[ 231 ] 魔法研究所へ
――ハリルベルとシルフィはもう船を出ただろうか。
僕はリュカさんに街の説明を聞きながら、みんなの心配をしていた。ハリルベルはシルフィと一緒だから、まぁ最悪ほっといても大丈夫。ロゼも船を整備してから王都へ向かうと言っていた。
問題は店長とテトラさんか。店長はあの性格だから人がいるところなら職もある。どこでも生きていけるだろう。テトラさんはイマイチ掴みどころがわからないし、目的も不明瞭だけど悪い人では無さそうだ。
よく考えると心配するような人はいないな。みんなの事は各自に任せて僕は、騎士団の動向整理と王都への潜入と潜伏を考えよう。
「ロイエさん?」
「え? あ、ごめんなさい」
「お疲れのようですね。一度休んでからにしましょうか」
「そう……ですね」
考えれば昨日は寝ずに荷物を浮かせていたし、睡眠不足なのは確かだ。アクアリウムで足止めを食らっている調査班より、僕らの方が先行しているから、今すぐ戦闘になるような事はないだろう。
「いまのうちに休んでおきたいと思います。どこか宿を……」
「でしたら、魔法研究所でデータを採取しながら休んで頂いても良いです?」
「データ、ですか?」
リュカさんは頭をキョロキョロと見渡すと、僕の耳に顔を近づけて、こっそり喋った。距離が近すぎるのと、リュカさんの優しい声が耳をくすぐり、大人の香りもあいまって、すごく恥ずかしい……。
「私が回復解放軍という組織に所属しているのは、ご存知ですよね?」
あー、ナッシュを出る際にそんなことを言っていたような……。あれってどんな組織にだったっけ。
「なんとなく……」
「おさらいしましょうか。王が回復術師を世界各地から集めて研究しているのはご存知ですよね?」
「はい」
「それに不満を唱えたのが、このヘクセライの魔法研究所です。王都では回復魔法の研究が行われるのに、我々が行うと違法になるのはおかしいと」
確かに同じことをしているのに、王都の魔法研究所では適法で、ヘクセライの魔法研究所では違法なら納得いくはずがない。
「そこで我々が秘密裏に立ち上げたのが、回復解放軍です。捕まりそう、または捕まった回復術師を保護して、その見返りとして回復魔法の研究に協力して頂いてます」
「なるほど、回復術師自体が存在を秘匿して欲しいから、外部にその事が漏れる事はないと……」
耳の近くを手で覆っていたリュカさんが、突然僕の耳を舐めた。
「ひっ」
「あ、ごめんなさい。久しぶりにあったら結構男前になってて、ロイエさんの匂いにやられちゃいました。あはは」
あはは。じゃないっ。やっぱりリュカさんの貞操観念は少し緩いんじゃないだろうか。前もロイエにキスしてたような。
「僕、ロゼとお付き合いしてるんです。もうこういう事はやめてください」
「え! そうだったんですか? ごめんなさい、内緒でお願いします」
「はい……」
ハリルベルとシルフィじゃないけど、ロゼも結構嫉妬深いから誰にも見られてなくてよかった。
「では、魔法研究所へ向かいましょうか」
「……はい」
あんなことがあった後だからなんか怖いけど、この街で顔見知りはリュカさんしかいないし、彼女がいなければ魔法研究所にも入れない。我慢しよう。
船からも見えていたけど、こうして街中を歩いてみるとよくわかる。ヘクセライの街は横に長い。
ナッシュやフォレストみたいにエリアでは分かれておらず、港の近くに無計画に建物が建てられており街の境界も曖昧だ。
「リュカさん、ヘクセライって役所やギルドは……」
「ああ、ここは街として認められてないので役所も無ければ、ギルドとないんですよ」
「そうなんですか? 冒険者に依頼をしたい場合はどうしてるんですか?」
「その場合は、魔法研究所に来て頂くか、あれですね」
リュカさんが指差した先を見ると民間の壁に、ぴらぴらと紙のようなものが揺れている。
「個人受注です。冒険者の家に依頼の紙を直接貼り付けるんですよ」
「へぇー」
フリーランスみたいな働き方がここでは主流なのか。
「ギルドに縛られるよりも、ここで自由に冒険者をやりたいって人も多くて、ヘクセライには結構隠れた実力者がゴロゴロいます」
「認定されてないSランクなんかもです?」
「そうですね。だから王国も目の上のたんこぶなのに、なかなか手出しが出来ないんです」
こんな近くに街として認められてないので場所があるのに放置されてるのは、下手すると騎士団よりもヘクセライの方が強いからか……。こういう下町的な場所は前世でも横の繋がりが強かったな。
「ロイエさん、あれが魔法研究所です」
通路の先、港からも見えたけど、まるで電波塔のような歪な形をした紫色の塔が見えた。高さにして20メートルくらい建物5階建分はあるだろうか。
「おう。リュカ、そいつが例の奴か?」
塔の入り口に着くと、ボサボサに伸びたライオンみたいな髪型で、筋肉の塊みたいな男性が剣を構えて立っていた。
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