明らかに文明レベルが高い。国としても重要な街という話も納得だ。
「ロイエ、こっちこっち」
ハリルベルに呼ばれて振り向くと彼は階段の上にいた。そのまま視線を上げると階段に次ぐ階段! 大小様々な階段によって構成された街、それが炭鉱の街ナッシュ。
「はぁ――。足辛い……」
「が、がんばれ! としか言えない。ごめん」
人通りが少ない通りでよかった。狭い階段もあるからこんなゆっくり登っていたら後ろが詰まってしまう。
「俺の家も職場も街の上の方にあるんだ」
ハリルベルはスタスタと上がっていく。回復魔法を足に掛けながら進むと、やっと外壁の高さまで登ってきた。
「す、少し休ませてください」
「うん、なら後ろを振り向いてごらんよ」
言われて振り向くと眼下には、不規則に乱立した家々がまるでアートのように見えた。煉瓦造りの家が多いからもしかしたらここに両親や兄さんがいるかもしれない……。そう思うとあの人影もあっちの人影も家族に見えて仕方ない。
「あそこが鍛冶屋で、あっちが道具屋! あ! そこの奥にある赤い煙突の店は食事処で、フライシュ焼きが有名だよ」
ハリルベルの声がいつもよりテンション高いことから緊張が解けたのが窺える。逆に僕はいつ盗賊団や王国騎士団に捕まらないかとヒヤヒヤだった。
しばらく横移動や縦移動を、繰り返し迷路のような道を進むともはや帰り道はわからなくなった。これも敵が攻め込んできた時に役に立つのかもしれないが、僕のような新参者にはキツイ。
「どこへ向かってるんですか?」
「まずは俺の家に行こう。流石にその匂いと服だと、採掘屋の一階が飲み屋だから衛生面がね。エルツに怒られちゃう」
言われて気付く。髪は伸びっぱなしのボサボサで、たまに着替えを貰えていたとはいえ着っぱなしの洋服。風呂もたまにしか入れてもらっていなかった身体は、とても臭かった。
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