第138話 大野外演習 その4
「冒険者様方、お待たせいたしました。馬車の荷積みが完了しましたので、裏庭の広場までお越しください」
「っお、ようやく終わったか、んじゃ俺はレンナと一緒に向かうからショウは先に行ってくれ」
「ああ、分かった」
今日初めて会話を交えたリーバスに紳士の嗜みについて手ほどきを与えていれば、あっという間に時間が経ち気付かない内に15分程経過していた。魔導学園に通う生徒が今回行う演習場までの移動手段でもある馬車の準備が終わったらしく、受付嬢の一人が此方のテーブルに近づくと四の五言わさない一方的な伝達を告げ終えれば、くるんと背中を此方へ見せるとハイヒールを履いた足で床をこつんこつんいわせながら軽快な足どりで窓口へ戻っていった。
伝達を告げられた集まった冒険者達は各々に応じるとそそくさと席を立ち、ダイアから今以上に距離を取らんと慌ただしく足を急がせて裏庭へ繋がる扉に歩き去っていく。
リーバスも彼のパーティーメンバーの所へ向かえば、この場に残ったのは俺とずっと誰にも認識出来ない鳥と会話を交わすダリアだけ。
まだ若さが拭えない彼女の全姿だけ見るが、とても国家にテロ組織認定された秘密結社の幹部に到底見えない。人為的に幹部に見えない人を立て役者に仕立て上げる事で、幹部の正体を公になるのを防ぐ構図を考えた者は頭が切れる器用な人間。戦略の糞も無い自称脳筋神の俺よりよっぽど知識が豊富な人。俺の戦い方は相変わらず読み合い何て高等技術は無く、突っ込んで斬りたい物質を切断するだけ。
…それにしても、至る場所に結社に組する間諜が根深く入り込んでいるが危機管理はキチンと働いているのだろうか?先の表情筋が乏しい受付嬢を始め、他にも結社のスパイが人知れず裏で活動している見込みが濃厚。推測するに一度敵対行動を取った俺の冒険ギルド活動情報は向こうに流れていても可笑しくない。
話が大分逸れた…このまま留まっていても埒が明かない、裏広場へ去っていく冒険者の姿に気付けていないダリアに俺は彼女の真横まで近づくと気楽に声を掛ける。
「ダリア…、演習場所行きの馬車の準備が終わったらしい。俺達も一緒に外へ出ないか?」
「ちゅんちゅん…っえ、お兄さんが呼びかけてるから返事を返せって?――うぅんゴメンねお兄さん!鳥さん達との会話に夢中になってたよ!…っぴよっぴよ、どうしたの鳥さん?――ふ~ん、お兄さんは紳士らしいね!それじゃ…私をエスコートしてくれる?」
自身にしか認識出来ない幻影の鳥が何かしらの助言を与えたのか、何処か俺を熱く見詰めながら手の平をゆっくりと伸ばす。女性から求められたなら紳士として応じないとな…。
「では、僭越ながら 私がその名誉を差し添えていただきますお姫様」
ダリアの手を取って力を引いて床に立たせる。体重が軽いのか体が浮かぶようにフワッと楽に板張りの床に両足が着地する。彼女の前で肘をちょっとくの字に曲げて差し出せば、その意味を一瞬で理解したダリアは満面の笑みで腕を組んだ。身長差が有り少し、しにくそうだが表情には一切出さず颯爽と歩く姿は周囲から見たら違和感ないカップルに見えるだろう。今の光景を目撃したリーバスとレンナの驚く姿が目に浮かぶ。
外へ光の道投げいく扉を潜った先、目先に広がった風景。裏庭の広場というより、競技場と呼ぶほうがふさわしい規模と施設が目に映し出される。予想通りギルドの裏庭は冒険者の訓練場となっていた。これまで足を運んで来たギルド支部と異なるのは魔法使いが存分に魔法を使用できる箇所の広さ。
土魔法で地面から生成された丸型の的がランダムに配置されており、幅広い色柄のローブを革鎧の上から着用した冒険者に所属する魔法使い達が各々の得意攻撃魔法を詠唱して、定めた的目掛けて魔法を放っている。離れた所には急所を守る胸当てと鉄兜を装備した者等が刃引きした剣や、槍を扱い前衛職業で戦う者等の訓練する姿も見受けられるが、魔法使いの人数に比べて前衛クラスの割合が少ない。
カップルのように腕を組んだダリアと共に歩き訓練場の光景を尻目に見る、少し離れた場所には俺等より先掛けた他の冒険者達が集まった集団の傍には二頭立て馬車が三台用意されていた。盾に二振りの剣がクロスした紋章が幌に大きく描かれている。
「おい、あれ…」
「マジか…!流石我らが英雄と言うべきか」
「ガッハッハ!見ろよ鳥狂いが人様のマネしてるぜッ!」
俺とダリアが腕を組む姿は華があるのか、すぐさま先に集合していた冒険者達の注目を浴びる。目を二人に釘付けして腹の皮が捩れそうにしつつ俺等を憫笑する。
右側の腕を組んで進むダリアは泰然自若とした態度で現にも鳥達と話し込んでいるようだし呼吸も心臓の音も安定しており、汗1つ掻いていない。何一つ動揺は見せなかった、しかし、組んだ腕から伝わる血液には明瞭な変化があった。
「……耳を貸すな、今は俺だけに視線を集中しておけ」
「ピヨピヨ、チュンチュ…。うん、ありがとうお兄さん。…お兄さんが初めて出来た人間の友達で良かった。こんなに嬉しい温もりを感じたのは初めてだよ」
そう組んだ腕に力を入れて妖精のような美しい瞳を俺に向けてくるダリアに同意するように頷いた。一度敵対関係となった敵グループに席を置くダリアは何時ぞや俺を殺しに掛かって来るかもしれない。だが心がギリギリの所まで追い詰められた少女の一人や二人、守れなくて真の紳士とは言えない。
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