第67話 破壊を望んだ者 

「死ねっ!」


 怒りを表しにながら全力の力を込め、緑色の髪で目を隠し薄気味悪い笑みを浮かべる悪魔の頭上目掛けて振り下ろした。その攻撃は流石長い間Aランク冒険者に務まるだけあって鋭く、そして素早い一撃。


「おおー重いねー。でも悪魔の首には届かないかなー?」


「っち!」


 しかしゴウテツの一撃は悪魔の手に持つ大鎌の柄に止められる。一歩も足を動かす事も無く涼しげな雰囲気で難なく強烈な一撃を防いでみせた。ゴウテツは難なく攻撃が止められたと理解すると咄嗟にその場から飛び退いた。


 すると彼がいた場所にもう片方の悪魔が振り下ろした大鎌が地面に突き刺さる。


「あれー攻撃外れちゃったー」


 地面に奥深く刺さった刃を呑気に抜き、今の攻撃で死ななかったことを残念そうに肩をそばだてる。


「もうだめだよメ―ゼングフォンデ、ちゃんと仕留めないとー」

「あははごめんごめんヨ―ゼングランデ、虫みたいに素早かったのー…って。だめだよー話してる途中に魔法を打つなんて」


 そう言うとユーリが放ったフレイムランス、ロードリヒのホーリーランスを「よぉー」とのんびりとした掛け声と共に大鎌を横に一閃し、向かってきていた魔法をかき消した。


「おおいねー」

「うんうんおおいねー。どうするヨ―ゼングランデ?」


 鎌を肩に乗せ、向かってくる攻撃を身体を捻じり躱しながら呑気に会話を続ける二人の悪魔。


 いや二匹の悪魔と言った方が正しいか?


「それじゃー先にあのおじちゃんをプチっとやっちゃうかなー」

「賛成ー」

 

 その言葉と同時に悪魔は地を蹴り跳躍すると、攻撃の機会を狙っているゴウテツの元へ普通に人では目に見えない程の速度で掛け走っていく。


「……ストーンウォール!」


 すると背後で敵の動きを細かく見ていたマギウスが土属性の魔法を唱える。

 彼の足元に茶色の魔法陣が現れ、ゴウテツと悪魔の間に石の壁が聳え立つ。


「きゃはは無駄だよー」


 目の前に現れた石の壁に足を止める事も無く、そのまま掛け走って壁事破壊しようとその大鎌を大きく振りかぶった。


「っ!よっと」


 大鎌を振りかぶる動作の取った瞬間を見計らったマギウスは石の壁に魔力を込めると、壁の中から大量の石の槍が悪魔を狙って飛び出して来た。


 いきなり飛び出して来た槍に悪魔も驚きの声を上げたが、言葉通り人間離れした悪魔に一度も攻撃は当たらず、飛び出て来た石の槍の上に足を着けると跳躍し石の壁を飛び越える。


 同時にカノンは放った魔力が籠った矢が向かってくるが、素手で叩き落とすと渾身の一撃をゴウテツに振り下ろした。


 悪魔の動きを読んでいたゴウテツはその両手斧を盾にするように持ち替え、鈍い金属音の音が響くと同時に武器の角度をずらし強烈な力が籠った一撃を右へ流した。


 しかし攻撃を流され姿勢を崩した悪魔だったが、ずらされた大鎌の刃を無理矢理地面に突き刺し身体を半回転させ、大鎌が唸りを上げてゴウテツの脇腹に鋭く突き刺さり、勢いをそのままに吹き飛ばした。


 脇腹から飛び出る血に顔を歪めるも、吹き飛ばされながらも手から離さなかった両手斧を地面に突き刺し、砂埃を雲のように撒き散らしも勢いを消した。


 即座にロードリヒが回復魔法を唱えゴウテツが受けた傷を癒す。


「申し訳ない、防御魔法が間に合いませんでした」


「気にするな。血は出ているが傷自体は浅い。鎧に助かったな」


「お兄さん呑気に突っ立ていていいの?それじゃその首僕が貰うね」


 他の邪魔が入らない場所で彼等の戦いを観戦してると、もう片方の悪魔が俺の姿に気付いたようだ。

 何か物騒な言葉を吐きながら、俺に向かって突進してくる。

 目は前髪で覆われて確認出来ないが、口が三日月形に吊り上がり、その顔には楽しそうに笑っている。


「ショウ!!」


 後衛で弓や魔法でゴウテツとユーリの援護に勤しんでいたカノンが俺に近付いてくる悪魔に気付き、大きな声で名前を呼んだ。


「じゃあーね、お兄さん」


 俺の首を狙った拭き被った攻撃は、腰を落としながら横回転し躱す。そしてがら空きになった腹を下から肩へ斬り上げる。そのまま足を止める事無く更にもう一度身体を回転させながら素早く悪魔の背後に周り込み、上へ持ち上げたままの手を今度は下に振り下ろし背中を斬りつけた。このまま真っ二つに切断することも出来たが、俺一人での悪魔討伐は後々面倒だと感じていた。


