閑話5 さらなる奴隷の語り事
「っお?ガッツ、今日は非番じゃ無かったのか?」
俺がご主人様に買われて早、一ヶ月中庭の一角に置かれた筋肉を鍛える機械に汗を出していると俺と同じ奴隷商で買われたルイスが近付き、ダンベルを持ち上げている俺に声を掛けてきた。変な話だが奴隷の俺達にも十日に一日、休みの日がある。そう休みの日だ。奴隷に休みの日を与えるなんて今まで聞いたことが無い。俺もここに来るまでそう思っていた。
「ああ、非番って言っても俺ら戦闘奴隷はあんまりする事が無いからな」
「っま、そうだな!」
一セットを終えた俺は、両手に持っていたダンベルを置き場に戻すと、首に巻いたタオルで掻いた汗を拭いた。
非番の日には奴隷達が住まう屋敷にある酒を飲めるし。ご主人様が大量の本や書物を置いた図書館部屋っている所で読める。中には街まで出向き洋服や雑貨を買う奴隷もいやがる。
他の所じゃ有り得ない。奴隷の俺達には自由など存在しない。それが俺達の常識だ。
奴隷と言っても、奴隷にも色んな種類がいる。凶作の村から売られてきた借金奴隷、戦いに長けた戦闘奴隷、戦闘奴隷の殆どは元冒険者や元傭兵の野郎だ。偶に戦争で捕まった兵士とかが居るが。
最後に犯罪奴隷だ。犯罪奴隷に置いた野郎どもは死ぬまで鉱山や戦争の肉壁にされ、女の場合は娼館で一生男の相手をさせられる。勿論金は払わられない。
おっとまだ名乗って居なかったな、俺はガッツって言う名の奴隷だ。俺が奴隷になる前は冒険者と活躍して、俺が育った町では名が通っていた。
まぁ、あの時はCランクまで上がり少々傲慢になっていたところもあったけどな。それでも俺は組んでいた仲間を信じ、地道に依頼をこなしてきたつもりだ。
あの日までは。
その日は王都までちょっとした金稼ぎで向かい、ギルドで依頼を眺めていた時だった。
他の冒険者と押し合いになりながらも出来るだけ金払いが良い依頼を探している俺達に一人の胡散臭い恰好をした男が俺に近付いてきた。
俺は直感で嫌な感じがしたが、他の仲間はその男が言う魅力的な依頼に興味を持ってしまった。
その依頼はとある荷物をラ・グランジまで届ける依頼だった。
俺は何故そんなEランクでも実行出来る依頼を俺達に出すのかその時は分からなかったが。
男が提示した報酬金に目が眩み、そんな些細な事を考える余裕など無かった。
翌日、その男が指定したスラム街にある宿まで足を運び。薄暗い食堂で違う胡散臭い男から一個の木箱を受け取った。
その木箱は俺が想像していた物より小さく、両手で持ち運べるほどの大きさだった。持ってみると何も入って居ない事を疑うほど軽く、その瞬間この依頼を受けたことを内心後悔していた。俺の仲間共はそう思っていなかったらしいが。
…思い出話が長くなってしまったな。
結果的にその木箱の中身は王国が禁止している違法麻薬の種だったらしく。ラ・グランジの入り口を守る門番に見つかり俺はその場で捕まった。さらに俺の仲間も裏切り、俺一人奴隷に落ちる事になった。
捕縛された俺はラ・グランジ門兵詰所にて、嘘か本当の事が判る真実の目って言う魔道具を尋問で使われた時に俺は聞かれた質問に嘘偽り無く答えたんだ。
その後分かった事なんだが、俺があの木箱を受け取った宿は、とある闇ギルドの隠れアジトだったらしく、真実の目を使用して俺の話を聞いた兵士が王都に連絡して、見事にそのアジトを潰す事が出来たみたいだ。
結果として俺は犯罪奴隷では無く一般奴隷として落ちた。俺が真面目に依頼をこなしてきたこと。信義の心が持っていた事で俺は王都の奴隷商として一番名が通っている奴隷商に高額借金奴隷として売られた。運悪く騙されたが、俺も犯罪に加担した側ので強く言えなかった。反抗でもして犯罪奴隷になりたくないからな。
興味は無いが俺を売りやがった元仲間は今頃犯罪奴隷として死ぬまで鉱山で働かされているだろうな。自業自得だ。
…話を戻そう。
俺がフレドリック商店に売られ暫くたった日。俺は何時ものように身体を鍛えていたら、会長のフレドリック様と一緒に一人の男女が俺達の姿を見ている所を目にした。その時俺は珍しい日だな、と呑気な事を考えていた。
彼等の姿が消え暫くしていると俺達奴隷を取り仕切る代表の兄ちゃんが此方までやってくると奴隷の名を呼び始めた。そのリストの中には俺の名も入っていた。
奇妙と思いながらも言われた通りに着替え、大広場へ向かった。
中へ入ると早く来たらしくまだ五人程しか居なかった。
「おいおい、多すぎないか」
そんな言葉が俺の口から洩れたのはこの広場に入って来た人数がざっと30を超えた時だった。
広場に集まった集団の中には俺に剣の稽古を付けたこともある竜人族の奴隷もいた。学が無い俺でも竜人族の奴隷はアホ程高いって知っている。
それと戦いに特化した戦闘奴隷は、何処に売られても直ぐその実力を発揮出来るよう奴隷商の敷地内なら武器を使った特訓をしても良い事になっている。勿論与えられたルールを破ると厳しい罰が待っているが。
最終的には俺も加えて40近くに膨れ上がった。
周りの女が集まって何か話し合っていると、入り口の扉が開き。フレドリック様と先程見掛けた男女が入って来た。
その途端俺の脳内に電流が走った。
高価な服を着た男の後に入って来たメイド服を着た女性を生涯忘れることな無いだろう程の衝撃が身体全身を駆け回った。
俺だけじゃない、他の野郎もその美貌に惚れていた。
女の奴隷は男の方にメスの顔をして眺めていたが。
するとフレドリック様が前に出て放った言葉に俺は衝撃を受けた。
「(ここにいる奴ら全部買うってのか!?)」
そんな馬鹿げた冗談聞いたことねぇ!
