第55話 そうだカジノを作ろう その2

「ん?そろそろ帰らないとな。今日も楽しかったぞショウ、また来るからな」


 腰に巻いたポーチからミスリルの素材で作られた懐中時計を取り出したエレニールがいきなり王城に戻ることとなった。そうだな、もう数時間したら夕方になる時間だ。彼女等が来た時には真上にあった日の光も、気が付くと水平線に触れていた。


「ありがとうございますショウ様!私も凄く楽しかったですっ!」


「はは、俺も美しい女性と楽しい時間を過ごせて嬉しかったよ。アンジュも何時でもおいで」


「美しいなんて…ショウ様は優しい男性ですね!」


「ショウ、妹に手は出させないぞ!…それに私と言う者がありながら」


 その美しい女性の中には君も入って居るんだけどな。まぁエレニールも冗談を言っているだけだろう。


 妹のアンジュリカは褒められて純粋に喜んでいるし。それとアンジュリカの名を呼ぶとき、気軽にアンジュと呼んで、と言われたので俺も了承して呼ぶことにした。勿論正式な場でアンジュと呼ぶことは無いだろうが。アンジュ曰く家族以外でその名前を呼ばれた事は無いらしく、俺が初めてアンジュと呼んだ途端の彼女に浮かんだ笑顔に普段は凛としているエレニールも、心から愛している表情を見せていた。


 それと、ナビリスも含めた四人で話している途中、地下室へ繋がった異空間で修行をしていた銀孤が此方へやってきた。


 九本の尻尾を持つ種族を初めて見たアンジュリカは、その背後に揺れる尻尾に興味津々で。姉のエレニールはまだ格上の実力者が居たのかと半分呆れていた。


 メイドが周辺から持って来た椅子に座る銀孤を二人に紹介して、会話の途中だったのでそのまま続けた。銀孤も加わり風雅に話している最中、彼女の後ろから揺ら続けている尻尾に視線を向けているアンジュに銀孤は苦笑交じりに手で触る許可を出した。


 瞬間、彼女の瞳がが嬉しくてたまらないというようにキラキラ光り。ゆっくりと銀色の尻尾に触れた途端、抱き枕の様に抱き着いた。いきなり九本の尻尾に抱き着いて来た彼女に銀孤はびっくりして目を開いたが、アンジュがもふもふの尻尾に包まれ幸せそうにしている姿に。銀孤は段々目を細めティアラが乗っかった小さな頭を撫でながら、慈いつくしむような眼まなざしで彼女の姿を眺めていた。


 オロオロとしている姉の姿を気にせず、限りない喜びに満ちているアンジュを眺めている俺は日本に残して来た奈々を思い出していた。


 何時も元気一杯で飛鳥にとても懐いていた。神の俺から見ても美少女で、飛鳥と二人で出掛けたら高確率でスカウトされたっけ?


 学校では良く告白されたって自慢された。でも奈々は大のオタクで、彼女の本棚にびっしりと詰まったラノベを良く飛鳥と一緒に読んでたなぁ。俺が魔法や魔物が蔓延る異世界で神をしている、なんて知ったら興奮するだろうか?


 そういえばある日、飛鳥と二人で新しいラノベを探していたら棚底にエロ本を見つけて微妙な空気になってしまったな。俺は買う必要が無かったからな。もし飛鳥にバレでもしたら大変な事になったかもしれないからな。


 今思うと…俺の部屋で飛鳥と肌を重ねている時、音が漏れていたのかもしれないな。もう遅いが心の中で謝っておこう。


 すまん奈々、日本で元気に生きろ。自ら運命の川に逆らわずに受け止めろ。


 神となり。異世界の管理者として俺はそれしか出来ない。


「ショウ?お話があります」


 二人を入り口の門まで付き添い、二人が乗った馬車が見えなくなるまで手を振り自分も屋敷に入ろうと後ろを振り向いた瞬間。そこには大輪の花のように美しい外見に目の全く笑っていない笑顔を魅せるナビリスの姿があった。


