第56話 そうだカジノを作ろう その3

不動産で購入した土地を明日見る事にして、俺達は寄り道もせずにそのまま屋敷に帰って来た。

俺の姿を目にした竜人族の門番が敬礼しながら開いた門を潜り、乗って来た馬車を厩舎で馬の管理をしている奴隷に渡し、屋敷まで続く綺麗に整えられた純白の石畳の上を歩いて家に着いた。

メイドモードのナビリスが玄関を開いてくれたので感謝の礼を伝えると俺と、銀孤が先に中へ入った。


 メインホールにはナビリスが教育したメイド達が一生懸命にカーペットが一面に引かれた床を箒で掃き、曇り一つない氷の様な窓を割らないように拭いていた。


 彼女達の姿にナビリスは何処か満足そうな表情を見せていた。勿論普通の人から見たら無表情のままだが。


「さて、カジノ建設地の敷地も買った事だし。後は、エレニール次第だな」


 リビングのフワフワのL字高級ソファーに座り、反対側に座った二人に今後の予定について話す。


 さて、どんなカジノにしようかな。勿論地球のスロットマシーンとか想像して大量に設置してみるのも面白そうだな。大量のチップとトランプも用意しなきゃな。それと、カジノを盛り上げる為には飲食店や土産屋のテナントも作らないとな。儲けたチップと交換できる景品もインベントリーから選んでおこう。


 三人の会話は途切れる事は無く。翌日の朝まで続いた。



 翌日、朝まで語り合っていた俺達はリビングの窓越しに差し込んでくる朝日の光に身体を灯され、睡眠を必要としていない三人で昨日購入した土地へ、折角と言う事で馬車で向かった。


 貴族街の門から出て一旦、一般街へ入り。東側に向かう。暫く東側の大通りを進んでいると、平民が住まう住宅街から、商店や大勢の働く人々で賑わっている商業街に足を踏み入れる。人通りは跳ね上がり活気も高まり、人の隙間を縫うように子供が駆け回っている。

 今日も御者席に座り、ゴーレム馬の手綱を握る俺の隣に座り。興味深そうに周りを眺めている銀孤とナビリスに目線が集まっていた。

 その目線に込められた感情は疑惑の目が多かった。まぁそれはそうだろう。商業街を通る貴族の恰好をした者は珍しいだろう。それに商業街の先にはスラム街があるからな。


 俺達の様に堂々と高価な格好をして絶世の美女と一緒に治安が良くない場所に行くわけが無いからな。


「ん?」


 俺ものんびりずらーっと並ぶ商店を眺めていたら、大勢の子供達が出入りを繰り返している店を見つけ、一つの建物に掛かられた看板に目を引いた。


「カードショップバトラー?」


 看板の名前が気になった俺は近くの停留所に馬車を停め、誰にも盗まれないよう車輪をロックした。俺の行動に興味を持ったナビリスに銀孤の二人と一緒にその店まで向かった。

 道を歩く人々から向けられる驚愕の目線を気にせずに、カードショップバトラーと書かれた看板の店に辿り着く。


 開かれた扉の横に設置された窓から店内を覗き込む。


 奥にはカウンターらしきところが見え、そこにはエプロンを下げた三人程の女性店員が少年から金を受け取ると、白い紙で出来た掌ほどの大きさの四角い箱を渡していた。


 壁側には商品が展示されているのであろう何かのケースが一面を埋め込まれ。俺が店の店内を眺めている間も客であろう子供達の出入りは続いている。


 興味が湧いた俺は二人の美女を連れて、店の中へ足を踏み込んだ。


 店内は意外と広く、石材の色である白が目立ち清潔な印象を与え。奥へ目をやると無数のテーブルと椅子が並べられている。そこには二人の子供がテーブルを挟んで向かい合っていた。向かいあった子供の周りを囲むように眺めている子供達は真剣な表情で二人を見ている。


