第23話 戻る場所
ショウがBランクに昇格した早二日が経っていた。
冒険者に登録してからたった一か月で上級冒険者であるBランクへ昇格した事は即座に広まった。顔見知りの冒険者達からはお祝いと嫉妬の言葉を。ショウに元から憎しみを持っていた者達は更なる憎しみを植え付けた。
特にショウと同じCランク冒険者はランクを抜かされた腹いせに低級冒険者達を教育と言い、暴行や脅迫まがいな事も起こっていた。
ショウはその出来事をナビリスから伝えられていたが、彼は無関心を通した。ほぼ毎回ギルドに行くと「何故助けてくれないんだ!?」、といちゃもんを付けられるがショウは強ければいい。その一言だけ伝え、それ以上何も言わなかった。彼が行動をしなくても、他の高ランク冒険者によってこれ以上問題が起こらないと知っていたからだ。
Bランクに昇格したが。変わらずソロで塔に挑み続け、記録を着々と伸ばしていた。Cランクで既に第30階層の門番を倒したショウは、日頃より増えるパーティー勧誘を拒み続け。苦戦を無く、その足を第35階層まで伸ばしていた。
21階層から30階層はジャングルや森のフィールドであったが。31階層からその内装がガラッと変わった。31階層へと繋がる階段を上がると、そこには周辺砂だらけの砂漠が広がっていた。果てしない平行線の向こう側に続く砂漠。塔の内部のはずなのに、強い日の光が体全身に直撃する。神故に暑さをあまり感じないが。思わず、インベントリから身体がすっぽり入るマントを取り出してそれを被った。
「これ…下界の者達にはきついだろ」
ポロっと、開いた口から言葉が飛び出した。彼の言う通り、この砂漠フィールドに適した装備を所持していなければ、暑さと喉の渇きにより長居は出来ないであろう。
ラ・グランジに住む冒険者からは、31階層より本番と思え!言われている。鉄や金属で出来た鎧を着ていたならば、一瞬にして金属が溶け皮膚を焼くであろう。ソレに生活魔法を唱え、飲み水をその場で出せるとはいえ直ぐに魔力が不足するだろう。よって水を大量に持ってこなければならない。
更に砂漠の暑さに耐えるため、暑さ耐性が付いた装備を整えないといけない。勿論、値は張る。
スキルに暑さ耐性や、無効化を持っていたら難易度は格段に落ちるが。
ショウは暑さによるダメージは受けていないが、フィールドの雰囲気にのっとってシャツ一枚に上半身はジャージ。コンバットブーツは履いたまま、そして茶色のマントを羽織りそのまま歩き出した。
もし今のショウを他の冒険者が見たら、自殺行為にも程がある、と怒鳴れるだろう。しかし、不人気の階層であったので、運よく?誰とも遭遇しなかった。
目の前に半透明のマップを表示させ、それに従って階段へと向かうショウ。
のんびりと歩きながらナビリスとお喋りをしている。主に次の目的地や、受ける依頼について。偶に召喚された勇者達の話題も出ている。
ぶらぶらと歩くショウに向かって砂底に潜んでいたサンドスコーピオンや、デザートアント、ライノーサンドー等の魔物が襲い掛かるが、目線も合わせず全て一撃で葬られた。
「…っお」
ある一匹の魔物を倒し、先に向かおうとしたショウの足が止まった。足を止め、目線を向けた先にあったのは先程倒した魔物が砂に溶け、その魔物が珍しい素材をドロップしていた。
倒した魔物の元まで向かい、野球バットサイズ程あるそのドロップアイテムを拾い上げた。
「…確か、この素材を欲している依頼書を見掛けたな。丁度いい、拾っていくか」
そのまま手にしたレア素材をインベントリに放り込んだ。ついでにと、インベントリから水筒を取り出し、中に入った炭酸飲料を飲み始めた。
一気に半分以上飲み、口端からこぼれた飲み物をマントで拭くと水筒を戻した。無論、飲んでいる最中空中から突如、羽根を生やした魔物が奇襲を仕掛けてきたが、鋭い爪の攻撃をスッと横に避け、水筒を持っていない手で華麗に剣を抜き、一閃で首を落とした。
倒した魔物が砂に溶ける様に消滅した事を見届けたショウは、階段がある方角へ歩き出した。
