[ 178 ] 破壊剣

 上昇による風の抵抗で身体中が痛いし、息が苦しい。


 前回と同じくらい上空へ上がると、僕は腰の鞘から破壊剣ゼーゲドルヒを抜いた。


 超高速で振動する破壊剣。これに落下による運動エネルギーと重力魔法による過重を加えれば、ボスハルトスコルピオンの外装を砕けるかもしれない。むしろこれ以外に方法が思いつかない。


 上昇中にレオラの魔法は効果範囲外となり、既に効果は無くなっている。あとは僕がオルトを含んだ重力魔法を使えば前回同様地上に向かって落下出来る。


 深呼吸して魔法を唱えようとしたら、懐がもぞもぞしてピヨが顔を出した。


「ぷはっ、ギリギリセーフで間に合ったピヨ!」

「ピヨ?! ついてきたのか?!」

「いいことを思いついたピヨ! ロイエ早く重力魔法を使うピヨ!」

「何をするのか大体予想は付くけど! いくよ!」


 ありったけの魔力を込める。


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト!」

「フリューネル!」


 ギュン!と地面に向かって体が高速落下を始めた。ピヨのフリューネルも合わさり、前回よりも落下速度が格段に速い……! 僕は破壊剣ゼーゲドルヒを構えた。


 どんどん高度が下がる。


――眼下に町の全体が見える。


 多重重力と落下の力を使ったこの方法には、いくつか欠点がある。

 

 一つ目が命中率で、二つ目が着地だ。この高さから正確にボスハルトスコルピオンの頭を狙うのは、ここからバスケットボールをゴールに叩き込むようなものだ。


 調整はしてみるが、最悪外す可能性も高い。


――噴水広場にいるボスハルトスコルピオンが見えてきた。


 二つの目の着地に関しては、どうしようもない。前回はレオラが直前に無重力にしてくれたけど、今回はボスハルトスコルピオンを倒すのが目的だ、衝突前に僕を軽くしては意味がない。それはレオラもわかってるはず。


 剣だけを重くして投げることも考えたが、僕から離れたら重力魔法の効果が無くなってしまう。だから、剣は最後まで僕が握るしかない。


 遅延回復のレイトクーアだけは気休めで掛けておく。


――まずい、少しずれている。


 ボスハルトスコルピオンが目前に迫る中、暴れているせいか、狙いがズレている。


 もう少し右なのに……!


 その思いはピヨが受け取ったらしく、フリューネルで軌道修正してくれた。


 ピヨ! ナイス! 


 このまま行けば確実に頭を潰せる!


「ハァァァァアア!」


 僕の構えた破壊剣ゼーゲドルヒは、ボスハルトスコルピオンの頭部を捉えた。


「ギシャァアアアアァァァアア!!!」


 激しい断末魔。


 切れ味などないはずのゼーゲドルヒだが、超高度と重力魔法による加速で、ボスハルトスコルピオンの頭を軽々と貫いた。


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 攻撃終わりから地面への衝突のわずかな時間。レオラの緻密な魔法制御が僕を包む……が、慣性の法則には逆らえず足から着地した。


「ロイエ! 大丈夫か?!」

「ロイエさん!」


 白煙が上がる中、マスターとロゼの声が聞こえる。


「痛っ……。ええ、なんとか生きてます」


 着地の衝撃は完全には殺せなかったものの、レイトクーアが即座に反応したおかげで、ある程度の怪我は治り、即死は免れた。


「ハーハハハ! よくやったな! ロイエ! 見ろよ」


 ボロボロのマスターがそう言って指を刺すと、ボスハルトスコルピオンが光り輝くと、白い魔石へと変わった。


「どこに飛んでいったのかとヒヤヒヤしましたよ」

「ふふ、ラッセさんたら素直じゃないんだ。あんなにロイエさんを信じましょう!ってみんなを励ましてたのに」

「ギ、ギルドの受付を担当するものとして、冒険者を信じるのは当然のことです」

「さすがですわ! わたくしは信じて待ってましたわあああ!?! ロイエさん、足が!」


 着地による運動エネルギーは、レオラの重力魔法では完全に無効化出来ておらず、両足はあらぬ方向に曲がり複雑骨折している。これでもレイトクーアが発動してこのレベルなので、レオラの魔法がなければ死んでいた可能性は高い……。


「回復効かないんですの?」

「いや効いてこれですね……。痛たたた」


 怪我だと認識したらとたんに痛みが増してきた。


「レッドポーションでも骨折は治らねぇ、回復魔法でもダメかもしれねぇな」

「あ! さっきの白い魔石! あれを飲んで封印を解除すれば、何かいい回復魔法が使えるようになるのでは?!」


 ロゼはそういうと白い魔石を探しに向かった。


 白い魔石はボスモンスターからしか取れない貴重な石で、しかも倒した人の魔力で染まるから他の人には効果がない。というのがフォレストでの検証結果だった。


 飲めば回復魔法の封印が解けて、骨折を治すレベルのクーアが使えるかもしれない。


「ロイエ! グイーダさんに回復をお願い!」


 レオラがぐったりとしたグイーダを運んできた。


 グイーダも左手を骨折して、あちこちから血を流しているが、命に関わるような怪我は無さそうで良かった。すぐにクーアを唱えると少し顔が穏やかになった気がする。


「おう鳥、おめぇもがんばったじゃねぇか! 特別にギルドカードを発行してやろうか?」

「本当ピヨ?!」


 マスターとピヨが話していると、突如ロゼの悲鳴が届いた。


「キャアァァァアアア!」


 全員がその声の方向を振りむくと、信じられない光景が飛び込んできた。


 地面から、新たなボスハルトスコルピオンが現れたのだ。

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