「っが!!」


 攻撃を二回も受けた悪魔が声を荒げ、地面に着地しようとしている。そんな隙を逃す俺では無い。


「お前がじゃあな、悪魔」


 苛立たしげに地に降り立った悪魔が背後にいる俺を見ようと、顔を振り向こうとした瞬間にはその顔面に俺の膝蹴りを叩きつけていた。

 俺の蹴りによって脳に幾重にも伝わる衝撃波は油断しきった悪魔が宙を舞う。勿論もう一体の悪魔の場所目掛けてぶっ飛ばした。


「っ!?おっと、危ないよヨ―ゼングランデー!…って斬られたんだねー?」

「ごめーん!僕も攻撃を受けるなんて思いもしなかったよー。それにあのお兄さん、結構やるよ?」


 突如、自分目掛けて飛んできた物体にに気付いたメ―ゼングフォンデが悠々と躱すが、飛んできた物体の正体に足止まっていた。その隙を逃さないと、ユーリの斬撃が炸裂するがそれも大鎌に弾かれ、逆にカウンターで勢い良く弾き飛ばした。

 二人の悪魔の顔が俺の方へ振り向く。これ絶対に目を付けられたな。



 それから悪魔二人と俺達の戦いは激戦を強いられていた。木の枝の様に振り回す大鎌をゴウテツ、ユーリが避け、反撃の一撃を与えるもその傷はみるみるうちに再生される。されに何回魔法を使わせようとも魔力が朽ちる様子も見えない。


 聖魔法が得意なロードリヒのお蔭で今はまだ負傷者は出ていないが、これも時間の問題だろう。まぁ無傷の俺が言うのも何だが。


「さっさとくたばりやがれっ!っはあ!!『爆砕分発』」


 地面が揺れる程の衝撃を持つ攻撃を叩きつける。ゴウテツの攻撃を軽々と後ろに飛び退くが、そこに剣を構えたユーリが待ち受けていた。

 剣を構える彼に気付いた悪魔が、空中で魔法を繰り出そうと片方の手を彼の方へと伸ばす。しかし、広場の後ろから援護をしているカノンが放った矢が突き出しだ手を貫通させた。


「っぐ!痛ったい」


 さらにマギウスの魔法による追撃が悪魔の脇腹に鋭い土の槍が突き刺さる。

 高ランクであるユーリがその隙を逃さなかった。


「逃がさないっ!『牙龍』」


 ユーリが放った剣技が炸裂する。忌々しく歯噛みしながら悪魔は大鎌で攻撃を防ごうとしたが、防御が間に合う事は出来ず武器を持った手が切り落とされる。


「こっ、小賢しいなぁもう!『スケルトンウォール』」

 

 手首を切り落とし、更に悪魔の首目掛けて横に追加の一撃を振りかぶったユーリだが。悪魔が唱えた魔法によって阻まれた。


 その間に地面に転がった手首と大鎌を残った手で掴み、城の方へ撤退しようとするが。猛烈な速度で飛んできた何かの物体が逃げようとした悪魔に直撃する。


 鈍い音が広場に響き渡り、他の冒険者達も悪魔に直撃した物体に目を細める。


 そこには俺が頭を掴んで放り投げたもう一体の悪魔の姿だった。

 そのボロボロになった姿を目にした冒険者達が一斉に俺の方へ振り向いた。何処か呆れた表情を見せているが俺は別に気にしない。


「呆れたぜショウ…普通悪魔を投げつけるかぁ?しかもお前、傷を負った痕跡も見えねぇし」


 双子の悪魔から一定の距離を置き、一旦皆で集まった途端ゴウテツから小言を頂いた。


「そうね。途中いきなり何処かに消えたと思ったら離れた場所で一人で戦ってたよね。…それだけの力があればソロで塔に挑めるのかしら?」


「治療は…必要なさそうですな。ショウ殿の衣服?にも傷ついた様子はありませんね。どうやらショウ殿には神からのご加護があるようですな。どうですか?王都に帰還した時に教会にでも」


「あはは、凄いなショウさん。僕と歳は近いはずなのに実力差が見えないよ」


「にゃははショウは凄いのにゃ!後ろで戦いを見守る事しか出来なかったけど、次元が違ったにゃ。」


「……うん」


 それぞれが言いたい放題に言ってくる。まだ戦闘は終わっていないがいいのか?


