[ 059 ] ギルドカード

「マスター、一つだけお願いがあります」

「材料にする金貨のことじゃな?」

「そうです」


 初めてギルドを訪れた時に、こんな説明を聞いた。


――ギルドカードの材料が金貨三枚なんじゃよ……三枚は材料、一枚は国へ残り一枚はわしらの取り分となっておる――


 マスターはこのように言っていた。


「ならジャックの店で稼いだ金貨は国への税金へ。リーラヴァイパー討伐で稼いだ金貨と、テトからもらった三枚のうち二枚の合計三枚を材料に。残り一枚テトからもらった金貨は、ギルドの手数料にしてください」

「わかった。そのようにしよう」

「俺の金貨がギルドカードになるのか?!」

「ああ、テトのおかげだよ」

「よかったなテト」


 一緒にカードを作るところを見てみたいと、テトとナルリッチさんも一緒にギルドへ来てくれた。


「ロイエ君、重力魔法は練度★三になったな?」

「はい。ばっちりです」

「よかろう。では属性測定器でピッと」


 重力属性、短距離系、練度★三、適正★八


「よろしい。一ページ目だけを……」


 こそっと何か聞こえたが、聞こえなかったことにする。


「この道具に、属性測定器の結果と三枚の金貨をセットしてと、ぽちっとな」


 マスターの魔力を受け、大型の道具がゴウンゴウンと動き出す。プシュープシューと煙を上げたと思ったら、パカッと蓋が開き、金色に輝くギルドカードが姿を表した。


「これが、僕のギルドカード……」

「ウォー!カッコいいなー!」


 マスターがカードを取り外すと、そっと僕に手渡してくれた。クレジットカードと同じくらいの厚さのカードは、金貨を材料しているため、鈍い金色に輝いている。


「裏に情報が書いてあるじゃろ」


 カードを裏返すと、いくつかの文字が書いてある。


ランク:G

名前:ロイエ

性別:男

属性:重力、短距離系、練度★三、適正★八

発行:ナッシュギルド アテル・ロイテ


「このアテル・ロイテっていうのは」

「わしの名前じゃよ」

「名前あったんですね……マスター」

「当たり前じゃろ」


 それにしても、これがギルドカードか。手にするまで、長かったような短かったような、濃い毎日だった。

僕がこの街に来てから、まだ十二日しか経っていない。


「これは冒険者になった者、全員へ配ることになってるんじゃ。付けてみなされ」


 マスターから定期入れのようなカードホルダーのついたベルトを貰った。冒険者はこれにギルドカードを入れて持ち歩くのが一般的らしい。そういえばハリルベルも腰から下げていた気がする。


「うむ。おめでとう。これで晴れてお主は冒険者になった。胸を張って良い。実力は十分じゃ」

「ありがとうございます!」


 隣で、テトが頭の上で腕を組んで満足げに笑っている。これは褒めろって合図だな。だんだんとテトの事がわかるようになって嬉しい。その半面、もうお別れをしなきゃいけないことが、少し悲しい。


「へへー、俺のおかげだよな?」

「うん、テトのおかげだよ」

「さぁテト、そろそろ我々はお暇しよう」


 ナルリッチさんがテトの手を取って入り口へと歩き出した。それに嫌々引っ張られるテト。


「えー、まだいいじゃん」

「ギルドは冒険者になった者に、規約の話をしなきゃいけない決まりがある、お前はまだ聞いてはいけないものだ」

「そうなのか、わかったよ。じゃあな! 約束忘れんなよ!」

「うん」


 聞き分けのよくなったテトが、ブンブンと手を振るとギルドを後にした。テトの金貨三枚には本当に助かったし感動した。約束を守らなきゃな。


「さて、ロイエ君。冒険者になった君にいくつか伝えなきゃならん事がある」

「はい」

「まず、ギルドカードと呼ばれるそのカードは、正式には受託依頼許可証と呼ばれとる」

「どういう意味なんですか?」

「その遥か昔、ある農家が街に討伐の依頼を貼ったんじゃが、複数の人が私が倒した俺が倒したと言い出してきてな、収集が付かなくなったのだ」

「そこでギルドを作ったんですね」

「さよう。誰が依頼して、誰が受託したのか、本当に倒したのか虚偽の申告をしてないか。それを明確化させたのじゃ。また信頼度を図るために、ランクというものが存在しておる。言わばランクは強さと信頼度の高さを示す」


 僕のランクはG、登録したばかりなのだから当たり前だ。信頼度は最低限練度★三の強さはあると保証されてる以外何もない。


「ランクは、もちろん依頼人の評価で上がったり下がったりする。それと冒険者はギルドカードを持つ事で、殺人が罪に問われない場合がある」

「どうしてですか?」

「悪い盗賊などを殺して、その度に投獄されたのでは世界の損失になるからじゃ」

「なるほど……」

「うむ、盗賊団からの護衛任務などもあるからな、ゆえにギルドカードを殺人許可証などと言う者もおる。まぁそれは気にせんでええ」


 考えても見なかった……。荷物の輸送護衛任務なら確かに実際に襲われたら依頼人を守るために、人を殺さなきゃいけない。それが僕に出来るのか。やらなきゃやられる世界で……。


「それとギルドカードを見せれば、いろんな店で割引を受けれるし、カードがない入れない場所も多々ある。これはそのうち実感するじゃろう」

「わかりました」


 金貨を材料にしてるからか、少し重いギルドカード。これが今後僕の冒険を助けてくれると思うと、すごく心強い。


「依頼をこなした後は、先ほどのカードを作った道具にカードを入れて、ギルド職員がポイントを加算する。ポイントが一定に達すると自動的にランクは上がって再度刻印し直されるのじゃ」

「と言うことは別のギルドで依頼を受けても問題ないと言うことですね」

「左様じゃ」

「ランクが上がった際の説明は、その時に聞くが良い」

「わかりました」


 ギルドカードの説明が終わると、明日は日が昇る前にギルド前に集合するように言われた。ただあまり多くの人に街を出ることを言ってはならないと、王国騎士団があちこち聞き回る可能性もあり、ポロッと言ってしまうからと。


 実際、言えるのはハリルベルだけかな……。エルツやロゼ達には悪いけど、僕がナッシュを出る事を知ってる人が少ない方が良いのは確かだ。知って黙れば共犯者になる、みんなを巻き込むわけにはいかない。

 

 僕はギルドを出ると、ギルドカードと共に新たな一歩を踏み出した。

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