第163話 大野外演習その29

 一文字に振るう剣は結社の幹部、第五柱のゾアバックに重い一撃を横腹に叩き込んで遺跡へ吹き飛ばしたら近くで俺達の戦いを見物していた革命軍が指揮隊長が恐れを抱いて青ざめた顔でブルブル震える指揮棒を俺に焦点を合わせて下す命令に従って一歩戦場の前に出る数十人で編成した部隊。一同革命軍を表す大衆向けの革鎧に身を包み、二の腕には赤染した布切れを巻いている。

 前に出てきた男女半々で編成した小隊、他の部隊と異なり彼等の人差し指には魔力を無理矢理押し込んだ宝石が埋め込まれた指輪を装備していた。

 負荷を負ってまでぎゅうぎゅうに魔力を詰めた指輪を一目見た瞬間ろくでもない効果が付与されていると既知の上、指令を出した直後、警戒に念を込めて俺を中心に半径100メートルの魔力探知魔法を無詠唱で発動。魔力で生成された魔膜が大気中に紛れて周辺を覆い被さる。


『サー、イエッサー!』


 指揮官が口に出した召喚部隊、その不穏な響きに嫌な気配を感じ取った冒険者、教師陣も矛先を変えて遠距離攻撃を放つが召喚部隊より影を潜めていた持楯部隊が彼等の前に並ぶと、魔物の革で張った楯を斜め構えて降り注ぐ魔法と矢を防いだ。


 しかし間に合わない。


 性別、年齢が混合した部隊が一斉に嵌めた指輪を天に伸ばす。上へ掲げた指輪に埋め込まれた宝石は紫色の眩い輝きを放つと、小さな亀裂が入ればやがてクリスタル特有の綺麗な音を立てて割れた破片が地面の土に積もる。――直後、森が揺れる。大地の地震とは異なった横揺れ。範囲を限定された地鳴りは五秒も経たず収まった。


「おい!何だあれは!光の柱?」


 斜面を駆け下りて左翼の革命軍戦闘部隊と勤しんでいた一人の冒険者が吠えた大声が響く、彼の声が聞こえた他の冒険者達も目線を敵から外さずチラチラと周辺に視線を走らせる。瞳に映し出された光景に皆が驚いていた。


 地面の下から上方へ無数に伸びた光の筋、円形に形成された光芒が彼等の認識を奪う。革命軍によって生み出した光条は遺跡周囲のみならず森の中からも眩しい光が粉立つ。


『ギャギャギャ』

『ブゥロオオオオ!』


 間髪をいれず光柱の中から悍ましい魔力が広がり、聞くに堪えない魔物の荒ぎ声が耳に入る。


「っクソやられた!全員モンスターの襲撃に備えろ!奴ら事前に召喚術が組み込まれた魔道具を地面に埋めていた!」


 冒険者に登録してから多くの経験を積んだリーバスはいち早く指輪の効果に気付くと一目散に知らせる。彼が語った事実に他の面々の顔が強張る。数の多さは相手が圧倒的上にも関わらず、実力差では此方が上回ってた現状が裏返った。


「資金が乏しい労働者階級で群集した平反乱組織が何故!禁忌魔具の召喚石を大量に用意してんだ!」


 振り下ろした斧で革命軍兵士の縦真っ二つに斬り裂いたC級の男が鋭い声で叫ぶ。それで隙が出来たのか男の背後に忍び寄った十代半ばの青年兵が手に持った槍で突き刺す――直前、横に体を避けた男の回転斬りが首をすり抜けた。一隅のチャンスを軽々と躱された青年はバランスを崩して一歩二歩よろめく…既に彼の頭部は首から泣き離れて地面に転がり落ちていた。


「恐れ入ったが革命に楯突くゴロツキ共!結社より授かった技術の前に果てるがよい!全部隊ぃかかれ~!」


 敵部隊長が主張した方策は功を奏したらしく敵軍の士気が向上した。その間も魔物が光の柱から流れ出る。ダリアと教師陣が陣取る森にも光の柱より出現した魔物に意識を向けられて魔法支援が途切れた。冒険者側に厳しい状況、D級C級一人に歩兵五人で組んで攻撃を止めない所に追加で魔物も加われば、やがて注意を怠った冒険者に負傷者が出始める。


「傷を受けた最前線は前衛と入れ替わって遺跡で小休憩を取れ!ポーションを飲むのも忘れるな。奴らに回復する暇を与えてはならん!数は多さは此方が圧倒している!奴らを完膚なきまでに叩きのめせっ!」


 敵陣営中央で指揮を取る隊長に従って一糸乱れぬ動きで傷を負った兵士を他の兵が抱かえて背後の遺跡へ引っ張て行く。…そろそろ俺も動かないとな。


 迅速に魔物を対処しなければ最悪此方が全滅する未来を観た俺は剣を構えて右足を前に踏み込む。


「弓兵用意~!小僧に何もさせるな!撃て、撃て!」


 俺に向かって雨矢が降り注ぐ、相手ジョーカーだったゾアバックを撃退した俺が余程恐ろしいようだ。視界一面に映った絶えない矢の雨、しかし魔力も籠ってない平凡な攻撃など取るに足らない。ラ・グランジ冒険者支部ギルド長シノン・カータウェルが放つ弓術とは雲泥の差。


「海王斬」


 水の魔力に闘気を加えた剣を空中へ振るう。弧状に湾曲して描く矢の雨に聖銀刃の光が、陽炎に閃く。剣身より分離した魔力で構築した三日月の斬撃がグングンリーチを広げて上空より接近してきた雨注の矢を突き抜けて発生した風の影響で威力を消滅させる。おっと、見渡せば革命軍が張った罠の召喚魔道具で呼び出した光の柱が収まっている。


「隙やりッ!革命の待望の為邪魔するお前は犠牲になってもらう!」

「ぅぉおおお!」


 俺に向かって飛んで来た弓矢に意識を取られて油断だらけと勝ち気に思い上がった雑兵が五名駆けずり、無防備な背後の隙間を囲むよう手に持った武器を振るって命を狩ろうと殺気丸出しで掛かって来る。


「(遅い)」


 重心を右足に残しつつ左足を後方へ引き、剣を持った右手首を90度返して繰り出す回転斬りを繰り出す。綺麗な水平をなぞった剣線に神経が行き届かない襲撃者五人の上半身が滑らかに流れ、血と臓器を外に零しながら草原に墜落する。瞳孔の中に光は既に消えていた。


「内なる魔力で我を守れ『魔障壁』」


 すると遺跡方面より魔力の急激な高まりを肌に感じた俺は先んじて真横に魔力の壁を唱える。瞬間、生成した魔障壁に激突した衝撃が砂煙を上げる。視線を向ければ衣服がボロボロに汚れたゾアバックが二撃目を繰り出さんとしていた。


「俺の首はまだ繋がってるぜぇクソガキ、二ラウンド目だあ!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る