「まあ、そう褒めるな。照れるだろう」


 まぁ一応返事は言っておく。


「……ピクリと動かない顔で照れると言われても信用できないな」


 ゴウテツに言葉に他の面々から笑いが起こり始めた。


「ううぅ痛いなーもう手が取れちゃったよー全くぅ」

「がっ、っはぁはぁ…お、お兄さん強いね。今ま、で色んな世界に呼ばれたけど、お、お兄さんが一番手強いよ」


「っち!しぶといな悪魔って野郎は!」


 雲のように舞った土煙の中から二つの声が聞こえた途端、無駄話は辞め即座に武器を構え始めた。

 土煙が治まり、そこには切り落とされた手首をくっつける悪魔にボロボロになりながらもしっかりと呼吸を取っている悪魔がいた。


 緑色の髪が目を覆いどのような心情かは知らないが、声から怒りを表しているのが分かる。

 するとゴウテツが一歩前に出ると双子の悪魔に話しかけた。


「なぁ悪魔よ。お前達今、世界に呼ばれたって口に出していたが。お前たちをここに呼び出した存在がいるのか?」


 彼の言葉に他の者達もハッとし視線を悪魔へ向ける。


 本来は悪魔族はこの世界に住んでおらず。悪魔たちが住まう異空間、魔界に普段住んでいる。

 天使が住まう天界。俺や他の神が住まう神界では滅多に世界に降りてこないが、悪魔は違う。

 奴らはちょくちょく世界に召喚され、召喚者が捧げる生贄を餌に契約を結び契約者の願いを叶える。


「んーいないよー?」

「そ、そうそう、僕達が勝手に来たんだー」


…ん?


「どういう事だ。どうやって契約者の召喚術も無しににこの世界に降りてこられる?」


 思わず口を出してしまう。普通召喚者が差し出す生贄なしに世界に留まる事は出来ない。それが奴ら悪魔族の鉄則だ。勿論生贄も差し出さずに悪魔を召喚出来るが、その場合は召喚された悪魔に魂事吸われ魔界に戻されるはず。まあこういう知識は俺よりナビリスの方が遥かに詳しいが。


「…へぇよく僕達悪魔の事について知っているねー。まぁ魔界にずっといても退屈だったから適当な世界に転移しただけだよ」

「そうだよー。それと魔界からちょっと借りてきたダンジョンコアの力で生贄を貰わなくてもここに留まる事が出来るんだよー」

「うんうん、それに僕達も自分の世界が欲しかったからお試しにこの世界を壊す事にしたんだー。いいでしょー」


…。


「世界を壊す、か」


 どうやら現人神として初仕事のようだな。


「おいショウ、あいつら悪魔が言っている事が分かるのか?」


「まあな、それより今ここで奴らを消さないと俺達が住む王国が奴らによって破壊される」


 この世界を管理する現人神として、それは許されない。


「そっか…っよし!おめぇらあ!!全力で叩き潰すぞ!」


 ゴウテツの叫び声に答えるように他の皆の雰囲気が変わった。


 すると俺は腰に差した剣を背中に背負ったマジックバッグに戻し、とある一振りの武器を取り出す。実際はマジックバッグから取り出したのでは無く、インベントリーから取り出したのだが。

