第40話 奴隷商へ向かう現人神

 馬車も完成した事だし。早速使用人を雇いに王都で一番デカい奴隷商へ向かうとしたが。彼等が住む使用人専用の離れの建物を見ていなかったので。まず先にそちらの方へ寄った。


 離れの館は本館からそれ程離れていなく。どれだけ遅く歩いても数分で着く距離にその建物はあった。


 外見の大きさは使用人専用の建物には全く見えず。立派な屋敷がそこに建てられていた。


 二階建ての洋館で。本館と比べたら数段小さいが、それでも下級貴族が住み自慢できるレベルの大きさだ。


 建物は凹のような形になっており、真ん中に入口がある。


 入り口までの道を示された純伯の石畳の上を歩き、鍵が掛かっていない玄関扉を開き。中へ入る。


 俺が玄関から入った途端、この洋館に設置された灯り型魔道具が作動し。正面の玄関ホールが明るくなった。使用人が住む建物の割に、物凄い金額を投入しているな。


 日の光が灯された廊下を歩き、内部を確認し始めた。


『…意外とシンプルだな』


 全ての部屋を回り、初めに思ったのがその建物の外見には似合わないシンプル差だった。

 本館と同じパーティーが出来そうなホールや応接室などがあった。

 廊下も絨毯が引かれ、汚れも落ちていない。


 しかし、俺とナビリスが住む本館との違いが幾つか発見していた。


 まず、この屋敷には100人以上は楽に入れるだろう巨大な食堂があった。

 長細いテーブルが幾つも置かれ、奥のキッチンには使っていない綺麗に磨かれた巨大な鍋が置かれていた。

 それに、浴場も広く。洗面台や、一人用の浴槽が大量にあった。ソレも全て魔力で動く魔道具で。

 流石に組み込まれた魔石は魔力がすっからかんだったので。俺の魔力で補充しておいた。これで数十年は補充しなくてもいいだろう。


 最後に一階と二階には、使用人が寝泊まりする一人部屋が合計で140室以上はあった。全ての部屋は細かく見ていないが。数室確認したところ、部屋の中にはシングルベッド、テーブルと椅子。箪笥と本棚が設置されていた。しかも魔道具のランプ付き。正に使用人が住む寝室だった。


 これほどの人数を雇うか分からないが。もし部屋が足りなくなったらチョチョイ、と増築すればいいか。


 ハッキリ言おう。魔道具を売り払うだけで下級貴族の屋敷が購入出来るかもしれない。


 何故王族は全ての魔道具をそのままにしていたのだろう?売れば結構な額になるはずなのに。


 まぁ『エレニールのお爺ちゃんだから』で理由が付くか。


 地下室に向かい、そこには食材を保存しておく空間があったが。流石に食べ物は入ってなく。インベントリから神界で育てた野菜や、肉などを補充しておいた。それに加え、冷凍機の役割を持った小型魔道具を置いていた。これで食材が腐る心配はない。勿論一階のキッチンにも業務用の冷蔵庫を置いており、中身も満杯だ。


 っお、ここにもワインセラーがあるのか。まぁ使用人が飲みすぎないようにアルコール度数が低いワインを入れておくか…樽ごと。


 地下室から一階へ上がり、廊下を進みながらふとこの屋敷には装飾品が飾られていない事に気付いたので、インベントリの中から適当に絵や壺、魔物の剥製をパパパッと飾った。もし盗もうとした奴は転生送りでいいか。来世に期待しよう。


 この洋館にはパーティーが出来そうなホールが二つもあったので。一つはそのまま残して、もう一つは創造魔法で内装を図書館風に変え。何も置かれていない本棚に大量の本を入れた。喧嘩しないように同じ本を複製しておいた。ここに置かれた本を読むことで、彼等の意外な才能が開花したら実に面白い。


 …うん、やっぱ図書館の内装はカッコいいな。神界で創造した図書館よりは比べ物にならない程小さいが。


 あそこに置かれた書物は殆ど漫画だし。しかも漫画の取り合いで喧嘩をし始めて何回図書館が消滅したことやら。



 後は……これで終わりかな?

 最後にキッチンにジュースサーバーを置き、現人神による家魔改造は一旦終了した。


 そう、一旦。


『今から作った馬車で奴隷商へ向かおうと思っているがナビリスも行くか?』


 肉体を手に入れた彼女と二人で王都を探索したかったので、念話で尋ねた。


「ええ、勿論良いわよ」


 すると即座に俺の真横に転移した張本人が満面の笑みを見せながら腕を組んできた。


 これも良いな。


 彼女の大胆な行動に少しだけ笑みを浮かべながら二人で馬車まで歩いた。


「ねぇショウ?」


 二人で横御者席に座り。馬を操る振りをしながら我が家から目的地である奴隷商まで王都の街並みを散策していた。やはり自らの目で見るのは新鮮なのか、忙しそうに周りを眺めていた。


 王都で一番有名な奴隷商がある場所は貴族街を抜け。一般街の東側で様々な商売が盛んな繁華街の一角にある。その奴隷商が扱う奴隷はどれも質が良く、貴族の使用人に成る為の教育も受けているらしい。


 神眼で確認しただけで、断言は出来ない。


「ん、どうした?」


 のんびりと御者席で過ごしていたら、手を握っているナビリスが俺の名を呼んだ。

 今でも念話で俺に伝える事は出来るのに、彼女は頑なに口で会話をしようとする。そんな彼女が恋しい。


「奴隷は何人ほど買うつもりなの?」


 …そうか、彼女は一応メイド長だもんな。彼女も知っておかないといけないな。


「今回は数十人買うつもり。まぁ、面白そうな奴隷が居たら何人でも買うけど」


 奴隷商が持つ奴隷を全て購入しても構わないが。それはナビリスに負担が掛かる。それ故今回は少なめの人数だと彼女に伝えた。


「ふふ、分かったわ」


 少しだけ笑うと、今より体をくっつけてきた。御者席に座る彼女の美貌に見とれていた通行人からの殺気が膨れ上がった。彼女は全く気にしていない。彼女は下界の住人など全然興味ないからな。それでも俺は構わない。それがナビリスの流れる運命の川なんだから。


「着いたな。ナビリスも中へ入るか?」


 そのまま目的の奴隷を扱う建物までやって来た。流石王都一と言っても過言ではない奴隷商だ。他の建物の大きさが段違いだ。建物の手前には大量の馬車が置ける広場まで設置されている。こういう気遣いはとても良い。


 馬車を停止し。傑作を盗まれないようにタイヤ部分をロックし、早速ナビリスが開けてくれた扉を潜った。


「いらっしゃいま……」


 俺が中へ入ると、執事服に身を包んだ青年が中へ入って来た俺にだるそうに挨拶をしようとしたさなか。後から中へ入って来たナビリスの姿を見た瞬間固まった。固まったまま一切動かない。屍のようだ。


「……せ」


 っお、やっと最後の言葉を出せた。


「フレドリック商会へようこそお出でくださいました。今日はどのようなご用向きでしょうか」


 さっきまでヤル気の無い対応は何処に行ったのか、姿勢を真っ直ぐし礼儀正しく対応をしてきた。


目線はナビリスの顔をロックオンしているが。


 …仕方ない。


「奴隷を買いに来た」


 俺が今日やって来た内容を受付の青年に伝えると。ほんの少しだけ俺に目線を向け、一瞬でナビリスに戻った。


「成程…かしこまりました。どのような奴隷をご希望でしょうか」


「家を購入してメイドや使用人が必要になったから、その為の奴隷を買いたい」


 一切俺に視線を向けないな。逆にその欲望に尊敬するよ。ナビリスは青年の事なんか全く気にしていないが。


「成程、成程畏まりました。人数はどの程度で?」


「今回は二十人ほど。後日追加で購入するかもしれないが」


 おっと、流石に驚いて視線を俺に向けてしまったが。もっと頑張れると思ったが、こんなもんか。


「二、二十人でございますか。では、こちらの応接室へどうぞお入りください。担当の者をお呼びしてきます」


 そのまま受付の横にある扉を開け、応接室に通された。ナビリスが扉を閉じるまで青年は彼女を見つめていた。罪な存在よのぉナビリスは。


 通された応接室に入り、奥に置かれたソファーに座り。テーブルに置かれたクッキーを食べながら俺の担当する店員を来るのを待つ。


「失礼します」


 数分程そのまま待機していると、応接室の扉がノックされ。俺が許可を伝えると、初老の男性が入って来た。先程の青年とは違って礼儀正しい対応だ。


「始めまして我がフレドリック商会へようこそ。私は会長のフリドと申します。初めに貴方のお名前を教えてもらっても」


 会長とは彼等も大きく出たか。まぁいきなり数十人の奴隷を買いたいと言われたら、それ相応の人物が対応しないとな。


「こちらこそ宜しく。Bランク冒険者のショウだ。本日は奴隷を買いに来た」


 そう言って魔力を流した黄金のギルドカードを目の前の男性に見せた。


「おお、お若いのに優秀なお客様ですなぁ」


 初老も驚いた素振りを見せているが、本音は平常だ。剣も装備しているし、万が一。俺が攻撃を取る動作を見せた瞬間。この応接室の天井や壁に隠れている護衛がすぐさま俺を止めに来るだろ。


「それでは奴隷を見せてもらっても?」


 長話をするつもりは無いので。早速本題に入った。


「…ええ、畏まりました。では我が商店自慢の商品をご覧に下さい」


 そう言い終わると、ソファーから立ち上がり。俺を奴隷たちが暮らす、居住スペースに案内をしてくれた。



「流石王都一と名高いフレドリック商店だな。奴隷の健康状態も非常良い。良い物を食っている証拠だ」


 居住スペースに入り、鍵付き格子が嵌められた扉から部屋の内部を覗くことが出来。奴隷達が住む様子が確認できた。


 目が死んでいる者も居たが、比較的他の奴隷商と比べると絶望した表情は表立って見れなかった。


 神眼で見たら彼等の本心が見れるが、別に興味は無い。彼等は只の使用人として購入する為だから。


「ありがとうございます。奴隷達も我が商店にとっては大切な商品でございますからね。出来るだけ多くのお客様にお買い上げできるよう、文字を教えたり。メイドの教育を行っております」


「成程」


 人族のみの居住スペースをさらに抜けると。獣人のみの居住スペースが見えてきた。

 そこには犬族、猫族、狼族、虎族、狐族、兎族等様々な獣人が居た。


「この獣人たちも元冒険者が多く、依頼に失敗した際に求められます違反金が払えなかった者が殆どでございます」


 これが実力国家の本当の顔。弱い者達は一回の失敗でも即座に地獄に叩き付けられる。しかし、誰もこの国から逃げようとはしない。他国の奴隷の扱いが酷いからだ。


 やはり、これには初代国王の伝えが強く影響しているからだ。

 元日本人である初代国王はランキャスター王国を造る際、奴隷制度を無くそうと奮闘した。だが、この世界では到底無理だった。


 それでも諦めなかった初代国王は他国のように扱われない制度を作り上げた。


 獣人が住まう居住スペースを進むと、奥には二階と地下室へ向かう階段があった。

 後ろにピッタリと付いてくる会長に振り返り。尋ねる。


「二階と地下室にはどの奴隷が?」


「二階には珍しい種族の奴隷となります。特に人気はエルフ族やドワーフ族のなります。勿論、非合法の奴隷ではなく。全て借金奴隷となっております。地下室には…」


「何か?」


「地下室には…健康状態が優れない奴隷となります。中には魔物に襲われ、身体を欠損した奴隷がいるのです」


「そうか、まぁ地下室には次回来た時でも入ろう」


 別に俺が地下室に居る奴隷を全て購入し、回復しても構わないが。今回は使用人を雇いに来た。


 俺が次来るまで生き残っていたら、購入して治療を施そう。珍しいスキルを持った奴隷が居るかもしれない。


 二階に上がる階段を進みながらそう考えていた。


「二階は一階より綺麗だな」


「ええ、特に二階には貴族様もいらっしゃいますので」


 二階に上がると、埃一つ見えない廊下に他より頑丈な鉄格子が付けられた部屋に奴隷が下から上がって来た俺を眺めていた。男は全員ナビリスの美貌に惚れていたが。


「魔族の奴隷は居ないんだな」


 ふと、一つ気になった事を会長に聞いた。


「ええ、勿論過去には借金や犯罪で奴隷に落ちた魔族もいますが。奴隷になった魔族は全て、魔王様がご購入されております」


 へ~あのセシリアが。


「国際問題にはなったりしないのか?」


 話を聞きながら二階にいる奴隷達を眺め始めた。っお、竜人族もいるのか。門番に丁度いいな。


「えぇ、魔王様がご購入出来るのは奴隷に落ちた魔族のみとなっております。何でも初代国王様と結婚した元魔王様の姫君が交わした契約となっております」


 …成程。隣国の帝国とは全く違うな。


「それで、ご購入なさいます奴隷は既にお決まりましたか?」


 二階の奥まで進み。全ての奴隷を確認し終わると。それと同時に会長からの質問が伝えられた。


「ああ、凡そ決まった。先程の部屋で詳しい話をしよう」


 答えると、そのまま応接室まで戻った。会長も上客になり得る俺に少し興奮気味だ。

 まぁ今回購入する奴隷次第だが。


 応接室まで戻り、奥に置かれたソファーに座る。


「今回は人族25。力がある獣人族8。エルフ族3。ドワーフ族3.竜人族1。性別はそちらに任せる」


 購入する奴隷の数を伝えた。

 予想より多かったのか初老の男性があるまじき表情をしながら口をポカーンと開けていた。


「え…っと、本当によろしいので?」


 掻いた汗を取り出したハンカチで拭き。少しオドオドした口調で聞いてくる。


「あぁ本当だ。もし今回購入した奴隷が良ければ、後日更に買うつもりだ」


 俺が本気だと伝わると、物凄い笑顔になった。気持ちはわかる。どれだけの金が彼のポケットに入るか。


『ナビリス。少し人数は多いが平気か?』


 奴隷商に入ってから一言も言葉を発していないナビリスに平気か聞いた。金を払うのは俺だが、今回買った奴隷の世話や教育はナビリスに任せるつもりだ。彼女に負荷が掛かるなら数を減らしても問題は無い。


『ふふふ、私は平気をショウ。逆にもっと増えても問題は無いわよ』

 

流石ナビリス。彼女にとっては全く問題ないらしい。


『分かった。まぁ一応これからどうなるか見届けよう』


「それでは合計金額は幾らになる?」


「っは!少々お待ちください」


 そう言うと会長がブツブツと独り言を話しながら一人で考え始めた。今頃彼の脳内では電卓が発動しているだろう。


「お待たせ致しました。ショウ様には大人数をご購入されるので、特別に安くし。奴隷40合わせまして合計で白金貨800枚でいかがでしょう?」


 奴隷40人で約8億か。これを安いと見るか高いと見るか、神の俺には分からない。


「金を出しておくから契約の準備をしてくれると嬉しい」


「っは、畏まりました。でわ奴隷を大部屋に集めてきますので少々こちらでお待ちしてください。書類は他の者が持ってきます」


 ソファーから立ち上がり一礼をすると、少し乱暴に扉を開けて出ていった。金額が金額故仕方ない。


「失礼します。こちらが奴隷契約の書類となります。こちらの魔道ペンをお使い下さい」


「ああ、感謝する」


 テーブルにマジックバッグから出した白金貨を置いていると、扉がノックされ。この商店に勤める店員が入って来た。部屋に入るなり大量に置かれた白金貨にギョッとしていたが、直ぐに目を逸らし。俺に40枚の書類を手渡して来た。面倒だな。


 仕方ないのでマジックバッグをナビリスに渡し。40枚全部に俺の名前を記入する。


 40枚書き終え、横を向くと。既に白金貨800枚全てを数え終えたナビリスが俺の顔を見ていた。

 キチンとお礼をしておこう。


「ありがとうナビリス」


「いえ」


 おお、メイド長っぽい。


「大変長らくお待たせいたしました。では、こちらまでどうぞ」


 マジックバッグから取り出した紅茶を飲みながらのんびりと会長を待っていると。扉の外から彼の声が聴こえた。「ああ」と伝え飲みかけの紅茶をマジックバッグに入れソファーから立ち上がりると、扉を開けた。そこには、何故か緊張した会長が立っていた。


「こちらへ」


 そのまま言われるままに会長の後を進み。一つの大扉の前までたどり着いた。


 ノックも無しに扉を開き、入る会長の後に俺とナビリスも扉を潜る。


 広い部屋の中にはきちんとした服に着替えた40人の奴隷が騒めきながら俺達を見ていた。


「こちらがお前たちの主人となるショウ様だ!無礼が無いようにな!!」


 40人全員に聴こえる様に大声で喋る会長の内容に驚きを隠せない奴隷達。

 確かに40人同時に買う人なんて王族でもあんまり無いだろう。


 一歩手前に出て、俺も自己紹介する。


「俺がショウだ。こう見えて冒険者で活動している。昨日家を購入したので急遽使用人が必要になったので今回お前たちを買った。そして、こちらがメイド長のナビリスだ。…宜しく」


 彼等にメイド長のナビリスを紹介する。購入する奴隷達に無理をさせないように言っておこう。


「初めまして。私、メイド長のナビリス申します。無理難題は出しませんが、逃げる者、反抗する者は即座に奴隷商に売りますので、全力で仕事を覚えなさい」


 …遅かった。ほら見ろ、奴隷も全員引いてるし。まぁ彼女の美貌からあんな言葉が飛び出すとは思わなかっただろう。


「会長、奴隷を乗せるための馬車を貸してもらっても?俺達一つの馬車しか引いてこなかったので」


「ええ、勿論!我が商店が所持しております馬車全てを使っても構いません」


 おお太っ腹。


「そうか、それじゃお前達。今からお前らが住む家に向かうか」


 そう言って、新たに奴隷を40人購入した俺が扉へ向かった。


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