[ 103 ] 脇道
「もうすぐで、目的のフィクスブルートです」
御者の声が馬車の中に聞こえた。日が上り切る前から馬車を走らせて、御者が言っていた昼前には着きそうだ。
「……ふ。赤き黄昏が我をいざなうぷ」
「ブリュレさん、馬車酔いひどいんですか横になっててくださいよ」
「はい……」
フィクスブルートが近づくにつれて、硫黄臭さが漂って来た。
「……火山が近いんですかね?」
「丁度、目的地のフィクスブルートから西側、あなた達が行く方にはアインザーム火山があるからね。別名、孤独山と言われてるこのへんの名所ですよ」
「ルヴィドさん……この地図、まさか火山の頂上を指してませんよね……」
「ロイエ君、あまり考えない方が良いかもしれないですよ……」
「くっさーい」
だんだん臭いがキツくなる中、フィクスブルートがその姿を見せた。その色は、ハイネル村で見た煌びやさなど微塵も見せず、ただただ黒ずんでいた。
「非活性化してますね……」
「ここもやられた後のようですね」
ナッシュのフィクスブルートもいつやられたかわからないけど、非活性化していた。ハイネル村は、村の奥にフィクスブルートがあったから星食いに知られていない可能性がある。恐らく今頃は、ガンツさんあたりが警備に当たってるだろう。
「ヒヒーン」
馬が嘶き馬車が止まった。
「目印のフィクスブルートに到着です」
ここからは徒歩だ。問題なのはどれくらいの距離かという事……。仮に二日程度なら良いけど、それ以上かかる場合はまず食料がない……。目的地が森や川なら木の実や魚なども期待できるが、火山とは……。
馬車を降りて、巨大なお土産を屋根の上から下ろした。問題はどうやってこれを運ぶか……。
「ロイエ君、荷物はひとまとめにした方が重力魔法をかけやすいですよね?」
「そうですね」
「じゃあ、私たちの荷物もひとまとめにしちゃいましょう」
魔法をかけたお土産は、少し風が吹いただけでうろうろして木々に引っかかって邪魔なので、僕の背中に他の荷物と一緒にくくりつけることになった。
「はたからみたら、意味不明ですよね」
「そうですね。戦闘は無理ですね……」
「滑り台おもしろーい!」
「ミルトやめなさい」
数日分の食料と巨大なお土産を背負うと、酔ったブリュレさんを乗せて馬車は出発してしまった。
「ロイエ君、もうこれで進むしかありませんね」
「そうですね。日が出てるうちに行けるところまで行きましょうか」
「遠足だっ! いこーう!」
それからは手書きの地図を頼りに、まっすぐ西へ山道を進むだけだったが、獣道程度しかなく、荷物は引っかかるしミルトははしゃいであっちこっち行くしで大変だった……。
「あの、ルヴィドさん。カルミールベアと戦った後からミルトの知能指数下がってませんか? 最初会った頃より幼児化しているような」
「お、鋭いですね。原因はわかりませんが能力を酷使した後、ミルトはしばらく知能指数が著しく低下するのです。数日すれば戻ります」
このミルトのお守りをずっとしてきたルヴィドさんを尊敬するよ。リュカさんの幼馴染って言ってたから、確かリュカさんが二十八だったよね。ルヴィドさんは三十才くらいか。地球だったら子育て世代だな。
「疲れちゃったー、おんぶして欲しいなー」
「え……。この山道で?」
「あー、その方法がありましたか……。ロイエさん私もおんぶしてください」
「ええええぇええ! な、何言ってるんですか。ルヴィドさんも赤ちゃんになりたく……」
「どんな勘違いしているかわかりませんが、ジオグランツがあるじゃないですか、お土産とミルトと私をまとめて範囲で無重力にすれば、歩くのはロイエ君だけで済みます」
「そんな……っ」
「あとで、交代しますから」
こうして、お土産を背負いその上にルヴィドとミルトを乗せ山道を進むことになった。足腰の強い僕が一番の適任であるのは間違いないけど……。
「あ、もう少し登ったらとりあえずこの山の頂上ですね。頑張ってください。アインザーム山が一望できると思います」
ミルトはお土産の上でへの字に折れて眠っているし、ルヴィドさんが方向の指示してくれるので、迷わずに進めてるからこの構図が理に適ってるのは確かだけど……。
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