第54話 そうだカジノを作ろう

「おはようショウ。もうご飯は用意出来ているわ」


俺のほぼ趣味となった、神眼でこの自分が管理する世界を眺めている。既に俺のベットから出ていたナビリスが戻ってきて、俺の髪の優しく撫でながら朝食が出来たと話しかけてきた。

 俺に何か報告したいのであれば念話で伝えるだけでいいのに、わざわざ横に寝転がっている俺の部屋まで来るなんて…。

 そんな彼女が恋しい。もっと彼女の肌に触れたい。


 しかし、俺の髪を撫でる彼女を放っているとだんだん機嫌が悪くなるので召喚された勇者達から神眼を解除し、瞼を開ける。


 瞼を開けた瞬間、太陽の光が窓から侵入してきて身体全身に当たる。暑さは感じない、むしろ神になってから身体に当たる太陽エネルギーが心地よい。正に太陽神からの愛情が籠った慈しみ。


 まぁ、太陽を司る女神は今頃お爺ちゃんの神界で、俺との間に出来た息子と一緒にケーキでも頬張っているはずだ。約2メートル近くの長身の女神はそこ外見に似合わず甘党だ。彼女に付き合わされる息子に同情するが、念話で聞く限り息子も楽しんでいるらしい。


 むくりとベットから身体を起こすと、そこら辺の床に投げ捨てられたバスローブを羽織るとそのまま部屋を出て、浴室まで向かう。ナビリスに一緒に入るか?と誘うと、「勿論」と笑顔で一緒に向かった。


 俺達が居なくても銀孤は既に朝食を大量に食べているだろう。本来九尾である彼女は食事等摂取しなくても生きてられるが。この屋敷に来てナビリスが調理した料理を食べた日から、飯を食べるのが今の楽しみになってしまった。


 九本の尻尾を忙しそうに振りながら笑顔で口一杯に食べ物を入れる彼女の様子に、俺とナビリスも幸せそうな銀孤を眺めるのが楽しみだ。


「今日もエレニールは来るのかしら?」


 脱衣室で羽織っていたバスローブを脱ぎ捨て浴場へ向かう。20人入っても余裕がある浴槽にかけ湯もせずにそのまま湯に入る。神の身体に汚れは付かない。それども気になるようなら生活魔法で体の汚れを取ればいいだけ。


 浴槽に設置された魔道具によっていつまでの完璧な温度に保たれた湯に浸かり、のんびりと楽にしていると。メイド服を脱いだナビリスが浴場に入ってき、彼女もかけ湯をせずにすたすたと湯に浸かる。


 俺の腕に抱き着くと、彼女の口から数週間前ほぼ強引と言う形で俺の婚約者になったエレニールの名を出した。


 エレニールと婚約者になった夜、宴から帰って来た俺を待っていたのは。玄関入口で腕を組んだナビリスと銀孤の姿があった。


 意外と言ったら失礼になるかもしらないが、彼女等は怒って居なかった。


 ただ、世界の管理者としてもう少し考えて行動してくれと小言を頂きました。


 …何故かナビリスはその夜。積極的で朝まで夜の行為を辞める事は無かった。


 それから婚約者となった王女様はちょくちょく俺の屋敷に遊びに来るようになる。と言っても彼女も暇では無いので王都へ遊びに行くとかは出来ず、殆ど摸擬戦に時間を費やしていた。


 ナビリスの実力も気になっていた彼女は、ナビリスにも摸擬戦を挑んだ。


 俺は手加減してエレニールの決闘に挑んだのに、彼女は容赦無くエレニールをボコボコにした。

 ボコボコにされた王女様も、終盤には笑いながら全力で攻撃を仕掛けていた。その様子を観戦していた俺や奴隷達は漏れなく引いていた。それからナビリスとエレニールの二人は度々一緒に会話する機会が増えた。俺も彼女に人族の友達が出来て嬉しいと思う。ナビリスは肯定しないだろうが。


「あー、どうだろう?仕事が忙しくなかったら遊びに来るんじゃないか?」


 そう答えるが、俺は今日も来ると分かっている。神眼で確かめなくとも分かる。


 エレニールは凛とした顔に言葉はきついが、根っこから優しくて。思いやりがある女性だ。全てにおいて全力に取り掛かる女性は嫌いでは無い。



「ご主人様、エレニール王女殿下がお越しになりました」


「ご苦労、中庭まで通してくれ」


 奴隷達も前振れ無くやって来る王女に慣れ。戸惑う事無く中庭のテラスで紅茶を嗜む俺まで報告してくれたメイドに此方まで連れてくるよう伝える。ついでに近くに居たメイドの奴隷に追加の紅茶を二杯頼む。