「ん?話ってなんだ?」


 ここは惚けよう。それが俺のベストアンサーだ。


「カジノの件についてよ?」


「さーて、今晩の晩御飯は何だろうな~」


 彼女の言葉を無視して両手を頭の後ろで重ね、神級の口笛を吹きながら屋敷に足を向ける。


「……」


 俺の背後を歩く彼女からの目線が痛い。


「今日も朝まで絞り込むわ」


 彼女から発せられた色気を持った言葉に恐怖した。神にも恐怖心は存在するんだな。恐らく元から神に産まれた柱には無いと思うが…。



 はい。本当に朝まで絞られました。途中参加した銀孤も加わり、何回も回復する羽目になりました。


 まぁその二人も今は幸せそうに瞼を閉じて俺に抱き着いているが。神とそれに近い存在である彼女等に睡眠は必要ない。


 まあ別に知らなくともいいだろう。


「おはようナビリス、銀孤」


「おはようショウ」


「おはよぉのおにぃはん」


 抱き着く二人の頭を撫でていると、同時に目を開けたので一応朝の挨拶を交わす。


「今日はカジノを建設する土地を購入しに行こうと思う。二人も来るか?」


 折角なので俺の横で寝転がっている美女二人に一緒に行かないかと誘う。この頃三人だけで何処か行く機会なんて無かったからな。


「ええいいわよ」


「おんやぁ嬉しいのぉ」


 っお、嬉しいな。それじゃ記念の日として俺が朝食を作ってやるか。


 食材は何にしようか。そうだなぁドラゴンステーキでも作ってやるか。インベントリに捨てる程眠っているし。


銀孤の好物にドラゴンステーキが加わった。


 それから俺が何か調理する時には、必ずと言ってドラゴンステーキを欲するようになった。まぁ美味しいから別に良いけど。


 適当に着替え、庭の厩舎で創造したゴーレム馬を調整していると玄関ドアが開き、準備が出来た二人の女性が現れた。


 一人は背中まで伸びた長い銀色の髪を片方で結び、ほんのりと持ち上げてから流している。

 汚れや皺一つ見つけられない黒と白色の布が重なったメイド服を着ている。私服でも構わないと伝えたが、彼女曰くメイド服が気に入ったらしい。


 もう一人の女性も白に近い銀色のウェーブが掛かった長い髪を流し、ピョコンと飛び出した狐耳の後ろで髪を止める金を装飾された簪で止めている。丈が短い着物を好む彼女から大段に健康そうな太ももが露わになっている。ヒールも履き、可愛らしさと美しさが交じり合った美の結晶だ。


 しかし、彼女の部屋にはぬいぐるみなどの可愛い物で溢れているが、それは言わないでおこう。


「二人とも美しいよ。それじゃ不動産屋へ向かおうか?」


 何故か馬車に入らず、御者席で馬の手綱を持つ俺を中心に横に座った。まぁ美女二人と抱き着く俺に目線は集まるだろうが別にいいだろう。危害を与えようとする輩は蹴散らせば平気だ。何も問題ない。



 というわけで着きました。俺が今の屋敷を買った同じ不動産屋へ。


 購入しようとしている土地は貴族街では無く、人の出入りが多い商業街を第一候補に入れている。もしこの不動産で商業街で売りに出している物件が無ければ、他の土地でも構わない。


 近くの広場で馬車を停め煉瓦式、二階建ての建物へ向かう。貴族街の大通りを歩く歩行者が王都でも滅多にお目に掛かれない二人の美女に視線が集まる。


 やっぱりこうなったか。


 そう心の中で苦笑交じりに頑丈に出来た入り口の扉を開き、二人を先に入れる。


「いらっしゃいま…せ」


 二人の後に俺も店内へ入ると、俺の姿を見掛けた高級そうなスーツを着た老人がカウンター越しに驚愕していた。


「おお…先日はどうもどうも。して何か御用でしょうか?」


 すると俺が上げたイエローダイアモンドを思い出したのか、興奮しながら此方まで歩いて来た。もう若くないのに元気だな。


 カウンターの端で帳簿を付けているあんたの息子はナビリスと銀孤に目線が固定されているが。


 特に彼の目線の先には大きく膨れた銀孤の胸に一心不乱だ。



「今日は土地を買いに来た。今回は住むためでは無く、商売の為だ」


「成程、成程そうでございますか」


 うんうん、と愛想良く頷いているがその頭の中ではどれだけ吹っ掛ける事が出来るか考えているのであろう。


「ああ、出来るだけ広い敷地で場所は商業街が好ましい。いい土地はあるか?」


「ふむ商業街ですか…。資料をお持ちしますので少々お待ちを。…おいっ!お客様を応接室まで案内差し上げろ!」


 手を顎下に持ってき、売りに出している物件の資料を取りに二階へ上がっていった、階段を駆け上がっている途中で未だ二人を凝視している息子に応接室までの案内を怒鳴ると、姿が見えなくなる。


