[ 082 ] 樹上の街アスト

「リュカさん、このリフトは一日何回動かしているんですか?」

「すみません。私も詳しくは……」

「魔法リフトは十時、十三時、十六時、十九時の四回だぜ」


 リフトが上昇中、背後から声がして振り向くと、黒いフード付きマントに、腰に剣。黄色い髪で、耳には黄色い飾りをつけた青年が立っていた。ミアさんと似てる格好してるけど……。


「この街は初めてか?」

「ええ、あなたは?」

「よくぞ聞いてくれた……! 俺様は大英雄ミア様の一番弟子! ブリュレ様や! ……だぜ」


 なんで語尾を言い直すんだろ……。リスペクトしてるのかな……。


「その感じやと他の街から来たんか? 知ってるかミア様」

「ええ、リンドブルムの群れに街が襲われた時に助けていただきました」

「さすがや……ミア様。どうだカッコよかっやろ?な?な?」

「え? ええ」

「だよなぁ! まじカッケーよなー?! 痺れるー!」


 一番弟子だから似たような格好してるのか?


「馬鹿騒ぎしないでよ。バカ兄」

「そんな言い方はないやろ! プリン」


 よく見たら、ギルドにいた受付嬢のプリンさんも搭乗していたらしい。確かに二人とも髪が黄色く兄妹と言われれば納得する。


「二人は兄妹なんですか?」

「違います」

「違うわけあるかー!」

「ミアだかピアだか知らないけど、自称一番弟子の癖に、口癖まで真似ようと毎回言い直さないでよ。キモいダサい」

「あーん? ミア様バカにするなら、妹でも容赦せんぞー?」

「私に勝ったことないくせに」

「ほぉ、言ったな? 今日こそ兄の真の力を見せる時や! ……見せる時だ」


『まもなく樹上の街アスト。降りる方は左側通行でお願いします』


 兄妹喧嘩が始まりそうなタイミングで、到着のアナウンスが流れた。


 プリンはアナウンスを聞くとさっさと出口へと向かっていってしまい、喧嘩相手のいなくなったブリュレの視線がこちらに戻ってくる。


「あんにゃろー! 逃げやがって! ……逃げたか」

「そのキャラ疲れません?」

「うっさいわー! リスペクトしてんねん!」

「あの、僕らも用事があるので……」

「ほな、またなー!」


 なんか妹に負けを劣らずパワフルな人だったな。アストからランツェルへ降りると人リフトを入れ替わり、アナウンスの後、リフトは降りて行った。


「すごい力技ですね。魔法リフト」

「ええ、あそこに見える階段でも上がれるんだけど、みんな荷物を持ってたりするから、めんどくさくて使う人はいないらしいわ」

「確かに……これだけに荷物を一度に運べるなら楽ですね」


 樹上の街アストは意外と狭く、高級ホテルと高級住宅街。それと市役所しかない。僕らはリフトを出ると、真っ直ぐ市役所を目指した。


 ナッシュでは市役所に行かなかったけど、街を管理するための市長が滞在している。今回市役所を目指してるのは、市長に会うためだ。


 なんでもマスターの親戚らしく、四十代ながらフォレストのギルドマスターから市長へ、大抜擢されたらしく。もし行くなら挨拶をしておくと良いと言われたので向かうことにした。


「本日はどういった御用ですか?」


 四階建ての細長い市役所に入ると、早速受付のお姉さんが対応してくれた。それほど混んでいないようだ。


「あの市長に会いたいんですが……」

「申し訳ありません。あいにく市長は来年まで予定が埋まっておりまして……」

「え……えええ、そんなに忙しいんですか? 市長って……」

「はい、この街のあらゆる要望を受け、他の街との連携もしておりますか……」

「そうですか……」


 出鼻をくじかれてしまった。仕方ないどこかで会えたら挨拶だけでもしておこう……。


「みんなごめん、会えないみたいだから今日は宿に戻って早めに寝ようか」

「そうですわね。昨日も馬車の中で野宿でしたし」


『ビ――!! ビ――!! ビ――!!』


 僕らが市役所を出ようとした時、リンドブルムの時のようなアラームが街中に鳴り響いた。

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