第39話ナビリス その2
「ふふふ、身体を動かす事がこんなに幸せなんて…。感謝しているわ。汗かいたから先に浴場で体を洗ってくるね」
インベントリから取り出したタオルで額に付いた汗を拭き、豪華な浴場へ向かった。
俺は彼女が向かった反対側へ歩き、そのまま寝室へ向かう。
とにかく俺も久しぶりに全力を出して疲れている。
あの後。早速地下室に向かい、一目が付きにくい一か所の場所に亜空間へ繋がる扉を設置して。ナビリスと二人で潜った。
俺が昔修行用に作った亜空間はどれだけ激しく暴れても、外の空間には一切ダメージが起こらない優れものだ。時空神のお婆ちゃんに感謝しておこう。
ナビリスは最初、授かった体に慣れるため。走ったり、飛んだりしていたが。気が付いたら二人とも神力を全開で摸擬戦を始めていた。俺も、外の王都が崩壊しないか内心心配だったが。最終的には十分に楽しんでしまった。
仕方ないだろう。この世界に降りてから戦いを楽しめていなかったのだから。
でも、激しい運動のお蔭でナビリスは肉体の使い方を熟練レベルまで使いこなす。
まぁ、左右上下空中を高速飛行しながら魔法をバンバン放っていたら、そりゃ熟練にはなるわな。
それより、彼女は念願の風呂に入りたかったらしく。先程地球で一番高いシャンプー、とコンディショナーを要求された。勿論カタログから出しましたよ。
コンッコンッコンッ…コンッ…。
寝室に戻り、キングサイズより巨大なベッドに寝ころびながら、書斎で見つけた分厚い本を読んでいると扉がノックされた。しかもちゃんと四回。既にメイド長としての板がついてるらしい。
「ああ、いいぞ」
相手が誰だか知っているので勿論返事をした。
「ショウ……」
「…」
部屋に入って来た彼女の姿に驚いた。
彼女が薄いランジュリーを羽織り、総レースの下は何も着ておらず。彼女の神がかったボディーが丸見えだ。
「横に行ってもいい?」
ナビリス…。
「ああ、勿論だ」
読んでいた本を閉じ、横のテーブルに置き。魔道ランプの灯りを消した。彼女も内心恥ずかしいだろう。そう思い部屋を暗くして彼女を俺の横へ呼んだ。
「ナビリス…」
俺の真横まで移動して、抱き着いて来た彼女の頭を撫でながら彼女の名を発す。
「ねぇショウ?私、今までこうしたかったの。でも肉体が存在しなかった私は見る事のみ。でも、もう我慢出来ない。責任を取ってくれるわよね?」
そうか…。ナビリスはそう思っていたんだな。
「ああ、一生責任は取るよ。それがナビリスを生み出した俺の役目だ」
俺達は神だ。歳も取らない。殺されることも無い。どれだけの年月を一緒に過ごそうが。俺からお前を離れる事は無い。
「嬉しいわ…。ねぇショウ」
「ん?」
俺の名前を呼ばれ。彼女の方へ顔を向けると。両目を閉じた彼女がゆっくりと此方へ近付いてき。
その唇が、俺の唇に触れた。
唇を通し、彼女の体温と、その熱い思いまでもが伝わって来るようで、まるで一つに融合したかのような錯覚。
どれだけ経ったのだろうか。彼女の方から少しずつ離れていき。
俺と顔を見合わせると、笑顔を魅せながら。ポロリ、と透明な液体が彼女の瞳から零れた。
「あぁショウ…。大好き……」
涙を流しながら、顔を俺の胸に預けてきた。
「ああ、俺も好きだ」
俺も本音を伝える。
「愛しているわ」
…。
「ああ、俺も愛している」
本音を伝える。
「ねぇ、ショウ」
「ん?」
「………が。欲しいわ」
「…ああ」
俺と彼女の影が一つに重なった。
「おはようショウ」
「おはようナビリス。なんで俺の上に乗っているんだ?」
何時もは脳内に届くナビリスの挨拶が横から聴こえる光景を不思議に感じながら目を覚ますと。目の前に馬乗り状態のナビリスが居た。内心びくついている。
「だって今日はメイドや奴隷を雇うのでしょ?それまでショウを独占しておこうと思って」
…成程。
「ナビリスの言う通り今日は人を雇うが。全員女性では無いよ。屋敷の門番や庭師に男性の奴隷を雇うつもりだ」
「あらっ?そうなの?な~んだ」
男性の使用人も雇うと、彼女に告げると。面白くない表情を見せながら俺の上からどき。椅子に掛けていたメイド服を手に取るとその場で着替え始めた。
シミ一つない身体。…うん美しい。
「ふふっ、まだ続けるつもり?私は構わないわよ」
俺の目線に気付いたナビリスがうっとりさせる美しさで俺を誘おうとする。彼女の魅惑なら他の男なら全てを差し出しても彼女を手に入れようとするだろう。
「また今度な。今日は土地の改造で忙しくなる」
「了解~」
そのまま着替えを続ける。何時の間にメイド服の着方を学んだのだ?