何事も問題なく31階層の階段を発見した。32階層へ上がり、すぐ傍に置かれている石碑に手を置き、ショウの魔力を記憶させた。ポケットから出した金ぴかに輝くギルドカードに魔力を流し一様正常に記録させているが確認した。
ちゃんとBランクの右下に32、と表示されていた。
満足気に頷くショウは再度石碑に手を置き1階層に転移した。
一瞬の光が止むと、ショウは1階層に設置されたクリスタルの目の前に転移されていた。彼の姿を確認した数名の冒険者が舌打ちしたが、気にせずに入り口の扉へ歩き出した。
様々な人種から集まる目線を無視しながら、ここほぼ毎日通っているギルドについた。人種と言っても、殆ど、人族から受ける嫉妬の目線だが。
ギルドに設置された開けっ放しの扉を潜り、受付に向かう前に依頼が出された掲示板のところに行き、ショウの記憶を辿り、ある一枚の依頼書を探した。
「(……お。あった)」
大都市故、大量に張られた依頼書を探しやっとの想いでショウが探していた依頼を見つけた。
その依頼書を剥がし、セリアが対応している受付の列に並んだ。
相変わらず彼女は人気だ。他の列より長い。この列に並んだ冒険者は殆ど男性だったが。
「二日ぶりでございますねショウ様?それで本日のご用件は」
ショウの番になった途端、営業スマイルで先の男性冒険者からのお誘いを断っていたセリアの表情に演技ではない本当の笑顔が飛び出した。あまりの豹変ぶりに少し驚いてしまった。まぁ、顔の表情は変わらず無表情だが。ショウが神になった事で表情の変化もできなくなってしまった。今のように、内心には、驚いたりできるが、顔には出ない。そのせいで不気味がられているが。
勿論神界では神力を出したままの状態なので、喜びや、悲しみの表情は出せる。
「ああ、この依頼書に書かれた依頼品を運よく手に入れたからこの依頼を受けようと思って」
そう言ってセリアに先程剥がした依頼書を手渡した。
依頼を読んだ彼女の表情が笑顔のまま固まってしまった。
「え…っと、ショウ様?もしかしてお一人で砂漠フィールドに挑んだです?」
あれ?…笑顔なのに何故か怒っている。
「あ、ああ」
「…………はぁ~、もう嫌だ…。疲れちゃった」
ショウが質問に肯定すると長いため息を吐き、置かれた椅子に座り込んでしまった。
「それでショウ様、依頼品はどちらに?」
「ああ、これだ」
塔から出る前にインベントリから移していたバックパックを背中から外し、紐で縛られた入り口を開け、依頼に書かれたサンドホースホーンを取り出した。
「しかも本物だし…」
セリアの口から聞いてはいけない言葉が飛び出したが、聞いていない振りをし、カウンターの上に置いた。
「…依頼品を確認しました。では報酬をお持ちしてきますので少々お待ちください」
「分かった」
適当に空いた席に座り彼女を待っている間、ショウは暇つぶしに召喚された勇者達の様子を眺め始めた。
『頑張っているな。戦が無かった日本から召喚されてまだそんなに経っていないのに』
『そうだね、でもやっぱり勇者達は未だにゲーム感覚で戦っているんじゃないかな。生徒からの死者も出ていないし。でも、一人でも死んだら、彼等も理解する。この世界は現実だと』
『だろうな。特に今は物語に出てくる主人公そっくりの状況下に居る。日本では得られなかった力に傲慢になっている。自分たちは主人公なんだ。何でも出来る、なんて。悲しいなぁ…』
戻る場所なんて無いのに。君達はもう後ろに戻れない。前に進むしかないんだ。
ショウが助ける意味も無い。神の身である彼のやることはこうやって眺め、面白い存在を見つけたら興味半分で力を上げる。その結果を見届ける。
「ショウ様。報酬の用意が出来ました。空いているカウンターまでお越しください」
報酬をトレイに乗せたセリアの声が聴こえた。さて、今夜も勇者達の訓練を眺めようか。
そう思いながら彼は席を立った。
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