しかし、ショウと名乗った青年は冗談でも無く本当に、この広場にいる全員買われた。
俺はナビリス様と呼ばれた美姫に夢中だったが。
そこからは衝撃の連続だったぜ。
貴族共が住んでいそうな豪華な屋敷が俺達の住まう場所だったり。
十日に一回は休みの日があり。
底が見れない実力を持つご主人様やナビリス様に稽古を付けられ。
…まぁ、毎回心が折れる程ボコボコにされるんだがな。
こう言っては何だが、ご主人様は人に教えるのが上手い。稽古中は相手の目をじっと見ながらも一回も攻撃が当たった所を見たこと無いが。指導の正確差はスゲー的確だ。自分すら知れない癖をバンバン言ってくるんだ。目を見ているはずなのに心の中まで見られている気分に陥る。
ナビリス様の場合は……その…力のごり押しだな。それに、上達が見えないと分かるとスグに捨てられる。
それを知っている戦闘奴隷は本気で訓練に取り掛かっている。誰もこんな生活を捨てたくないからな。だから俺は今も、ご主人様が作った?筋肉を作る機械を使っているんだ。これは凄い。
何時も俺達が料理を食う食堂では何時も良い匂いが漂っているんだ。どれだけお替りをしても無くならない位、毎日料理をする料理番には感謝しかないぜ。
…そういえばもう一つあったな。
ある日俺は気付いたんだ。
「(あん?あいつあんなに美人だったか?)」
ご主人様に買われた女どもが何故か皆前より綺麗になっていたんだ。
肌も綺麗で、髪もサラサラに。
興味がわいた俺は仲が良い女に聞いてみたんだ。
そしたら驚いた。
何だって女性専用の浴室にはシャンプーとコンディショナーが置いてあるってな!
確かに壇専用の浴室にもシャンプーが置いてあったとその時思い出したな。
だがよ!昔の勇者様が作ったっているシャンプーやコンディショナーは貴族が競って買う程に高価だと聞いていたが。
ご主人様はやはり底が知らない。
余談だが数日後、訓練している中庭にご主人様が珍しくお客様を連れてきた。
そのお姿を見た瞬間、広場に居た奴ら全員地面に膝を突き頭を垂れる。奴隷の俺達にはそれしか出来ない。それ程の高貴な方だった。
ランキャスター王国第三王女エレニール・エル・フォン・ランキャスター殿下。
ガキでも知っている、王国最強と有名な方だ。その実力は冒険者最高ランクであるSランク並み。
不思議な事にご主人様とエレニール様は仲良さそうにお喋りをしている。恐ろしいことにお二人とも呼び捨てで名前を呼んでいる。
「ああ?皆ご苦労。お前達も楽にしていいぞ」
頭を垂れる俺達の姿に気付いたエレニール様からお言葉を受け取った。
普通平民でも王族のお姿を目にすることは無いのに。更に直にお言葉を…。
「あの…ナビリス様?お二人のご関係は?」
いきなり王女様がいらっしゃった事態に混乱しているメイドが近くにいたナビリス様に聞いた。実に無礼に当たるが、メイドを責める事はしない。実際俺も混乱しているからな。
「エレニール様とご主人様はご婚約されました」
「「「…え?」」」
今ここにいる全員の声が重なった。
まじかよ……。ご主人様って何者なんだよ。
っま考えても仕方ねえ、今夜は見回りの仕事があるし。今体力を消耗する行為は止そう。ああそれが一番だ。
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