「ど、どうぞこちらまで…」


 廊下を通り、奥にあった客間に通される。


 俺をナビリスは既に来た事があるのでそのままソファーに座りジッと待っていたが。銀孤は楽しそうにあちこち眺めていた。


「はい」


 暫く三人でカジノの内装について話していると扉が叩かれる。俺の代わりにメイド長のナビリスが許可を出すと、分厚い書類を持った爺さんが入って来た。


「それでは、こちらが商業街で売りに出されています物件となります。資料の詳しい情報が知りたいならご自由に聞いてくださいませ」


「ああ」


 それだけ言うとテーブルに置かれた資料を手に取る。うーん、場所的にいいかもしれないが俺はラスベガスにある大きさのカジノを作りたいが…。今一つ望んでいる物件は無いな…。


――ん?


「これはどうだ?土地の大きさも俺が望んでいる広さと一致している」


 分厚く置かれた土地の情報が示された資料の束に一番後ろに見つけた資料を爺さんに見せる。


「え…まぁ…確かに広さは一番かも知れませんが…」


 どうした?とたんに歯切れが悪くなったが。


「何か問題でも?」


「その…。この土地の直ぐ近くにはスラム街へと繋がっておりますので、愚考ながらもおススメの物件とは言えません」


 かすれた声を絞り出すと、爺さんは視線をずらし俺の横に座り一緒に資料を眺めている二人の女性に移動した。


 あ~成程理解した。


「心配感謝する。しかし彼女達の実力は本物だ。何も問題ない。それじゃこの土地を購入しよう。金額は幾らだ?」


 俺が購入するとは意外だったのか瞼をぱちくりと瞬きをすると、オートマタでも起動した風に動き出した。


「ほ、本当に宜しいでしょうかっ!?」


「ああ」


「え、あ、ああ…。え~と、土地が広しけれど場所が場所なので、特別値段としまして白金貨21枚でいかがでしょうか?」


 意外と安いな。土地が広大であっても誰もそんなところは買いたくないようだな。


「分かった。ナビリス袋を」


「畏まりましたご主人様」


 メイドモードの彼女から受け取った財布に見える高価な袋から白金貨21枚取り出し、テーブルの上に置いた。


「ふむ、ふむ、ふむ。では白金貨21枚丁度受け取りました。では契約書類をお持ちしますので、少しお待ちを」


 金を床に置いていた鞄に仕舞、サインが必要な書類を取りに行った。


「おにぃはん、そのカジノっといぃ場所は楽しいぉ所さかい?」


 今まで口を開かなかった銀孤から疑問を聞かれた。確かに長い年月塔に閉じ込められていた彼女にはカジノがどういう場所かは知るはず無いな。


「ああ、きっと銀孤も楽しめる場所だ。建築が完了したら何時でも遊びに行ってもいいぞ」


 そう言って彼女の手を握ってやる。


「えへへ、嬉しいぃやいの。うちほんまにおにぃはんの事愛しとるや」


 俺が握った手を彼女も力ず良く握り返して来た。


 数千年一人ぼっちだった彼女がその言葉にどれだけの勇気を振り絞って俺に伝えたのか、俺ですら彼女の苦痛を知ることが出来ない。しかし…もう平気だ。


「ああ、俺も愛しているよ銀孤」


 気配をうかがうような上目遣いで俺の顔を見る彼女の目に合わせ、ハッキリと伝えた。相手の目から視線を逸らさずに、改まった声で。


「あ、ありがとうおにぃはん……」


 その様子をナビリスはやわらかい目色で俺達を見守っていた。



「はい、契約完了を確認しました。おめでとうございますショウ様。これで正式にこの土地はショウ様の私有地となりました。それと商売を始める際は商業ギルドに加入することをお勧めします」


 爺さんが持って来た書類にサインして全ての手続きが完了した。これで後はエレニール次第だ。もしカジノが許可されなくとも暇潰しに別の建物を建設するだけのつもりだ。


「ああ、感謝する。ではまた会おう」


 長らく売れ残っていた土地が売れた事に物凄い笑顔の爺さんに挨拶し。俺達は不動産屋から辞した。


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