[ 048 ] 仲良し
クルトさんとBエリアで夕飯を食べ終えると、ロゼの店に向かう前にもう一度あの赤い巨石を見たくて、Cエリアを経由する事にした。
「わぁ、夜も綺麗ですね」
赤い巨石『フィクスブルート』がライトアップされていて、とても綺麗だった。
「この巨石なんなんでしょうね。昔はこれに祈りを捧げたとかなんとか聞きましたけど」
「ああ、魔捧げね」
「魔捧げ?」
「文字通り魔法を捧げるんだよ。昔じいちゃんからそんな話を聞いたっけなー」
今は行われていない魔捧げ……か。昔の儀式って感じなのかな。現代でも、神社のイベントは人手不足で数百年ぶりに中止になったとか、よくニュースで見たな。どこ世界でも、こうやって伝統行事は失われていくのか。
「あれ? ロイたん!」
「……エルツ?」
フィクスブルートを見ていると後ろからエルツが声をかけてきた。昼前にここで別れたのにまだいたのか?
「もうエルツさん、急に走ったらあぶないですわ」
「ロゼさんまで」
「あら? ロイエさんっ! こんなところでまた会えるなんて! 運命を感じますわ!」
「ロイエ君? このナイスバディなお姉さん達は?!」
「ロイたんの彼女ですっ」
「ロイエさんの……よ、嫁ですわ」
クルトさんが変なものを見る目でみてる! そんな目で見ないで!
午前中、僕と別れた後エルツとロゼは意気投合して、二人でずっと買い物したりと、遊び回っていたらしい。またキーゼル採掘所にあるバーの従業員のリーベが呼びにきて、帰る途中だとか。
「エルツさん早くー」
「今行くわよー! そういうわけだからごめんね! ロゼ、また遊びましょう!」
呼び捨てするほど仲が良くなったのか。バーの店長と貿易商の娘、普通に生活してたらすれ違いもしない二人だもんな。お互い仕事に生きる女性として何か魅力を感じたのかもしれない。
おっと、クルトさんを紹介しておくか……。
「ロゼさん、こちらは冒険者の先輩でクルトさんです。魔石を先ほど二十個ほど飲みました」
「なんですってーー! 二十個も! それでどうなりました?! どこか体調は?! 死ぬ前に何か言い残してくださいませ!」
「やはりオレは死ぬのか?!」
根拠は無いけど大丈夫ですとクルトさんを宥め、ロゼに魔石を飲んだ後に何があったか報告をしながら、歩いて魔石屋まで戻ってきた。
「わかりました。今後の実験はクルトさんに手伝って頂きたいと思いますわ」
「はい! 魔石の研究に貢献できて、自分の魔力量も上がるなら最高です!」
「この店にある魔石は、ただ同然に買い叩いた物ばかりですので、全部で食べていただいても大丈夫ですわ」
さらっとなんか怖い事を言ってる……。本当にクルトさんの体、大丈夫だろうか……。
その後三人で、いくつかの仮説を立てたりと有意義な話し合いをした後、少し食べてみようとまた魔石を食べ始めたクルトさんを置いて、僕はひと足先に家に帰る事にした。
まだ居てもよかったんだけど、実は昨日から何か変な違和感のようなものが、ずっとまとわりついている気がして、正体を突き止めるために昨日と同じ行動をしていた。残るはギルドだけだ。
気のせいであって欲しいけど……。
外からギルドを覗くとカウンターには誰も居ない。この時間ならフィーアがいつも店番をしているのに……。昨日からずっと感じていた違和感。ここなのかもしれない。
ギルドを中心に、まるで知らない街に迷い込んだような寒さを感じた。恐る恐るギルドに入り、挨拶をするとバタン! と管理室のドアが開いた。
「なんじゃロイエ君か、なんか用かね? 練度と金貨は集まりそうかな?」
「いえそれはまだですが……。マスター、フィーアはいますか?」
「いいやおらんよ。一週間ほど休みたいと昨日休暇申請を貰ってな」
「そうですか」
僕の感じた違和感は、ギルドは関係なかったのか?
「こないだのリンドブルム討伐の件で、街からギルドへ結構な報酬を頂いてな、フィーアちゃんには未払い分も含め色をつけて渡したんじゃよ」
「それはフィーア、喜んだんじゃないですか?」
「うむ。やっと自由になれると喜んでおったよ」
ウサギ耳をぴょんぴょんさせながら喜ぶフィーアの様子が目に浮かぶ。
「それじゃあ僕はこれで」
ギルドを出て、家へ向かおうとした時だった。
「ゴゴゴゴゴォオォォォオオオ!!!』
突如、地鳴りが響いた。直後に立ってられないほどの大きめの地震。身を低くして耐えているとしばらく、ベルク山の方から何かが崩れるような、大きな音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます