閑話その15 私、乙女ゲームに転生!? 後編
恋愛ゲーム作品『天の川より、あなたへ』には数多くの魅力的なキャラクターが登場する。性別、種族関係無くゲームをプレイした私達を虜にする登場人物が最低でも一人居るのは当たり前。無論ゲームにドハマリした私にも推しが存在していた。
バトル要素に力を入れている『天の川より、あなたへ』ではどうしても欠かせない話題が度々ネットや掲示板などに上がってくる。
それ即ち――最強キャラクターは誰?
ゲームに出てくるキャラクターにはそれぞれステータスと特技が設定されている。特定のキャラには特有のスキルや魔法も備わっている。
このような議論が始まれば、必ずや二人のキャラクターが名乗り上がる。
一人はバンクス帝国よりさらに西、海の向こう側に在る大地…魔族が住まう魔界陸を統括する王、『魔王セシリア』。名前すら閲覧制限が掛かっている魔王を初見プレイで遭遇するのは攻略サイトを熟知していても、運要素が絡まり非常に困難。
もし魔王セシリアに出会ってもプレイヤーが帝国に属していれば容赦ない戦闘モードに直行して、弾幕ゲー並みのバトルが開始される。魔王セシリアが放つ高火力魔法の圧倒的物量は作品における不理屈要素その一つ。
そして二人目が、ランキャスター王国第三王女、エレニール・エル・フォン・ランキャスター。凛とした佇まい、ゲーム一、二を争う完璧に整った外見は人気ランキングではトップスリーに入る常連。実力もさながら一級品。ゲームを開始後初めての選択肢にて所属国をランキャスター王国へ選び、とあるサイドクエストをクリアすればエレニールと一日に三度模擬戦が行える。戦闘開始直後フィールド全体に降り注ぐ雷魔法による落雷の雨。対策して魔法を躱せても即座に高等剣術スキルが牙を剥き瞬きする間も無く体力がゼロとなって模擬戦は終了する。驚きなのが随分と手加減された結果がコレなのだ。
二週目以降解禁される初めの選択肢にて…北の大陸にて覇道を目指さんとする国家に属せば、エレニールがラスボスとして登場する。
城壁の外、完全装備で待ち構えるエレニールのシーンはゲーム内でも名シーンと名高い。彼女だけが装備する事を許されし全体能力を向上させる白銀の戦乙女アーマー、状態異常を無効化する国宝級のアクセサリー、それだけでも鬼畜なのに…エレニールを最強キャラクターだと結論に達する最大の由来が彼女の愛用武器。
一を無へと還し、霊力すら斬り捨ててしまう神剣プロメテウス。刀身から溢れ出る魔力の残留がオーロラのように流れ、剣士なら涎を垂らしながら一度は手に取りたい剣。
完全武装で待ち構える彼女の存在は地獄以外の何者でも無い。例え、レベル99のフルパーティーを集めたとしても限界突破レベル百以上のラスボスに勝利するのは身も心も削る思い。実際に彼女を撃退したプレイ動画が投稿されると忽ち英雄視され、敬意を表するコメントで溢れかえる。
「見事な魔力操作を応用した魔法攻撃でした…。では次にミレディリック殿。…ミレディリック殿?聞こえていますか?」
「ヴィーちゃん、先生呼んでるよ。ヴィーちゃんの番だよ!」
「…っえ?あ、はい!今行きます。…ありがとうシャリス、少し考え事をしていたわ」
上の空だった私を現実に戻してくれたシャリスに礼を言って野外の魔法訓練所の至る所に土魔法で生成した地面から設置された人型の的より二十メートル程離れた位置に移動した私。
ボーっとしていたけど今は3限目の授業中、本気で受けなければ私の約束された将来の就職に支障が出るかもしれない。集中、集中…。
「何時でもどうぞ。貴方の魔法を見せてください」
白いラインが引かれた場所に着いた私は斜め後ろで魔法を審査する教師の姿を横目に伺い、母様よりプレゼントしてもらった腰に付いた杖ホルダーから私専用の杖を抜けば正面の的へ向ける。
「集まりし水の魔力を、汝の敵を撃ち抜け
魔法を詠唱すれば杖の先からバスケットボールぐらいの清き水弾が浮かぶ上がる。そして的の一つへ向かって高速で飛んでいき、私が放った攻撃魔法は的の頭に当たる部分に直撃すれば鈍い破砕音と共に人型の的は砕け、飛び散った土塊が無残にも転がっている。…っうん、今日も私絶好調!
青色の髪を持つ私の体質と、水属性の相性が合いやすい傾向があるという。事実初めて確認したステータスには始めから水魔法Lv.2と記載されていた、一度も魔法と唱えたことなど無いのに。
「速度、威力共に素晴らしい結果ですミレディリック殿。魔力疲れは起きておりませんか?」
手に持つクリップボードに評価を明記した実践魔法授業の教師から自身のMP量の余力について聞かれる。
毎回同じ質問されるので慣れた様子で私は「まだまだ行けます!」、と強気に返答した。意地を見せている訳では無く本当にMP量にはまだまだ余裕がある。
それに…疲れている姿を前世から一番推しなエレニール王女様に無様な所は見せられない!
畏れ多くも話すかもしれないので推しに会う前に身を清めよう。今から緊張で胸は、いまにも張り裂けんばかり…でも出来れば握手したい!
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