[ 141 ] ピヨ?

「こいつが幽霊か? 本では半透明だと記載があったが……」

「いや、どう見ても違うと思いますけど……」

「幽霊じゃないピヨ」


 ピヨピヨ言ってる小鳥は、パタパタと飛ぶと僕の肩に降り立った。人語をしゃべる小鳥なんて聞いたこともない……。


「君、喋れるの……?」

「ピヨ」

「さっきの突風は君が……?」

「そうピヨ」

「語尾のピヨはわざとつけてるの?」

「意識しないと勝手についちゃうピヨ」


 小鳥は明らかに会話が出来ている。誰かが近くに隠れていて声を出しているわけではなさそうだ。


「あの、僕らはこの屋敷に幽霊が出るって聞いて調査に来たんだけど……。ここに来た男の人を追い返した?」

「私の家に勝手に入ってくるから、追い払ったピヨ」


 私の家か……。


「おい、鳥。ここに幽霊はいないのか?」

「幽霊? いないピヨ」


 ほとんど顔の表情が変化しないミアさんだが、わかるくらいがっかりしている。


「もうここに用は無い。帰る」

「あ! ちょっと! 店長に報告しないと!」

「あとは任せる」


 幽霊が見たくてワクワクしてたんだろう。ミアさんは僕と繋がっていた紐を解き、館を出て行ってしまった。


「えっと、君の名前は?」

「わからないピヨ」

「じゃあ、とりあえずピヨでいい?」

「おっけーピヨ」

「ピヨは風魔法が使えるの?」

「ピヨ」


 魔法が使える動物ってのは、モンスターくらいだけど、モンスターには見えないな。見た目は完全に普通の小鳥だ。


 ピヨの事も気になるが、店長への報告を明日に延ばすと、明日は明日で忙しくなるかもしれないから、今日中に報告して依頼を終わらせておきたいな……。


「悪いんだけど、ここから出ていってもらう事は出来る?」

「ここは私の家ピヨ」


 うーん、困ったな……。なぜかここを自分の家だと主張する小鳥のピヨ。この子がここを離れないと店長へ幽霊はいなくなったと報告出来ないな……。


「よし……ピヨ。僕と友達にならないか? 一緒に冒険しよう。ここにいるより、外の世界を見た方が楽しいし、美味しいものを食べられるよ」

「友達ピヨ? 楽しそうピヨ! ついて行くピヨ。この家はあげるピヨ」


 とりあえずこれで、この屋敷での幽霊騒動はなくなるぞ。


「よし、じゃあ一度出ようか。報告しなきゃいけないし」

「あの、私の事は秘密にしてほしいピヨ……」

「……わかった。僕に任せて」


 嬉しそうなピヨを肩に乗せたまま、僕は屋敷を後にした。店長になんて説明するか……。その言い訳を考えながら来た道を戻る。


「ピヨは、いつからあの家に住んでるの?」

「んー、わからないピヨ」


 肩で楽しそうにピヨピヨ言ってるが、どういう経緯で産まれた生き物なんだろう。この不思議生物について思案していると、噴水広場の店長の喫茶店についた。


――「ただいま戻りました」


「いらっしゃいませ! あ、お早いおかえりで!」

「報告に参りました」

「あれ?金の瞳の……じゃかなかった。ミア様はご一緒では?」

「彼は次の任務があると言って、現地解散となりました」

「はぁー。んだよ。いねーのか。ビビって損したぜ」


ミアさんがいないとわかると、いつもの気さくな店長に戻った。僕はこっちの方が好きだ。


「で、どうだった?」

「それが……。やはり幽霊がいまして、ミアさんが魔法で倒したんですが屋敷に少しだけ穴が空いちゃいました」

「少しだけ?」

「はい、少しだけ」

「はははは! 少しで済んだなら上出来だ! 金の瞳の死神に関わったら、もう原型も残らないと思ったぜ!」


 よかった。怒ってない。ミアさんの普段の暴れっぷりが逆に、今回の被害を小さいものだと誤認してくれた。僕は店長に依頼書を渡すと、確認欄にサインしてもらった。


「もう屋敷に幽霊は出ませんので安心してください」

「わかった。念のため館を確認したら、ギルドへ完了の報告をするからよ。報酬はギルドから受け取ってくれや」

「ありがとうございます。また何かあればご連絡ください」

「おう!」


――依頼を終わらせて店を出ると、もう真夜中だった。


 ギルドへ報告しようと思ったけど、既に営業時間が終わっていて真っ暗だ。今日はもうここまでだなと思い、ベンチへ腰を下ろすと、ピヨも僕の肩からベンチに降りて話しかけてきた。


「名前教えてもらってないピヨ」

「あ、そうだね。僕はロイエだよ」

「ロイエ? ……どこか懐かしい響きピヨ」

「そうかな? それで、君はどうしてあそこにいたのかな? もう一度説明してくれる?」

「わからないピヨ。気付いた時にはもうあの家にいたピヨ」


 記憶喪失? 鳥の脳は小さいからな……。


「何日前までまだ思い出せる?」

「うーん。男の人が勝手に屋敷に入ってきたのは、覚えてるピヨ」


 確か店長が最後に屋敷を訪れたのは、一週間前って言ってたな……。


「ロイエの家はどこピヨ?」

「あそこの宿だよ」

「でかいピヨね」


 僕は噴水近くの東側にある宿を指差した。ギルドが出資してるから安く泊まれるのだ。


「ロイエは、どこに旅する予定ピヨ?」

「あー。実は、この街で金貨を集めないといけないんだ。明日は仕事の合否が出るから、それ次第だけど、しばらくはこの街にいるよ」

「私も手伝うピヨ」

「本当? ありがとう助かるよ」


 猫の手も借りたいとは、よく言うけど鳥の手まで借りるとは……。ピヨがいれば大道芸で稼げるかな?


 ピヨをつれて宿屋に戻ると、濃い一日を振り返りすぐに眠りに落ちた。

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