「そういえば、ナビリス。部屋の場所は決めたのか?」
ふと、思った事を彼女に聞いてみた。俺の寝室は本館の二階中央奥にあり、その他にも部屋が沢山ある。ナビリスがどの部屋を選ぶのか気になった。
「…そうね。勿論私はショウの隣の部屋を選ぶつもりだったけど。メイド長の役割もあるし。う~ん…一階にある一室を使うわ。貴方が欲しかったら、転移すればいいだけの事ですし」
そう言い終わるとメイド服を調整し。俺の所まで来ると、唇にキスをくれた。まだ少し顔を赤く染めているけど。
「それじゃ俺がナビリスの部屋に転移してもいいってことだな」
『……知らない』
わざわざ念話で答えると。プイっと後ろに振り向き、そのまま部屋を出ていったしまった。
肉体を手に入れたことで更に表情が豊かになったな。
それでも彼女も正真正銘の神。他の種族から彼女を見ても真顔にしか見えていないが。
一階のリビングのテーブルに置かれた朝食を取り厩舎小屋までやってきた。
食べた朝ご飯は作り慣れていない料理だった。それでも料理を作ってくれたナビリスに感謝し、全部食べ切った。一つだけ物凄い甘い食べ物もあったが。
それより俺が厩舎小屋まで歩いて来たのにはちゃんとした理由がある。
それは購入した土地から一般街まで距離があり過ぎることだ。
大勢の人種が住む王都でも徒歩で数時間掛かるとなると、他の移動手段が必要になる。
勿論もし俺が自重を気にしなくていいのなら、今すぐインベントリにあるスポーツカーやATVをだすだけこの問題は片付く。
しかし、俺が神だという事がバレる可能性が大なので。今回は大人しく馬車を作ることにした。
これなら少しばかり性能が優れていても別にバレはしないだろう。…大丈夫なはずだ。
はい、出来ました。渾身の出来です。
「…」
近くで眺めていたナビリスの呆れる目線が気になるが無視しておこう。っお、でも彼女が持ってきてくれた飲み物は受け取ろう。
「ああぁ美味い。ありがとうナビリス」
水魔法や生活魔法で水は作れるが、やっぱり愛する者が入れてくれた水は格段に美味い。
「ええ…。結構な時間が掛かったね。何時ものショウならぱぱっと想像で作っちゃうのに」
仕方ないだろう。楽しくなったんだから。
「折角この世界に降りてきたんだ。この世界に相応しい馬車が作りたくなっちゃって」
そう言って。先程完成した馬車を眺める。
馬車の全体にエンシェントトレントの木材が使われ。外側に塗装された木、車輪部分にはゴムと一応偽装した。振動は重力魔法が掛けられた魔道具のお蔭で、全く気にせず優雅に旅を楽しめる作りになっている。
馬車の内部は凝っており。中へ入ると馬車の見た目と中の広さが一致していない。
中には草原が広がっており、中央には小さな屋敷が建っている。真横にはプールが設置され何時でも泳げる仕様。そしてこの屋敷の中には何故かこの世界に存在しない漫画本が大量に置かれている。これで暇な移動時間でも漫画で時間を潰す事が出来る。
最後に馬。
勿論本物の馬ではなく、錬金術と創造魔法で造ったホムンクルス馬と言った方が正しいだろうか?
頭の内部には脳の役割を代わりに神界で手に入れたダンジョンコアで補っている。ボディーはオリハルコンにヒヒイロカネを使っており。普通の攻撃でも傷一つ付ける事は出来ない。
そして、最後の最後に一番時間が掛かった要素がこのホムンクルス馬に組み込まれている。
それは…特定の動作をすると。馬本体が変形し。ジェット機になるようになっている。
ああ、知っている。先程神とバレないように自重する、と言ったことは。
でも男は幾つになっても。神になってもロマンが好きなんだ。
まぁ組み込んだだけで、使われることは無いだろうが…。一回ぐらい時間を止めて使ってみよう。うん。
さて、思った以上に時間が掛かってしまったが。早速人を雇いに行きますか。
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