[ 036 ] 西側の治安改善計画
「あの、ごめんなさい。養子になる事は出来ません」
「ですよね……。取り乱して申し訳ない……」
「ふぅ……」
この会話で、執事さんが一番安堵している。
「しかし、このままでは私の気が済みません! 現金を渡す以外で、私に何かできる事はありませんか?」
「そうですね。でしたら西側の治安改善を、市長に提案していただけないでしょうか?」
「どのようにすれば良いでしょうか?」
「いまギルドがあるのが西側です。僕は冒険者となって、たくさんの人を救いたいと思っています。ですが、ギルドのある西側には行きたくないと思う人もいます。このままでは依頼も少なくギルドも経営が立ち行きません」
さすがロイエ殿。素晴らしい……なるほどギルドの経営悪化にはそんなカラクリが、うんうんとナルリッチさんは話を聞いてくれている。
「いきなり全部は出来ませんので、まずはDエリアから西側のギルドまでの道を、改善させましょう」
ギルドの位置は西門からすぐの位置にあり、Dエリアからも近い。どこの世界も不良の世界では力関係が大事だ。
あいつは俺より弱いから虐める、強いから従う。西側からDエリアへの道の治安が改善され、Dエリアからとの動線が復活すれば、依頼が増え、冒険者が往来し、下っ端は静かになる可能性がある。
「商店街を作りましょう」
「西側には店を作るのですか?! 強盗などにあって終わりでは……? あ、失礼しました」
まだ西側の忌避感が抜けきっていないようで、つい失言が出てしまったナルリッチさんは、口を手で覆った。
「お金を稼ぐための店ではなく、人を雇うための店を出すんです」
「ふむ? 具体的にはどのような店を?」
「飲食店です。西側には飲食店が少なく、皆お腹を空かせています。でも食べに行くお金も、調理する能力も道具も材料もない。それが治安の悪くなる原因です」
「なんと――空腹が原因……確かに。わかりました。幸い私は、飲食店を多数経営しており得意です。すぐに土地を買い上げてトロッツアルターの人気レストランを建てましょう」
この発言には執事さんもピクッと反応した。土地を買ってレストランを建てるにはそれなりの資金や工期が長くかかる。
「それはダメです」
「大丈夫です。料金は安く設定します」
「そうじゃありません。西側の人間の心理はこうです。成金野郎が俺たちの土地を奪ってふざけた店を建てやがった。強盗しよう。です」
「なんと……やはりですか、ではどうすれば、私にはまったくわかりません」
「トロッツアルター出張露店を複数建てましょう」
「露店……ですか?」
「はい、露店なら土地を買い上げる必要もありませんし、比較的簡単に店が開けると思います。また商品も凝った物ではなく、たこ焼きと、焼きそばにしましょう」
「たこ……なんですか? その食べ物は、聞いたこともありませぬ」
そうか、この世界ではたこ焼きも、焼きそばもないのか……。とりあえず小麦粉っぽいものがあればなんとかなるはずだ。
「たこ焼きと焼きそばというのはですね……」
それから三時間ほど、僕はたこ焼きと焼きそばについて説明をした。話し合った結果、今日食べたメニューの使って、これと同じような食感でと、なんとなくで説明したが、さすがにレストランのオーナーともなると理解が早い。
「ふぅむ。大体わかりました。一度試作品を作ってみますので、後日ここで、打ち合わせをさせていただけないでしょうか? ロイエ殿のチカラを借りないと難しいと思いますので」
「大丈夫です。西側の治安改善のために頑張りましょう」
「ええ! 是非!」
会話が終わったのを見越して、シェフがデザートが運んできた。ナルリッチさんがレシピみたいな物をシェフに渡して、何やら指示を出していたが、どうやら今から試作品の開発に取り掛かるらしい。
ナルリッチさんとは、また明日のお昼にレストランで会う約束をして、レストランを後にした。
僕が店を出たのを確認すると従業員が、Closeの看板を表に出すと、ついでに「明日は臨時休業」という張り紙まで貼られた。シェフ達の頑張りに期待しよう。
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