[ 037 ] 中央区Bエリア
ナルリッチさんと別れた後、僕はBエリアを散策する事にした。冒険者になるための課題はどれも解決していない。
重力魔法はリンドブルム戦で解放されたけど、現在は練度★一。六日以内に練度★三まで上げるのにどうすれば良いかも考えなきゃいけない。
中央広場のベンチに座って、一度重力魔法と向き合ってみようと思った。僕の回復魔法の練度★七ということは、使用回数か使用時間が関係しているのは確実。もし習得してからの経過年数ならマスターも二週間以内に練度★三など言わないはずだ。
ずっと浮いたままにするとか、毎日魔力が切れるまで発動と停止を繰り返すとか、そういう事になるのかな。どっちなんだろう。
仮にどちらかだとしても、六日ずっと魔力を使い続けて間に合うのかわからない。誰かに聞きたい……。
考えてもわからないので、とりあえず移動しながらも出来ると思い、ジオグランツで自分の身体の重力のかかり具合を少し緩くして、軽くしてみた。
クーアと違って重力魔法は魔力が続く限り発動を維持できることが出来るようだ。それともクーアで回復しつづけても、回復するところがないから効果が切れるのかもしれない。この辺は検証が必要だ。
少し体を軽くすると歩くのがとても楽になった。強く地面を蹴りすぎると空に飛んでしまいそうなので、本当に加減が難しい能力だと思う。
しばらくBエリアを歩くと、なんとなくBエリアの特徴が見えてきた。まず、正門に近いことで土産屋がすごく多い。また旅行客を受け入れる為なのか、DやAエリアでは見なかった宿泊施設がチラホラと目につく。その中でも唯一、西側在住者でも応募可能なホテルのチラシを見てみた。
「メルダーホテル、日給銀貨六枚。うーん。もう少し欲しいかな……交渉したら銀貨七枚にならないかな。お客さんの荷物とか軽く出来るけど……」
ホテルで値上げできるか聞いてみようと思いって入り口へ向かうと、ホテルの隣りの露店でブルーポーションを大量に買ってる人を見つけた。
え、ブルーポーションだけを十本も? 何に使うんだろう……。まぁ魔法を使う為だと思うけど、なんであんなに。
もしかしたら僕と同じように練度を上げるために必要なのでは?という思いがあり、悪いと思いながらも後をつけてみる事にした。
後ろから見た感じだと、緑色の繋ぎの服に、同じく緑色の帽子を被っている男の人で、身長は ハリルベルと同じくらいか少し小さいくらい。そして背中には不釣り合いなほど大きな剣を背負っている。
その人は、Bエリアの隅にある小さな公園へ行くと鞘から剣を抜いて地面に突き刺し、ブルーポーション飲みながら魔法を唱え出した。
「フェルスアルトファーラー」
唱えた瞬間、公園の砂が勝手に集まりだして、徐々に足、腰、胸と作られていき、大人くらいのサイズの砂の兵士へと変貌した。
「よ、よしっ……ゴクゴク」
男の人はブルーポーションを飲みながら、魔法で砂の兵士を操り始めた。砂の兵士は模擬戦闘をしているかのように、その場でシャドーボクシングをしたり、回し蹴りをしたり軽快に動いている。恐らく練度★四の土魔法だろう。
「いいぞ。問題はここからだ……」
砂の兵士は、公園に突き刺さっている剣の前に行くと、両手で掴み抜き取った。抜き取るだけで少し砂が崩れたが、その後上段の構えを取った瞬間、パラパラと砂が崩れ始め、仕舞いにはザザーと腕が砕けてしまった。
「くそっ! また失敗か!」
男の人は飲んでいたブルーポーションの瓶を、乱暴に後ろに放り投げた。僕の方に。
「痛っ!」
「あ! ご、ごめん……まさか人がいると思わなくて……」
「だ……大丈夫、です」
「いや結構ヤバい音したから……」
お詫びにと、男の人は持っていた瓶ジュースを奢ってくれて、二人で公園のベンチへ座って飲む事にした。
「僕は、ロイエと申します。たまたま通りかかったら呪文詠唱が聞こえて、何かなと思って覗いてしまってました。すみません」
「いやオレの方こそ悪いことをした。オレの名前はクルト・グレンゼ」
「クルトさん、さっきの魔法すごいですね! もしかして土魔法の練度★四では?」
「そうだよ。でもオレは才能が無くてね。ご覧の通り直ぐに砕けてしまう」
一人称の「俺」のイントネーションが微妙なところにかかっていて、オ↑レ↓と独特な発音になっている少し変わった人だった。前世、患者の小学生にそんなイントネーションの子がいたな……。と、少し懐かしい気持ちになった。
「あの魔法って上手くいくと、剣を持って砂の兵士が代わりに戦ってくれるんですか? それならレッドポーションを節約出来ますね」
「あーごめん、違うんだ。あの魔法は本来、砂や岩を操って敵にぶつけたり二、三個なら同時に操って壁を作ったりと、便利な魔法なんだけど……オレ、近距離系の魔力回路でさ。岩を遠くまで操って動かすとか苦手なんだ。だから、すぐに魔力切れを起こしてしまって……」
なるほど。本来ならマスターがやっていた水の蛇みたいに、岩の蛇を作って操れるのか……。確かマスターは遠距離系って言ってたな。
「それで、近距離系の土魔法使いとしてどうにか戦い方を模索していたんだ。これでも冒険者だからね。オレ」
「おおー、冒険者だったんですね! まだ若いのにすごい」
「いや、君の方が絶対若いだろ……でも、俺が土魔法に目覚めたのは一ヶ月前だからさ、まだまだ未熟者だよ」
なんですと……? 一ヶ月前に練度★一が解放されて、もう練度★四の魔法が……? こ、これだ! この人こそ! 僕が探していた人だ!
「あの! 僕に練度を上げる方法を教えてください!」
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