第135話 大野外演習

 大量の魔物と悪意持った人間によって滅んだ村で秘密結社『福音黒十盟団』の幹部を名乗った者ガディ・ノーバスと対抗してから早くも二週間ほど経過した。戦いから生還を遂げた俺は事件の真相を大袈裟に誇示するなど無く、依頼を満完了した俺は、数日に一回エレニールに宛てた手紙をしたためる以外、宿と冒険者ギルドの行き来する日々。時には広場で広がった屋台で満たせない腹に飯を入れ、時にはその足で食堂へ赴き美味しそうな料理を心置きなく味わいながらナビリスとの念話を楽しむ。特に魔都の王宮を囲んだ湖で捕れた魚のあぶり焼きは美味であった。王都へ帰還する時、干し魚にして銀弧のお土産の一つ候補しておこう。



 そんなこんなで十二分に魔都観光を充実していた俺なのだが…。



「生命探知を発動させてるが、大きな魔力は感じない。先の魔物で最後だったようだ」

「チッチッチ…うん!森を周遊した鳥さんも魔物の気配を感じないって」


 魔都ガヘムより東へ、馬車を便乗して一時間ほど行った場所に広がった樹木つづきの緑の海。多数の魔物が出現する領域に俺は居た。今や自身の愛武器となったミスリスのロングソードで最後の大型魔物を屠った俺の傍にはギルドで名を交わし、今回臨時のパーティーを組むことになった『鳥使い』ダリア。


「…非常に便利だな鳥を使役して全てを見通す力とは、索敵能力は高く、認識出来ない角度からの魔法を打ち放題。A級上位に相応しい実力だ」

「お兄さんの太刀筋だって…うーん、何て言えば良いだろう――チュンチュン!あ、ッそう!戦い方の全てに気品と美しさが籠った一閃だったよ!」


 剣にこびり付いた魔物の血を地面に振り払い腰に佩いた鞘に納めれば、ダリアにしか認識出来ない幻影の鳥に命を下す彼女とお互いに褒め合う。ダリアが着る服装は冷温調整のルーン文字が刻まれた花柄のローブは洗い立てのように綺麗。一応魔法使いに当たる彼女が使用する武器は先端の尖った細身の刀身を持つ、刺突用のレイピア。

 反対の手に杖では無く、意外にも魔導書を利用した戦い方。魔力の流れを補う杖を使わない、と聞かされた時は最初驚いたが膨大な魔力が籠った花冠が杖の役割を果しているようだ。


 所属する国は違えど同じA級が二人、更に秘密結社の幹部格であるダリアと同行する羽目になった経緯を思い出すのであれば事の始まりは一昨日まで遡る。



「指名依頼?…他国の人間である俺に?」

「ええ、依頼者様よりそう伺っております」

「そうか…詳細を聞こうか」

「それでは二階の談話室にて詳しい情報をお伝えいたします」


 ある日の事、午前中から表通りは屋台で賑わい大道芸人などかもいて大賑っている。寝泊まりする宿で朝食を食べ逃した俺はこの数週間で発見したお気に入りの屋台で軽めの朝飯を取り、最早魔都での日課化とした冒険者ギルドの扉を潜り進み、掲示板に貼られた依頼書を流し読みしていればギルドの受付をしていた受付嬢から自身の名を呼ばれた。


 窓口で受付嬢と対面して最初に告げられた内容が、俺に指名依頼が来ている事だった。

 確かに、前回の依頼から二週間は経過しているし、A級を腐らせておくのは惜しい存在だと理解出来る。しかし表面上国家の関係機関に縛られない自由な所があり、いざという時に頼りにされる冒険者ギルドだが実質国の上層部とズブズブな関係な所が大半を占める。ギルドは割合強い自治権を確立してるが絵空事を並べたに過ぎない。


 魔導国で実績を成し遂げていない俺に直接指名依頼が来るのは些かうまくできすぎている。何か裏がありそうだ。それくらいのことは長年にわたり場数を踏んできた直感で分かる。


 ギルドマスターと会話した談話室に案内された俺は室内に設置されたソファーに腰を落とし、書類やら取り出して準備する受付嬢を待つこと一分弱…。


「お待たせしました、此方が依頼の用紙となります」


 テーブルの上に出された依頼書を手に取り一番上に示す文字に目を通した俺は口に出した。


「イヴァルニー魔法魔術学園が準備して迎える大野外演習」

「はい『孤独狼』ショウ様には他の冒険者達と合同で東に位置します山間部で増殖した魔物の間引きをお願いしたいのです」

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