[ 021 ] 属性適性試験
属性適性試験はギルドの中でやるらしく、僕とフィーア、マスターの三人はギルドの中に戻ってきた。
やはり何度見ても武器屋にしか見えない内装を眺めつつ受付の椅子に座ると。カウンターに置かれた属性測定器をマスターが手に取った。
「ロイエ君の属性適性試験じゃが、わしが担当しよう」
「え? いいですよ。ピッとやって終わりなんですから、私やりますよ」
「ギルドマスター命令じゃ、わしがやる」
「わ、わかりましたよ」
マスター命令とやらは強制力があるらしく、ヒゲジジイと罵りながら踏みつけていたフィーアですら、理由も聞かずにマスターに従った。
「ついでに面接もやっちゃうから、管理室に来てくれるかね?」
「は、はい……」
「まぁ、体力測定があれだけスペック高ければ属性適性試験も問題ないかー」
「そういうことじゃ、ギルドカードの用意を頼むでの」
「はーい」
そういってカウンターの下から何やら取り出して作業を始めたフィーア。マスターには、カウンターの向こうにある管理室とやらに案内された。
「こっちじゃ」
これはもしかして属性適性試験やらなくて済むかも? と淡い期待を胸に部屋に入るなり、希望は打ち砕かれる。
「ほい。ピッとな」
「あ……」
マスターは部屋に入った瞬間を狙って、僕に属性測定器を当てた。
「なるほどのぉ。……まぁ座るんじゃ」
ドアを閉めると、部屋の中央にあるソファーへとお互い腰を下ろした。バレちゃった……どうしよう。王国騎士団に通報されてしまうのだろうか……。
「薄々は感じ取っておったが、やはり回復術師じゃったか」
「え、わかってたんですか……?」
「さっきフィーアちゃんに蹴り飛ばされた時にクーア使ったじゃろう。昔パーティで回復術師と組んだ事があってな、魔力の流れに覚えがあったんじゃよ」
「うぅ……僕は王国騎士団に引き渡されるのでしょうか」
ハリルベルが言っていた。回復術師を王国に引き渡すと莫大なお金が貰えると……それを経営難のギルドが見逃すはずがない。
「まぁ、そう答えに急ぎなさんな」
「でも……」
「仕方ない子じゃのう。わしはお主を売るつもりはないのじゃよ」
その言葉に希望を抱いてしまった。だってもし王国に捕えられて生涯お抱えの回復術師として生きていくならそれは盗賊団のやってることと変わらない。そんなところで家族を探せずに一生を終えるくらいなら……と覚悟を決めていたところだった。
「どうしてですか……」
「そうじゃな。順を追って説明するかの」
「お願いします」
マスターはモジャモジャのヒゲを撫でながら、ゆっくりと僕が理解できるように話し始めてくれた。
「まず、お前さんの属性適性試験の結果を見てみようかの」
机の上に置かれた測定器にはこう記されていた。
『回復属性、短距離系、練度★8、適正★10』
「練度が八で、適性が10……?!」
「ホッホッホ。めちゃんこ高いのぉ」
フィーアのあの身のこなしで三なのに……。自覚してないだけで、僕にも色々出来るのかな。
「わしも長年生きておるが、これほどまでの回復術師には会ったことがないのぉ。クーア程度なら呪文詠唱なんかいらんじゃろ?」
「はい。クーアなら不要ですが……」
「ふむ。ロイエ君、君の過去をわしに話してみんか? 悪いようにはせん」
僕の過去を知っているのは 盗賊団とハリルベルくらいだ。あまり知ってる人を増やすべきじゃないとは思うけど、これから冒険者としてやっていくにしてもギルドマスターの協力は絶対に必要だ……。
「わかりました……信用して全てお話しいたします……」
フィーアが怪しむから手短にな。と言われてブラオヴォルフとの戦闘などは省いて、これまでの経緯を説明した。
「ふむ。ディアグノーゼのとこの隠し子とはの……なぜあんなに盗賊団の討伐にこだわるのかと思っておったが、そういう事じゃったか……」
「僕は、お金を稼いで強くなって、両親や兄を探したいんです。どうか力を貸してください……!」
ソファーから降りて土下座した。お金も地位も信用も何も無い僕に出来る精一杯の所作だった。
「大丈夫じゃよ。ちゃんと考えておる。まずはこれをちゃんとみてみるのじゃ」
「属性測定器ですか? 先ほども見ましたが……」
「ここじゃよ。1/2とあるじゃろ。次のページがあるんじゃ」
「え? それってどういう……」
言ってる意味がわからなくて理解が追いついていない中、マスターは属性測定器に表示されている矢印を押した。
『重力属性、短距離系、練度★無、適正★8』
「マスター……。こ、これは……」
「魔力回路は一人に一つが基本じゃが稀にいるんじゃよ。複数魔力回路持ちの『ダブル』と言われる者たちが」
「では僕は……」
「回復と重力のダブルじゃな」
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