「今日もいい天気だなショウ。会いたかったぞ」


 暫くそのまま紅茶から漂う香りを楽しんでいると、鎧を着た王女様が此方に歩いて来た。

 ついでに彼女の後ろを歩く小さな少女の姿も。


「お久しぶりですショウ様!私も会いたかったです!」


 可愛らしいピンクのフリルが付いたドレスに、頭にティアラを乗せた第五王女アンジュリカもドレスが地面に付かないよう両端を手で抑え、此方のテラスまで寄って来た。


 椅子から立ち上がった俺は女性二人分の席を引き、紳士の役目を務める。

 二人から礼を言われ、俺も元の席に戻った。


「エレニールとは昨日会ったばかりだろ?まぁ、アンジュリカも久しぶりだな。ドレス似合っているぞ」


 褒められたアンジュリカは照れるように顔を赤く染め、恥ずかしさを紛らわすためメイドが注いだ紅茶に手を伸ばす。


「んっ…美味しい」


 手に取った紅茶を一口含むと、驚いた顔を見せながら嬉しそうに頬を緩ませる。


「はは、家のメイド長のお蔭だな」


「そう…だな」


 ナビリスを褒める俺にエレニールも同意するように頷いた。


「それよりアンジュリカ今日どうしたんだ?」


 気になった俺は今日初めてやって来たアンジュリカに尋ねた。


「はい。普段は学園に通っているのですが、今日は授業も早く終わり。宿題も全て終わらしたのでお姉様と一緒にやってまいりました!」


 そうかアンジュリカの年齢は12、3か?王都の学園に通うのは普通の事か…。


「そうか。学園は楽しいか?」


「はい!皆様優しく接してもらっています。魔法の授業は少し難しいですけど…」


 まぁだろうな。もしお姫様に暴言など吐いた際にはどんな目に逢うか知りたくも無いからな。魔法も俺かナビリスが教えようかな?


 それから二人とお喋りをしていると、本館からやってきたナビリスも加わり。女性三人だけでお話が始まったので、部外者となった俺は早々に席から立ち上がり。中庭に土魔法で仕立てた訓練広場で鍛えている奴隷に俺も混ざった。その様子をエレニールはテラスから一秒一秒見逃さず、俺の身体の動き、動作を観察していた。姉の視線に気付いたアンジュリカも、わぁ~と瞳を輝きながら俺が華麗に舞う姿を見ていた。


「うむ、美しかったぞショウ」


「はい!私も感激しました!剣術の先生より凄かったです!」


「ふふ、ありがとう」


 五分程度、神界で武神から教わった型の訓練を復習し終わり、訓練用の木剣を戻し。俺の姿を見ていたテラスへ戻り興奮したアンジュリカに礼を言うと俺の席に座った。


「ああ、そういえばエレニール」


 丁度いい機会なので、俺が昨晩勇者を眺めながら思いついた提案を彼女に聞こう。


「ん?なんだ」


 テーブルに出されたマカロンを美味しそうに食べていた手が止まり、俺に目線を合わせる。


「カジノ作ってもいいか?」


「は…?カジノ?」


 俺が発した言葉にポカンとした顔を見せ、横に座るナビリスを見る。彼女も話していない内容だったので、ナビリスも同じような表情を見せていた。神でもあんな表情出せるんだな。新しい発見だ。


「ショウ様、カジノとは何でしょうか?」


 唯一カジノを知らないアンジュリカがコテンと、頭を傾けながら俺に聞いて来た。


「ああ、カジノと言うのは簡単に説明すると賭場をする場所なんだ。大きな建物を建設して、色んな人が賭け事しに来る場所なんだよ」


「へぇ~、面白そうですね!私も行きたいですっ!」


「ああ、出来たらアンジュリカも招待しよう」


「…バッ!バカ!アンジュリカに変な事教えないで頂戴!」


 動きを止めていたエレニールがハッ、と動き出し目が輝かせているアンジュリカの耳を塞ぎ俺に向かって大声を出して来た。いきなりの事態に彼女の素が出ていた。


「大丈夫だ。建設は俺がやる。人員の手配と運営も俺が雇う。それにカジノからの利益半分を王国に支払おう」


 俺が利益半分と言うと彼女も真面目な表情になり、頭の中で色々考え始めた。そう、これは俺に暇潰しだけでは無く、王国にも利益はある。


「ショウの言いたい事は理解した。しかし私一人では決断出来ない。この話は宰相と大臣、国王陛下に伝えよう」


「ああ、そうしてくれ。他に聞きたい事があったら後日改めて質問してくれ」


「了解した…ふぅ、相変わらずショウは無茶苦茶だな」


「ええ、私もそう思います」


 お仕事モードから雰囲気が消えたエレニールの言葉に隣で聞いていたナビリスも頷いた。

 アンジュリカは可愛らしい笑顔でニコニコしていた。

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