第164話 大野外演習その30
雑兵5人を囮にして此方の視野に死角を突いたゾアバックの奇襲突撃は先んじて気配を感知していた俺の魔法障壁に阻まれた。斬り捨てた革鎧に着用した兵士の身体は上下に分離して勢いよく地に伏せた骸をゾアバックは気に掛けた思案の表情は無く、ギラギラした殺気を向けている。
「硬えなぁおい!拳がジンジン痺れるぜ!」
当初、此方に姿を見せた時に着衣していた上着は遺跡に激突した衝撃でボロ雑巾化としたのか服を脱ぎ捨てて上半身を露出している。固太りのかっちりした強靭な体に傷は負っていない様子。建物の壁に激突する間際に自らの体に反射効果を付与したか、ポーションで怪我を完治したどちらかは気遣う必要は俺に持ち合わせてない。
「(蛇の刺青だけじゃ無かったのか…)」
俺は気になった事に視線を向けた。手から首筋に掛けて蛇が巻き付いた腕に彫られた刺他に、獅子の正面顔を連想させる刺青がゾアバックの腹部に施されていた。現状獅子の刺青も青白く光り輝く意味は異なる能力を発揮しているのが適切な考え。相性の良い能力は恐らく身体能力向上か俊敏性を底上げかのどちら一つ。魔法障壁より伝達した威力を速度に換算すれば後者の可能性が高いが…敵対者の能力が分かった所で対処が変わる訳では無い。
「ッオラア!」
俺が張った障壁に当てた拳を引けばもう一度、魔力と刺青の能力を組み合わせた拳を魔力障壁に打ち込む。大きな爆発音を奏でて風圧を受けた草叢が根ごとそぎ取られて宙に舞った。
だが、魔力障壁は亀裂一つ無くその場に健在している。
「しゃらくせえ!」
感情の高ぶりのまま二撃、三撃目、幾度もなく目の前に立ち塞がる澄ました表情ままの俺を目標に力任せに爪が食い込むほど握られたその拳を、叩きつける。猪突猛進、その表現がよく似合う。
「クソックソッ!まだ破れね!?杖無しで唱えた障壁が何で耐えている!」
拳撃が当たる度に反射の能力で少しずつ全身が後方へ押し戻れるけど、未だ崩れない防御に腹を立てるゾアバックは子供が見れば恐ろしさで失神する剣幕で俺に咬みつく。
「氷の魔力よ我の声聞き届けにて汝が敵を貫け『
何度目かの拳を受ける瞬間を狙い魔力障壁を解除した俺はバックステップで後ろに下がり氷属性の魔法を詠唱すれば左手に長さ1メートルの氷の槍が形成された。あれだけウザかった障壁が消えて突如氷槍が出現した事実に反応しきれてないゾアバックの顔に左腕を突き出す。
「カ、カウンター――ッ!」
己の瞳目掛けて接近してくる氷の槍に無意識の内に反射能力の言葉を唱えようとしたゾアバック。普通、他者が詠唱する
故にゾアバックの隙を突けた。
間に合わないと悟った反射の詠唱を中断したゾアバックは無理矢理首を左に捻ったことで致命傷を避けることが出来たが、完全に避け切れず耳輪の一部が欠けて今戦闘初めての切傷を負った。
「それは悪手だ」
堪らず後ろにジャンプした間合いを広げたゾアバックへ一言口に零した、突き出した姿勢を保ったまま肘を曲げて上腕の力のみで氷槍を投擲した。
「インパクトー!」
150㎞を超える速度でジャイロ回転を描いた槍は一直線にゾアバック目掛けて飛んで行く。然し次の攻撃を待ち構えていた彼は能力を発動させて両腕をクロスする風に胸元で交差した中心に飛翔した槍が直撃、腕に触れた魔法現象を反射、斜め後方へ分散された氷の欠片が杪秋の空へと散り舞う。
「グルルゥゥガアォ!」
「グゥガアガァオオ」
「ゥウウウガア!」
一瞬膠着状態に成ったと思いきや、革命軍が起動した召喚魔具より呼び出した背が低い犬の頭を持つ人型の魔物、通称コボルトの群れが二足歩行で此方に向かってくる。手には錆びた短剣、石斧、先端が欠けた小鎌。何れも俺に効果の無い武器。
数は多いが即座に殲滅しようと流刃の構えを取ろうと腰を落とし――。
「魔物は俺が狩る!ショウは敵将に集中してくれ!」
剣を構える前にリーバスの掛け声が耳に入れば跳躍した音と共に目の前に着地した彼の背中姿が。左足を前に出し腹筋の重心を落として両手に持った槍を大上段構えたリーバスをさっと目を通す。魔物の返り血やら千切れた毛やら皮膚等が防具にこびり付いているが傷を負った痕跡は見れない。
「すまん魔物の数が多くて加勢に遅れた!ダリア嬢も教師方を守りながら森から来た魔物を対処している」
そう告げながら飛び掛かって来たコボルトの首を槍の一突きで絶命させ流れる動きで曲げた片腕を跳ねてコボルトの頭部半分に別ける。上に上がった槍はその場に固定、腰と脚だけ位置を変えて真下に振り下ろす。巻き沿いを受けたコボルトはその小さい体を左右二つに分離した、高威力で振り下ろされた槍は地面に接触、轟音と土砂を巻き起こした。
衝撃波を喰らい事切れたコボルトが五匹、まだまだ多く残っている。
「ブウウウモオオオォ!」
「グルゥガアアア」
追加で轟音に導かれたオークと付き添う新たなコボルトの集団が寄って来た。…リーバスが加勢したのは有り難いが、悪化してないか?
「ッチこれじゃ埒が明かない!」
人間の頃なら苦笑いを顔に拡げてた、と内心思う傍に苛立ったように唸り声を零したリーバスは両手で持った槍を水平に構え。
「
そう呟けば長い柄中心からポッキリと二つに分かれる。一般的な武器じゃ無かったのか…。
「我こそは『双剣』のリーバスなり。此処でご覧あれ!」
柄に流した魔力は剣の形に変換された。
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