[ 004 ] 黒鎧
――「おい、起きろ」
「う……」
何かで突かれて目を覚ますと、僕は牢屋のような場所に閉じ込められていた。そして格子の向こうには先程殴ってきた黒鎧の男が巨悪な瞳で僕を見ていた。
「ひぃ」
後ろに下がろうとしたが、足が動かない。見ると足首に厚みのない黒いリストバンドのような物が巻き付けられていた。
「な、なんだこれ……足が重い」
逃走防止用の足枷なのか、力を込めれば少し動かせるがとんでもない重さだ。たぶん片方五十キロくらいはあると思う。
「グハハ! ようこそ。盗賊団の隠れ家へ」
牢屋の格子に顔を近づけた男は、いかにも悪者と言ったいかつい顔に、赤い短髪と太い眉毛、百戦錬磨を思わせるような筋肉を纏っており、とてもじゃないけど勝ち目はない。けど……負けちゃダメだと、力を振り絞って睨み返した。
「も、目的は何ですか……お金ですか」
「フハハ。強がっても声が震えてるぜ? 俺はガイゼルってもんだ。お前に恨みはないが拉致らせてもらったぜ」
僕の家は貴族だから狙われたのかもしれない。一応、執事は元冒険者でそれなりの実力者だと聞いていたけど……。
――『やったぜ、本物の回復術師だ』
確かに黒鎧はそう言っていた。お金が目的なら僕を生かしておく意味はない……。僕を拉致して身代金を要求するくらいなら皆殺しにして奪えば済む話だからだ。
「回復魔法が狙いですか……?」
「ハーハハ! 頭の回転が速いやつは好きだぜ。察しが早くて助かる。そう、今日からお前の仕事はただ一つ、ポーションのように俺たちを癒すことだ。……断ったらお前の兄貴は殺す」
両親の留守を狙って殺戮と拉致と問答無用の脅し……。まともな人間のする事じゃない……。ギリっと歯軋りをしながらガイゼルを睨むも鼻で笑われてしまう。
「に、兄さんに手を出したら許さないぞ……」
「ハッ、それはお前の働き次第だ」
ガイゼルが手を叩くと、松葉杖を突きながら一人の男がゆっくりとやってきた。
「親方、俺が最初でいいんですか?」
「ああ、かまわねぇ。ほれ小僧。こいつを治せ」
格子越しに、差し出された男の足を見た限り二週間ほど前に負傷したのだろうか、膿んでいて前世の世界なら最悪足の切断が必要かも知れない状態だった。
悪いやつでも怪我人は怪我人か……。僕は近づくのが怖くて、兄さんにやったよったように、男の足に向けて全力で回復魔法を飛ばした。
「お? おおおー! ひゃっはー! 治ったぜー!」
あれほどの怪我でも治るのか。改めて回復魔法の治癒力の高さに驚いた。でも、兄さんに遠くから回復魔法を飛ばした時と同じで、なんかいつもより疲れが酷い……いままでは小鳥とか擦り傷くらいしか治してこなかったからなのかな……。
「ほぉ、呪文も無しにやってのけるとはな。よーし次だ! ザターシャ! こっちこい!」
「ま、まだやるの?!」
「あ? 当たり前だろ。誰が一人だなんて言ったよ。嫌ならやめて結構だぜ? 兄貴が死ぬだけだがな」
「兄さんもここにいるんですよね?」
「ああいるぜ。さっさとやれ」
次の盗賊は腕を折られたのか、首から布を掛けて右腕を固定していた。この男に対しても僕は牢屋の奥から回復を飛ばした。
その瞬間……当然体調が悪くなった。
うう……気持ち悪い。感覚でわかる。二人目を癒したところで魔力が尽きたのだ。僕はどしゃっと膝から崩れ落ちた。
初めての魔力枯渇は、手が震え、寒さが収まらず、吐き気もあり、このまま死ぬのでは無いかと思うくらい酷い症状だった。
「はぁはぁ……おぇ」
「ちっ、たった二人でギブかよ。明日もあるからな!」
――こうして、僕の牢屋生活は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます