第103話 料理コンテスト

 食欲の秋。それは、地球とは遥か離れた世界でも同じ言葉は存在する。暑かった夏も過ぎ、魚類、きのこ、根菜類、果物など秋の食材が目にとまり、色々と食べてみたくなる季節。食材が豊富に獲得出来るダンジョンや付近の都市、村では普段より栄えている。


 地球と言えば、メルセデスが姉妹達と共同して何やら企んでいるらしいとナビリスから教えて貰った。俺も念の為メルセデスに念話を送り語り合った。娘たちの共謀を聞く限り何も心配は要らないとこれ以上触れなかった。「触らぬ神に祟りなし」の神は娘に宛てたピッタリなことわざだ。勿論、正面切ってメルにそんな事を告げれば母親に泣き付いて結局俺が半消滅するまでボコられるだろう。


「おにぃはん、お兄ぃはん。これ!これ見てくんはい」


 本館のリビングにてナビリスが注いでくれたミルクティーを堪能していると、何やら動揺を隠せない銀弧がリビングに入ってきた。彼女の手には一枚を紙が握られている。チラシ…か?


 多様な絵柄がついた丈が短い着物からスラッとした見目好い足が見え、履物は銀弧お気に入りの靴屋で購入した汚れ一つ見えない絲鞋を履いている。背後に見え隠れする九本の尻尾は円を描くように回転している。彼女がこれ程興奮するのは珍しい。


「ん…、王国で一番美味しい料理は何処だ?いざ、汝が世界一の美味い料理だと豪語する者はコンテストに参加し、決勝まで進もうぞ。ランキャスター王国、料理ギルド主催、料理コンテスト。…開催日は、明後日からの五日間」


 銀弧から渡されたチラシに書かれた内容を読む。銀弧を良く知る奴隷が食いつくと思って渡したのだろう。


 成る程、彼女がこれ程まで興奮気味なのに合点がいく。再度チラシに目を落した、詳しい内容は裏に示されているとの事で早速紙を裏返し文章に目を通す。


 裏に書かれた内容を要約すれば。


 自慢の料理を客に食べさせたい料理人は料理ギルドでコンテストに応募、参加する。大会時は自分の屋台持参、食材は自分で用意しても良いしもしくは王都で購入しても構わない。食材に掛かる金額に限界額は示されていない。


 もし人手や売り子が必要なら料理ギルドや冒険者ギルドで雇える。てか、トラブル防止の為雇った方が良いらしいと注意深く大きな文字で書かれている。


 四日目で参加者を30人まで減らし、最終日である五日目の夕方に残った4、5名を審査で優勝者を決定する。


 優勝者は白金貨5枚と額縁に入った賞状が授与される。賞金が少ないと感じるが、まぁそんなもんだろう。


 その他禁止事項等、守るべきのルール等がビッシリ書かれているが俺は参加しないので割合しておく。


「銀弧は料理コンテストに参加したいでは無く、そこで出てくる出場する屋台を巡りたいんだな?」


 念の為、瞳を輝かせて俺をまじまじと見つめる銀弧に尋ねる。


「うんうん」


 喜びをほほに浮かべ可愛らしく頭を上下する度に白い狐耳が乱暴に揺れ、勢い余ったのか数回俺の髪を掠める。


「そっか、俺も楽しみだ。銀弧が気に入った料理が見つかったら俺にも教えてくれよ。独り占めはダメだぞ」


「ふふ、ウチがそんなぁけったいな事しませぇんよお。美味い料理は皆で頂ければの。ナビリスはんも誘いましょ?」


「ああ勿論だ」


 二人の美女が屋台巡りでもすれば最悪料理コンテスト自体中止になる可能性もあるが、ここは何も言わないでおこう。特に待ちきれない銀弧を悲しませたくない。彼女には数千年味わえなかった幸せを感じて欲しい。


 早速戦闘奴隷に稽古をつけているナビリスに話をしてこよう。

 


「いらっしゃい!新鮮なたまごサンドはいかが~!?」


「みてらっしゃい、寄ってらっしゃい!我が特性レシピを使ったカツはどうかね!」


「ダンジョン内部で採れた新鮮なサラダに、これもダンジョン製の肉を使用したミートボールスープは頬も蕩ける絶品だよ!早い者勝ちだよ!」


「乾いた喉にはこれ!甘味がたっぷりと詰まったグレープジュース!一杯、特別に銅貨2枚だー!」


人、人、人、人。


 大勢の人で埋め尽くされた王都一の大広場は大層賑わいを見せている。料理コンテスト初日だと言うのに長々と横に続く屋台の列にゾロゾロと並んだ客達。


 事前情報で此処の広場が一番の激戦区と知らされていたが、この賑わいは闘技大会に負けず劣らず。危険の心配は要らないが何と無く隣を歩くナビリスと銀弧の手を握る。


 突然と手を握られてたナビリスは平然と表情を変えず握り返し、数えきれない程の屋台に忙しくあちこち見渡す銀弧は肩を些か跳ねるが、俺の方を顔を向けると満足そうに顔をほころばせ手を握り返した。


 しかし、直ぐに目線は屋台に用意された数々の料理へと固定された。


 立ち並んだ屋台の看板には番号を書いた布地を垂らした屋台とそうじゃない屋台が見受けられる。そう言えば、此処に来る途中に番号が書かれた布地を掲げたレストランもあったな。


「おにぃはん、ナビリスはん!端から順に食べましょう!」


 握った俺の手を引っ張る様に掛け走るで爽快な香りが漂う屋台の端へ向かう。


 銀弧に引っ張られながら俺とナビリスは目を合わせ、同時に苦笑いを浮かべる。他の人間から見れば両者真顔で見つ合っている風に思うが、別に何も気にしない。


 それどころか、広場に集まった人は今正にナビリスと銀弧の美貌に見惚れている最中だからな。


 二人の服装も高級感溢れた物を身に着けている。


 今回の主役とも言える銀弧はもしもソースが零れても大丈夫な黒のパーカーにダークブラウン色の丈が短いミニスカート。ブーツは膝まで守ったレースアップ・ブーツには彼女の好きな色でもあるピンクの靴紐で通している。


 一方のナビリスは彼女の銀色の髪にピッタリ似合う青蘭色のブラウスの下に白のシャツを着こんでいる。


 シルエットがハッキリと分かるタイトスカートを上品に着こなして、茶色のブーツを履いている。この前俺と二人でデートに行った時にプレゼントした品だ。


 彼女等が通り過ぎる度に老若男女、貴族平民、何者であれ視線を集め二人の美顔に心を撃ち抜かれた者は数知れず。今も屋台の行列の最後尾に並んだ瞬間、前に並んでいる客全員一斉に後ろを振り向き、身体を硬直させる。その中には焼きそばを焼いている店主も動きが停止していた。すると鉄板から香る焦げ臭い煙に気が付いたようで硬直状態から解除された。



「どうだ銀弧、お気に入りの料理は見つかったか?」


 数時間後、俺達は広場付近の喫茶店に居た。


 屋敷で嗜む紅茶の味と少し異なり、それが新鮮な気分にしてくれる。後で豆も購入しておくか。今日も働いている奴隷達のプレゼントに丁度良い。


「ん~。どれも美味しゅうさかい、特に『これだ!』と思ったぁ料理は無いんのよ」


 まぁ、あれだけ大量に口に放り込んでいた彼女からしたらどれも一緒か。銀弧に料理を渡した瞬間消えるように胃袋へ流れお替りも要求する彼女に店主も驚愕していたからな。ナビリスも普段通り無表情で食べていたが、それでも人五人前はあっという間に平らげた。っま、二人が楽しそうで何よりだ。


 今回足を運んで来て良かった。


「これから料理ギルドに寄っていくか?其処で一番美味しいと思った店を番号が振られた箱にギルドで渡されるコインを投入するらしい」


 全てチラシの裏に書いてあった。


「ウチはもう満足したけん。今はナビリスはんのデザートを食べたい気分やぁ」


「はは、ならもう帰るか」


 そうだな。人間のイベント事に俺達が介入する訳にもいかないな。


 こうして理コンテストは初日を終えた。


 結局、俺達三人は優勝者が決定する最終日まで毎日足を運び、コンテストに参加した店を全部制覇した。


 優勝した料理も食べてみるとやはり俺も満足する味であり。翌日ナビリスが負けじと同じ食材を使用した料理を作る光景を目にする。


 思わず愛くるしいと無意識に念話を送ったのは恥じるべき不覚。


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