第165話 大野外演習その31
「
長槍から輝く魔力が流れた双剣へと変化した片手剣を左右の手に持ったリーバス。続け様に鎌倉武士を喚起する高らかに通称を名乗った彼の足元より一瞬魔力が爆発的に跳ね上がった。
「スゥーッせヤア!」
腹に溜めた息を吐き出すと同時にリーバスの姿が残像を残して消える。
「ギャアアア‼」
「ゴッフウウゥ!」
一瞬にして風と成ったリーバスが振るう刃は毛で覆われたコボルドの首を深く斬り裂き、首から噴水如く噴き出す出血が地面を赤に染めて倒れる魔物を差し置いて、流れるような連続攻撃で次々と魔物の数を圧倒的な速度で減らしていく。相次いで減っていく魔物もただじっと呆ける事は無く、無鉄砲に武器をぶん回してリーバスに当てようと健闘するが彼に掠りもせず逆にカウンターを貰って絶命する。
10秒も経たない内にあれだけ居たコボルトは血の沼を造り全滅。残る群れは分厚い肌の特性を持つオーク、連携して襲うことから冒険初心者殺しとギルドより注意喚起されるフォレストウルフ、サイ科と思わしき角を頭部に生やした二足歩行する大猿。雑魚のコボルトと比較しても遥かに危険な魔物が魔道具で意思を縛り付けた敵指揮官の命を従ってリーバスに襲い掛からんとする。
「遅い、遅い!俺の尻尾は掴めんぞ!」
一匹の魔物に対してD級、C級のパーティーを組んで立ち向かう強さを誇る魔物に屈しせず、足に溜めた魔力を消費することで高速移動を可能にしたリーバスは剣を振るう。肉が厚くて首を斬っても致命傷にならないオークには、速度より生成された運動量を利用した突き技を唯一防御が薄い目に繰り出す。角度を調整した突き技は目から脳を貫通、感じる間も無く瞬殺させる。ビクッと体を痙攣しその場に膝から崩れ落ちた。
「(威力はエレニールに数段劣るが、魔法で加速した移動スピードはほぼ同じ)」
一般人から見れば影すら目で追えない移動で魔物の群れを翻弄する魔導国冒険者支部きってのエース『双剣』のリーバス。その速度はS級ランクに片足を入れた程度。彼が皆から尊敬され好かれる理由が少し判明した所で…。
俺に向けて鉱物質の塊が飛来してくる、体の軸を中心に後方へ回転しながら剣で斬り払う。ッチンと固い物質を斬った感覚が手に伝わった。狙いがズレて地面にめり込んだ飛来物を目に入れば淀み無く綺麗に切断した何処にでも転がっている無難な石。
投石した張本人へ視線を向ければ上半身裸に彫られた刺青を発光しつつニヤリ顔で俺を見つめるゾアバックの姿が。手の平に掴んだ石をお手玉感覚で遊んでいる。魔法による肉体強化に加えて反射の能力で投石の威力を増幅させたと観測する。
此方の氷魔法で欠けた耳輪の出血は止まっている、リーバスに意識を向けている間革命軍からポーションの支援を受けたか…。
「ふぅ魔力が底を尽きそうだ。魔力ポーションが余っていたら分けてくれると助かる」
二分経たず襲い掛かって来た魔物の群れを一通り殲滅を成し遂げたリーバスは俺と背中合わせで話しかけてきた、神眼を尻目にかければ彼が告げた通りステータスMP《魔力》が枯渇寸前だった。むしろ純魔法職業に就いてないリーバスが、あれだけ一点に留めた魔力を爆発させて短時間でも疑似的にS級並みのスピードを二分以上解放出来た才能に賞賛の拍手を上げたいほど。
「ほら、助けてくれたお礼だ」
腿に巻き付けたレッグポーチの金具を外して中から取り出した2級魔力ポーションを背中合わせのままリーバスに手渡した。俺の背後から『シュ』とコルクを抜いて空気が抜ける穏やかな音が耳に入る。続けてゴクゴク喉の奥に流し込む音も聞こえた。
「ップア!頂戴したのは素直に嬉しいが、魔力の回復具合から鑑みて高級ポーションだったりしないか?」
