[ 207 ] 新しい冒険者
ギルドに入ってきたその姿に、僕らは少しギョッとした。
身長はハリルベルほどだが、全身黒い洋服に僕と同じ銀髪。そして顔を覆うほどの大きな黒いマスクをつけていた。
「なんだ、あの仮面……」
「ちょ、ハリルベル。失礼だよ」
僕が仮面よりも驚いたのは、背中に背負った身の丈ほどもある巨大な剣。あの腕であれを振り回せるほどの筋力があるとは思えない。
「ゼクト様、いらっしゃいませ」
メイドのキキは仮面の人物と顔見知りらしい。僕らが来た時のように丁寧にお辞儀をすると、慣れた手付きでカウンターへ案内した。
「依頼は入っているか?」
少し高いトーンの女性の声……。仮面で顔はわからないがどうやら女性のようだ。
「あ、ゼクトさん。ちょうど良かった」
僕らとソファーに座っていたクルトさんが声をかけると、ゼクトと呼ばれた仮面の女性はこちらへ視線を向けた。
その黒い仮面は目の部分に赤いラインが引かれており、隙間から覗く瞳は……僕らのことを見た瞬間、見開かれた気がした。
「ん? なんか俺らのこと見てないか? ロイエの知り合いか?」
「いや知らないけど……」
僕と目が合うと、ふいっとゼクトは視線を切った。
「えっとですね。こないだの依頼ですが、やっと報酬が届きまして……」
クルトさんはゼクトとカウンターへ向かい、なにやら手続きをしはじめた。あの視線……気になる。
「どうしたロイエ?」
「ううん。なんでもないよ」
「それよりロイエが魔法使えないとなると、万が一のためにレッドポーション欲しいよな」
「あの、ハリルベル……」
「あ、わり」
魔法が使えないことは秘密にしようと言ったばかりなのに……。ゼクトとクルトさんはカウンターで何やら話し込んでるから、聞こえてはいないと思うけど、用心することに越したことはない。
「……では、ブラオヴォルフの討伐依頼ですね。お願いします」
「……わかった」
仮面の女は、そのまま依頼を受けるとギルドから出て行ってしまった。
「あの……クルトさん今の人は?」
「あぁ、ゼクトさん? 先週くらいからナッシュに来た王都の冒険者だよ」
「王都の? なぜこんな田舎に……」
「オレも聞いたんだけど、探し物があるとしか言わなくて……。あの様子だろ?依頼はちゃんとこなすし早いんだけど、やや寡黙で」
探し物……? なんだろうか。それよりもあの仮面をつけたままでは、依頼主にギルドカードの提示する際に受理を断られないのだろうか。
「あの人、ランクは?」
「あんまり個人の事を勝手に言っちゃダメなんだけど……。彼女の場合、有名だからいいか……ランクSだよ」
「S……?! ミアさんと同じレベルってことですか?」
「ああ、仮面のゼクトといえば、王都でも有名な冒険者らしい」
「らしい……?」
疑問ばかり浮かぶゼクトの話題について話していると、ギルドのドアを豪快に開けて、女の子が飛び込んできた。
「ウッスー!」
「テトラ様、いらっしゃいませ」
オレンジ色の髪にピンクのフードを被ったその子は、身長が低く見た目がまるで子供だが、腰に巻かれた剣が子供っぽさと相反していた。
「クルちゃんいるー?!」
「はぁ……なんですか?」
「おいおいー! 女の子相手にそんな嫌な顔するなよー! 傷付くでしょー!」
「はぁ……」
どことなくレオラに似ているけど、破天荒ぶりはさらに上を行きそうなオーラを感じる。きっと増えたという冒険者の一人だろう。
「ほい! 依頼終わったよ!どう?!えらい?!」
「もうですか?! 早いですね……」
「だっろー?」
「本当にやりました?」
「ひっどー! 冒険者の暗黙のルールでしょ? 疑わないのはー!」
「いつも早すぎるんだもん……。わかりました。依頼主に連絡します」
「うんうん! よろしくね! じゃあね!」
息継ぎ無しでずっと喋っていたテトラは、帰り際に僕らに気付いた。
「よっ! 新しい子? 三人も? いいねいいね! 困った事があったらお姉さんに聞いてね! じゃね!」
身長が僕より小さい癖にお姉さんぶって、出て行ってしまった。元気の塊みたいな人だな。
「まるで台風ですね……」
「う、うん。いい子なんだけどね。ちょっと人の話を聞かないところがあって……」
ちょっとならいいけど、全然聞かなそうだ……。ゼクトとテトラ。この二人が新たにこの街に来てくれた冒険者らしい。どちらも癖が強そうで、クルトさんの手腕が試される。
「彼女もこの街に新しく来た方ですか?」
「うん、彼女も王都から来たみたいで、ゼクトさんの事は彼女に聞いたんだよ」
「なるほど……」
「オレも元々他の冒険者のことは詳しく知らないし、前任者は引き継ぎなく辞めちゃっから」
確かに、アテル……前ギルドマスターは騎士団相手に暴れたのが原因で辞めさせられてしまったから、まともな引き継ぎをしてないのか。
マスターが戻ってきてる今だけでも、フォローしてもらえないだろうか。マスターに相談してみよう。
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