[ 232 ] フリー冒険者レーヴェ

「よう、坊主。お前がロイエか?」

「レーヴェ、あなたの任務は護衛よ。聞いてるの?」


 レーヴェと呼べれた男は、ニヤっと笑うと背中に背負った大剣を、僕に向けていきなり振り下ろした。


「ロイエさん!」

「ゼレン・オルト」


 ガキンッ!


 レーヴェの振り下ろした大剣は、ゼレンの横重力に引っ張られて僕から狙いが外れ石畳を叩いた。


「ほぉ、やるじゃねぇ、か?!」


 打ち下ろした大剣をそのまま切り上げて攻撃しようしたレーヴェに、異変が走る。


「重てぇ! なんだこりゃ!」


 無詠唱の重力魔法で、レーヴェの大剣を12倍の重さまで引き上げた。いくら彼が筋肉質でもこれだけの重さになれば、いつものように振ることは出来ないだろ。


「あの、もうやめてください」

「それじゃあ……これはどうかな?! ヴェルフリューネルア!」


 僕に向かって振りかぶった拳の先から、ヴェルアとは思えないほどの火炎が出現。恐らく風魔法で火を強化したんだ。僕は慌てずに自分の体重を軽くして、横へステップする事で交わした。


「ヒュー! やるじゃん! 俄然やる気出てきたぜ!」


 レーヴェが剣を持ち上げた時だった。


「アレストルム・オルト!」

「ぐっ」

「リュカ、テメェ邪魔すんなよ。今いいところなんだよ」


 見かねたリュカさんが、風の拘束魔法でレーヴェを拘束した。


「あのね。勝手なことしないで、彼は大事なお客様よ。説明したでしょ」

「あ? あー、そんなこと言ってたな。しゃーねぇな……フン!」


 パァン! レーヴェが気合いだけでアレストルムを破壊すると、剣を拾って僕の頭をグリグリと潰した。


「すまねぇな、坊主。久しぶりに強い奴が来るって聞いてな、思わず試しちまったぜ」

「い、いえ……」

「また後でやろうぜ? お前とはいい戦いが出来そうだ」


 ズンッ!と剣を魔法研究所の入り口に突き刺すと、レーヴェはまた警備へ戻った。後で聞いた話だが、レーヴェはフリーの冒険者で生まれつき火と風のダブル持ち、登録はしてないけど冒険者ランクでいうとAは確実との事だ。


「ごめんなさいね。ロイエさん、レーヴェが……」

「い、いえ大丈夫です。ちょっとビックリしましたけど……」

「フリーの冒険者なんてあんなもんよ。お金で雇われてても自分の欲求に忠実というか……」


 確かにあれだとギルドの細かな依頼とか、書類整理の類いは苦手そうだ。


 しかし、僕が今まで戦ってきたのは、比較的魔法をメインに戦う人だったけど、レーヴェみたいに己の肉体で戦う系の人とは戦ったことがない。身体能力で言ったら大人と子供だから、まともにやるなら魔法と戦略で勝つしかないな。


「ロイエさん、入りましょう。ここが魔法研究所よ」


 リュカさんに案内されて建物に入ると、中はドーム上のエントランスで、受付まで設置されておりキチンと片付いていた。


 建物の外には研究材料などが溢れていたし、失礼だけど研究者の巣窟なんて、汚部屋みたいなのかなと雰囲気を勝手に想像していた。


「おかえりなさいませ。リュカ様」

「ただいま、アードラー」


 アードラーと呼ばれた白髪の女性は受付から声をかけると、ニコッと笑って迎えてくれた。


「もしかしてそちらが?」

「ええ、ロイエさんよ。所長はいる?」

「それが先ほどマローネ様と研究室に入ってしまって……すぐにお呼びしましょうか?」


 マローネ?どこかで聞いたことがあるな。王都の研究所から助け出された女性……?だったかな。


「いえ、いいわ。長旅で疲れているようなので、ロイエさんには休憩していただいて、それからにしましょう」

「かしこまりました」


 受付のアードラーさんに挨拶をして、僕はリュカさんの後について階段を上がると、4階の小部屋の前についた。


「ここが私の研究室です。どうぞ」


 年上とはいえ女の子の部屋に入るのは初めてでドキドキしたけど……。案内された部屋は、汚部屋だった。


「あのリュカさん……?」

「あー、まぁ研究者の部屋なんてこんなもんですよ」


 いやいやいや、酒! ほとんどが酒の瓶! 研究材料みたいなのも落ちてるけど、ほとんどが酒だよ! 不審な目でリュカさんを見ていると、バツ後悪くなったのかゴミを踏んで部屋の中に入ると窓を開けた。


「わかりました! 片付けますよ! ロイエさんはこの机とベットと棚を魔法で重くしてください!」

「? いいですけど……」


 ここでも、船の中でピラートに教わった分散重力のやり方が役に立った。頭の中でイメージして家具周りだけを重くした。


「準備できました」

「じゃあやりますよ。フリューネル・オルト・ヴェルト!」


 唱えた瞬間、部屋の中に突風が吹き荒れ、次々に窓に向かって酒瓶やらゴミが飛んでいく。


 これか……魔法研究所の外に落ちてたゴミの山の正体は……。


「はい! 綺麗になりましたよ」

「そ、そうですね……」


 この人と結婚する人は相当苦労するぞ……。シルフィとは別の意味で戦慄した。どっちにしろハリルベルには地獄が待っているかもしれない。


「それではそこのベットに寝てくださいね。詳しい身体の状態を調べますから」


 こうして、リュカさんによる僕の健康診断が始まった。

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