[ 018 ] フィーアとマスター

「ごめんなさい。姉様……お見苦しいところをお見せしてしまって」

「いつものことじゃん」

「違います! 今度は本気で辞めるんです!」


 僕がイメージしてたギルドは、カウンターがあって受付嬢がいて、世紀末みたいな冒険者がお酒を飲んでいて、「ガキはとっとと帰んな」とか言われると思っていた。


 実際は、外見も内装もまるで武器屋のようだ。お世辞にも広いとは言えない狭さだった。


「エルツさん、あの方が受付嬢ですか?」

「そうそう。フィーアちゃん」

「辞めるって言ってましたけど……」

「ああ、いつも言ってんのよ。気にしない気にしない」

「となるとあの方がシュテルンさんですか?」

「シュテルンさんをあんな変態ジジイと一緒にしないで」

「すみません……」


 シュテルンというのは、エルツにとっては信頼のおける人物らしい事が、会話の端から見て取れた。


「ねぇ。シュテルンさんは?」

「その……サブマスターは他の支部に引き抜かれて……」

「まじ?」

「私に挨拶もなしに?」

「そ、それは――」

「ちなみに、私の出してる依頼についてはなんか言ってた?」

「それも込みで他の支部に行くことを承諾したようです。エル姉様には心配かけたくないからと先週出て行きました……すみません」

「むぅ、なら仕方ないか……」


 何かエルツはシュテルンという人に難易度の高い依頼を出していたみたいだ。依頼達成のために他の支部に移動する必要があるなんて、どんな依頼なんだろう。


「そっちの若い子はどなたかね?」

「あ、そうそう本題はそっちよ」


 長い白髭をモシャモシャと手でほぐしながら小さいおじいさんが、話しかけてきた。変態ジジイって言われてたけど、恐らくこの人が話の流れ的にギルドマスターなんだと思う。ちゃんとしなきゃ……。


「は、初めまして。ロイエと申します。この度は冒険者になりたくて、ギルドカードの発行をお願いにまいりました」


――って、言えとエルツに言われたけど。雇用の話は?


「なんじゃと!? それを早く言わんか!! フィーアちゃん、ほらお客様じゃ!」

「むぅ、仕方ないですね。今日だけですよ……ぶつぶつ」


 ウサ耳を揺らしながら、フィーアがカウンターの向こうへ移動するとこちらへ向き直った。フィーアは僕と同じ銀色の髪で身長も同じくらいと、妙に親近感の沸く容姿をしている。メイド服も可愛い……。


「い、いらっしゃいませ! ご主人様っ」

「くっ」


 や、ヤバい――首を傾げてニコッとスマイルを飛ばすフィーアの破壊力にやられそうになった。


「ちょっと待ってくださいマスター! やっぱり引かれてるじゃないですか!」

「いや! 後一押しじゃよ! ほら説明!」


 するとフィーアはカウンターの下から何やらチラシを何枚か出してきた。チラシには冒険者の試験内容について書かれていた。


「えーとですね。冒険者になりたいとのことですが、いくつかの注意事項や試験があります」

「は、はい……」

「まずは志願者には、体力測定試験を受けていただき、その後に属性判別試験、最後にマスターとの面接になります」

「わ、わかりました」


 体力測定は足なら自信あるけど、腕力試験だったら詰む……。これはどの試験も厳しそうだ。特に属性判定試験はどうしよう。回復術師である事はバレちゃいけない。どうしよう。

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