 その武器の外見は総毛立つような白刃の光を放ち、手に持つ武器を見た冒険者達がその業物に思わず息を呑む。


「…え?か、刀」


 ユーリがポツリと口から言葉が飛びてる。まあ日本からの転生者なら勿論知っているか。

 この世界にも召喚された勇者から伝わった技術の一つで刀も存在している。

 だが、刀工でもない一般人が詳しい日本刀の打ち方を知るはずも無く、あまり広まる事は無かった。


 鍛冶神から直々学んだ俺なら一から完璧に仕上げる事が出来る。

 俺が今取り出した刀は減悪刀と言い、対悪魔用として俺が昔打った刀の一振りだ。

 普通の武器で悪魔を殺せても、その肉体だけが崩れ魂は何事も無く魔界へ戻る。

 だが減悪刀に斬られた悪魔は魂も浄化され消滅する。


 正に悪魔にとっての悪夢の様な武器だ。


 実際に俺が取り出した刀に秘めこまれた浄化の力を察知した悪魔が数歩後ろへ下がった。


「今だっ!マギウスは魔法で動きを止めろ!カノンは俺達の弓で援護!ロードリヒは回復と聖魔法の付与!リディアは後衛を守れ!ユーリとショウは俺に続け!!」


「「「ッはい!」」」


「やばいね」

「うんやばいね」


 既に回復を終えた悪魔が立ち上がった。それ同時に俺達も行動を開始した。


「アローレイン!」


「…土よ……『グランドバウンド』!」


「我らの神よ 邪悪なる者より 堅牢なる守護を『ホーリーディフェンスエンチャント』!」


 カノンが悪魔の上を狙って放った魔力の矢が空中で無数の数に増え悪魔へ向かって飛んでいく。

 彼女が放った攻撃を横に飛び避けようとしたが、何かに足首を掴まれて動くことが一瞬遅れた。


 その瞬間既に双子の前に飛び出していた俺達の攻撃が悪魔を切り裂いていく。

 俺が切り裂いた傷口からは血では無く、黒い煙が吐き出させる。


 その煙の正体が自分達の魂だと気が付いた様子でその顔から余裕の色が消えた。全力を込めた大鎌に炎を纏わせ、大雑把に振り回す。


 炎が纏った攻撃に怯える事も無く鎌が振り下ろされると、素手で弾きその腕を肩から切り落とす。

 既に理性を失った悪魔の一匹が魔法を唱えようと残りの手を伸ばすが、それも切り落とした。

 一匹の悪魔は両手を失ったが、同時にもう片方の悪魔がグランドバウンドから抜け出し、まるで獣のような雄叫びを発したかと思えば周りの警戒をせずに俺へ向かってくる。


「っしゃああぁ!!」


 振り下ろした大鎌をゴウテツの両手斧で防ぐ。

 予想以上に籠った力に足が地面に凹んだ、しかし身体強化を使ったゴウテツも負けずと押し返す。


「閃け『クロス牙龍』!」


 背後に回っていたユーリが放った攻撃は膝裏と背中を斬る。


「バーニングアロー!」


 カノンが矢を放つ。


「……土よ 『グランドピラー』!」


 マギウスが唱えた魔法は地面から飛び出てきた土の槍が悪魔の首を貫く。


「ガぁ、ああ!まあっ!、まだだ!!」


 それでも怒り狂った悪魔は動きを止めない。


 その必死な姿に俺は哀れに感じた。…もう終わらせてもいいか。


「…滅斬」


 刀が風を切る音。二つの断末魔と共に二つの首を刎ね、ボトリと地面に落ちる。


 首が無い肢体から黒煙が靄のようになびいて昇る。最後には何も残らず煙となりこの世から消えていった。


「終わったか…」


「ああ」


……。



 馬が歩く音と、馬車の車輪から伝わる振動。双子の悪魔を撃破後、城の中を物色し最奥に置いてあったダンジョンコアを見つける。それから城の調査が終わり、激闘があった広場まで集合し、コアを地面に叩きつける。すると俺達を囲むように魔法陣が浮かび上がり次の瞬間、俺達は既に崩れ去った洞窟の手前まで転移された。


 森に挟まれた林道を進み、やがけハルロペ村が見えてきた。無事村へ入った俺達は前に泊まった宿屋に行き休息を取ることになった。流石に高ランクの冒険者達も精神的にきつかったらしい。


 休息と言っても俺は変わらずナビリスと銀孤に念話を飛ばしたり、解禁した神眼で世界をのんびりと眺めた。



 ハルロペ村から出発し三日後には目の前に王都を囲む広大な城壁が見えてきた。


「おい!皆あれ見ろよ!!」


 一緒の馬車に乗っていたゴウテツが何かに気付くと大声で全員に話しかけてきた。


 彼の声に迷惑そうな顔を見せながらも、馬車の窓から顔を出しゴウテツが指差した先を見る。


「あれは…飛空船か」


 遥か空中に巨大な船の形をした機体が浮いている。魔石と魔道具が使われた飛空船からジェット機のような防音は出ておらず、まるで重力など存在していないかのように王都へ向かって飛んでいる。護衛だろうか飛空船の周りには竜騎士達の姿があった。


「ああ、もうすぐ闘技大会が始まるな。あの飛空船はバンクス帝国の持ち物だろう。今回は帝国が召喚した勇者様も出場するらしいぜ」


「勇者…」


 彼の言葉に顔に変化を見せたのはユーリだった。まあ元日本人として気にはなるだろう。


 俺は闘技大会に出ないが、少し楽しみにしている。エレニールにでも頼んで見渡しが良い席を取っておいて貰おう。それに王国が主催するオークションも楽しみだ。


 こうして俺達は無事に依頼を達成し王都へと帰還した。

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