 そこ以外にも、ところどころのテーブルを囲むように集団が出来上がっており、興奮じみた声が店内に満ちている。


「ふーん、面白そうだな。ルールもしっかりしている」


 俺の背後でジッと立ち止まっている二人に聞こえる程度の音量で言葉を発し。、子供達の集まる一つのテーブルへと近づいていく。


 そこのテーブルも大いに盛り上がっており、テーブルの周りを囲む子供達も熱中しているようで隙間が無い。


 しかし、周囲の人より背が高い俺にはその中心で何が起こっているか見る事が出来た。


 中心に居る制服姿の二人の少年の手には日本で馴染み深いカードを扇状にして持っている。

 テーブルには、積み上げられたカードと一面に広げられた図形のようなものが描かれたシート。そしてその上に複数のカードが置かれている。


 それは、トレーディングカードゲームであった。


 俺も神界に居る時に、幻術魔法を加えたカードを創造しており、アニメのような演出が出来ようにして子供達と楽しんだこともあった。懐かしい思い出だ。


『これも召喚された勇者が広めたのか?やけにきちんと作られているが』


 念話を繋いでいる二人に言葉を洩らした。

 テーブルに置かれたカードには綺麗な絵が描かれ、この世界にはあり得ない技術で作られている。


 異世界特有の謎技術だ。勿論カード一枚一枚手描きでは無いだろう。


『初代国王が発明した魔導複写機を他の勇者が活用して出来た技術ね。学園にも教科書を作るために使用されているわね』


 俺の言葉に反応したのはナビリスだった。まぁ彼女はこの世界のアカシックレコードを既に読み終えているからな。


「ほぉん~。おもろいのぉ」


 そんな彼女の言葉に面白そうにテーブルを眺める銀孤。


 しかし、いきなり現れた俺と二人の絶世の美女に対決していた少年の手が動きを止めていた。

 周りの少年達もナビリスと銀孤の美貌に顔を真っ赤に染めて目開いている。


「…俺の連れがすまないな」


 勝負を中断させてしまった事に俺が謝り、二人の手を取るとカードを売買しているカウンターまで歩いた。


 カウンターの奥には、キラキラ輝く絵柄のカードがショーケースに仕舞われている。日本と同じように貴重なカードは頑丈に守られ、良く見ると店内の端には冒険者らしき見張りの男性もいた。


「すまない、一つ貰おうか」


 カウンターに積まれたカードが入ったパックを一つ手にして、カウンターの店員に話しかけた。


 他にも色々なパックがあるが今回はお試しに一つ購入してみよう。どんな感じでカードが入っているのか気になる。


「…はっ、はい!お一つ銅貨5枚となります!」


 ケースやゲームマットといったカードゲーム周辺の商品が立ち並ぶカウンターで、椅子に座り俺の姿をぼーっと眺めていた女性店員が俺の声に大袈裟に反応し、値段を伝えた。一枚のカードパックに銅貨5枚か、まぁ地球の値段よりほんのり高いがこれが妥当だろう。


「そうか」


 そう思いながらポケットから銅貨5枚丁度、女性店員に手渡す。女性の手に平に銅貨を乗せた瞬間、手が震えていたが気にしないでおこう。


「あ、ありがとうございました!」


 白い箱のカードパックを手にした俺は、店内から集中する視線から店を出て。停留所に停めた馬車まで戻って来た。


「いやぁ、神になってもこの瞬間はドキドキするよ」


 御者席に座った俺は早速購入したカードパックの封を切り、カードを確認する。


 パックの中には五枚のカードが入っており、残念ながら五枚ともキラキラでは無いいわゆるコモンレアだった。


「ふふ、残念だったわね」


 俺の結果に眺めていたナビリスが笑い、俺をからかい始めた。


「ま、仕方ない。でも最高レアをカジノの景品にしてみたら面白そうだな」


 寄り道で時間を食ってしまったので、ゴーレム馬の手綱を握り。今度こそ購入した土地へ向かった。



「ここか…確かに荒れてるな」


 のんびりと馬車を進め、目の前には草しか生えていない広場へやって来た。


 広さはショッピングモールが建築出来る程の広大な土地。しかし、目の前に広がる景色はボコボコにされた土地。大量に捨てられたゴミに、空間把握を使用したら土の中には殺された死体も埋まっている。


 しかも、すぐ横にはスラム街の街並みが見え。近くに居るだけなのに変な臭いが漂ってくる。カジノを建築する前にスラムを掃除しないとな。


「っま、全部魔法で何とかなるか。エレニールがカジノ経営の許可書を持参した次第、スラムから片付けるか。ナビリス、お願いだがスラムを牛耳る有力者の名をリストアップしてくれないか?建築する前に話を付けよう」


 無能であれば来世へ転生させればいいだけ。


「ふふ、了解ショウ。それより私もう帰りたいわ。臭いし、舐めるような目線が私に集まっているわ」


「そうか、それじゃ帰り道美味しい料理店でも寄ろうか?」


「おにぃはん、うちカレーが食べたいのぉ」


 銀孤はカレーが食べたいのか…貴族街に美味しいカレー屋があればいいが。まぁのんびりと行こうか。



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