[ 088 ] 怪盗ノワール現る

「ルヴィドさん! さっきの花火はなんですか?! 何を隠してるんですか?!」

「付いてきてしまいましたか、ですが今は説明してる暇がありませんので……」


 僕とハリルベルの肩に手を置いたと思ったら、ルヴィドは「ゼクスト」と唱え不意打ちの雷魔法を喰らってしまった。


「ぐあああ! か、体が……動かない」

「危ないので来ないでくださいね? ガンツ行きましょう」


 僕らを置いて、ガンツとルヴィドはギルドに入って行った。くそ! せっかくの糸口が! なんとか麻痺を早く解こうと身体中に魔力を巡らす。


「解けた! ハリルベル急ごう!」

「俺はまだダメだ! 先に行け!」


 仕方ないので、ハリルベルを置いてギルドへ飛び込むと受付のプリンさんとシルフィさんはおらず、何かの装置をルヴィドさんがギルドマスターのルーエさんから奪い取ったところだった。


「あーめんどくせ。それ返せよ」

「そうはいきません。やはり貴方でしたか、ルーエシュタント・フェアラートさん」

「ルーエさん! なんでこんな事を!」

「ガンツ……てめぇ」


 何がどうなってるんだ? 状況を把握するのに精一杯だったところに、ルヴィドの背後の壁から妙に明るい声が響いた。


「このへんかな?! ドルック!」


 ボゴォオ!と壁を破壊しながら現れたのは、全身黒い服に黒マント、顔には白い仮面を付けた小柄な人物……怪盗ノワールだ。


「あ! それ! わたしの探してたやつ! フリューネル!」


 ノワールはビュン!と風魔法で高速移動すると、ルヴィドさんの持っていた謎の装置を奪い取った。


「わー、とられたー」


 なんだその大根役者なセリフは……。ルヴィドさんとノワールはやはり繋がっていたのか? というか、あの小柄さとあの声とテンション……ルヴィドさんと繋がりがあると言ったらミルトしか……。


 しかし、噂通り土魔法練度★2のドルックと、風魔法練度★1のフリューネル使った怪盗ノワールは、土と風のダブル確定となると、属性測定器で水だったというミルトはノワールの正体ではない。しかしあの声……。


「次から次へとめんどくせぇ……。メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト」


 ルーエがバッと手を振ると、近くに無数の水の玉が集まり出した。この詠唱は……水魔法の練度★5?! しかもオルトと上級者達が使うヴェルトの接続詞まで付与されてる! 恐らくヴェルトは範囲拡大の魔法……避けようと足に力を入れるよりも速く、怪盗ノワールの魔法が発動した。


「グリーゼル」


 怪盗ノワールから発せられた吹雪が、ルーエの近くで浮遊していた水の玉を次々と凍らせて砕けた。練度★1の魔法は練度★5よりも弱いが発動速度が速い特徴がある。属性の相性が良ければこんな事も可能なのか……!


「めっどくせ! 氷まで使えんのかよ!」


「にっしっしー。水の練度★5だろうと、氷の練度★1で実は完封出来るんだよねぇ。相性が悪かったね!」


 怪盗ノワールは、実に楽しそうにルーエの水魔法を妨害したが、ノワールは土、風、氷と既に三種類の魔法を使っている。ダブルではなくトリプルだとでもいうのか?!


「さぁ! トドメだよ! ヴェルア!」

「ヴァッサー!」


 驚くことに怪盗ノワールは火魔法すらも放った。もはやなんでもありだ。しかし、ルーエはそれを水魔法練度★1の魔法で防ぐと、水と火のぶつかり合いで大量の水蒸気が発生した。


「わー! 見えない! 見えないよー?!」

「うーん。いまのは選択ミスですねぇ」


 霧が晴れるとルーエのいた足元に人が通れそうなほどの穴が空いていた。逃げたか……。


「残念、逃げられてしまいましたね」

「そいじゃ! わたしもばいばーい!」


 またフリューネルを発動させて、壊して入ってきた壁から怪盗ノワールはマントをひるがえして逃げ出した。


「待ってください。ルヴィドさん、説明してもらえますか?」

「何をですか?」


 まだ水蒸気で蒸し返えるギルドの中、ルヴィドは外に出ようとゆっくりと歩き出したので、呼び止めた。


「ルーエさんが、モンスター発生装置の持ち主だったんですね?」

「そうみたいですね。ガンツ君が見つけて密告してくれたので、駆け付けたのです。何かおかしいですか?」

「いえ、問題は怪盗ノワールと封印教団の関係性です。ノワール、いえ……ミルトは、なぜあんなに何種類もの属性が使えるのですか。ロゼさんをどこにやったんですか」


 ルヴィドがニヤリと、不気味な笑みを見せた。

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