「助太刀のお礼だと言っただろ?それに素質ある冒険者が今倒れるのは俺も避けたいからな」
「…そういう事か。ならばならば遠慮なく感謝するショウ」
「敵を目の前に世間話とは俺様も舐められたモノだぜ。なぁ宿敵『孤独狼』」
二人の会話に割り込んできた結社の幹部格ゾアバック。額に青筋を浮かべる感じ、燃え上がる怒りを彼の全身に渦を巻いているらしい。ゾアバックより発せられる激しい熱が俺の肌に直撃している。
…一個気になったから問いかけてみるか。
「お前は俺を仇だ、宿敵やら喧伝してるが…罪も無い村を滅ぼした非人を屠った俺は果たして悪なのか?」
「……テメー」
俺の質問すればゾアバックは動きを止めたが、代わりに膨れ上がる殺気を此方にバチバチ放つ。しかし、口から零れる問いかけは続く。俺に背中を向けたままで双剣を構えるリーバスも気になるようで意識を此方へ向けている。
「ギルドの調査依頼を受けた俺は村で起きた惨状を目の当たりにした。建物は無残に破壊され、平和で普段の暮らしに満足してた村人は結社が使役した魔物に一人残らず食い殺され――挙句の果てガディと名乗った結社の狂人が殺した村人からくり抜いた目の玉をおやつ代わりに頬張っていたのだぞ?俺は抵抗できずに殺された霊魂の無念を晴らしたまで」
「そんな吐き気を催す出来事だったのか⁉」
密かに此方の話を聞いていたリーバスから腸の煮えかえるような呪言が彼の口から飛び出た。正義感が強い実力者の彼からすればとても受け入れがたい内容だっただろう。対してゾアバックの反応はある意味予想出来た――。
「ッハン!結社が掲げる大願に比べれば有象無象が暮らす村一つ、二つ。この世から消えても些細な事象。殺されて当然な雑魚」
「ッツ!き、貴様ア!!」
吐き捨てる風に口走るゾアバックに怒りで我慢のダムが崩壊したリーバスが耳をつんざく咆哮の叫びを上げながら敵へ突進して行く。俺が止める間も無く、回復したばかりの魔力を放出させて風を斬り裂く速度で駆ける。
「カウンターインパクト!」
身軽さを生かして連続攻撃を繰り出すリーバス。手数の多さで少ないダメージをゾアバックに蓄積出来るかに思えた。だがリーバスの刃は反射の能力に阻まれ攻撃が与えれない、俊敏性を向上させる腹部に彫られた獅子も発動済み。
「怒りで我を忘れた剣筋など、子供騙しの木剣遊びと変わらん!」
「ックソ!ショウはこんな厄介な敵を圧倒していたのか!」
「アァ⁉誰が圧倒だとぉテメー!」
リーバスが振るう剣とゾアバックの拳が接触、反射の能力により跳ね返され身体を後方へ吹き飛ばされる。踏ん張り乏しくゾアバックに決定打を当てえる事は出来なかったが今、リーバスは好機を作った。俺とリーバスの位置が線で重なり、敵の視角から此方の姿を認識できない。
「無の星屑は理の合一、一文字に有は義に無し――」
鞘に収まった状態より握った柄を抜き放つ、音速を超えた瞬歩は俺を中心につむじ風が巻き起こる。剣神より伝授された剣閃は時間を超越する、抜かれた剣身に光が反射するよりも速く、さながら細い光の線の如く輝いた。
「神剣術・月隠れ」
「テメー一体何処から現れ…ガア!手が!俺の手がアあ!」
敵からすれば急に剣を振り終えた状態で俺が真横に転移した様に見えるだろう。驚いた表情を見せたゾアバックが何か言いたげだ直後、遅れてやってきた激痛が彼の体を蝕む。痛みが走る右腕を抑えるゾアバックの手首から先が切断された事実すら認識できなんだ。
「す、凄い…」
俺が魅せた剣技に我帰ったリーバスが短く呟いた瞬間、宙に舞い上がった右手が地面に落ちた。
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