第38話 ナビリス
不動産の商店から出ると、そのまま徒歩で先代国王が住んでいたとされる場所に早速やって来た。予想より距離があり二時間は掛かった。
爺さんから渡された地図を眺めながら、その場所へ向かうとまず最初に見えてきたのは黒色の外壁と連なる黒色大門だった。大門の前へ到着すると、初めにその周辺を見渡す。
大都会の王都のはずなのに、周りには建物一つ見当たらず。物音一つ耳に入らない。近くに植えられた木に止まった鳥の囀りが薄っすらと聴こえる。
余程先代国王は人を避け、誰にも邪魔にされない余生を送りたかったらしい。
まあ俺も実際に生きている年齢は先代国王に近い。彼が何故このような場所に屋敷を建てたか理解は出来る。
それに、大都会特有の周りの雑音を気にしなくてゆったりと過ごすのはとても気持ちいい。
飛鳥の別荘に遊びに行った頃を思い出す。
『ショウ?』
おっと、昔の記憶を思い出していたらナビリスに急がれた。彼女も気が気でないだろう。彼女がスキルとして生まれてから三十年。身体が手に入いるんだから。
『直ぐに門を開けるよ』
ナビリスにそう伝えると。ポケットに入れていたクリスタルで作られた透き通った透明に七色の輝きが眩しい鍵を取り出すと、ガッチリと施錠された門の鍵穴に差し込む。
――ガチャン…。
鍵穴に入れた瞬間。鍵を回してもいないのに門の鍵が自動で開き、そのままにしていると門が勝手に開き始めた。流石先代国王が住んでいた土地だ。設置された魔道具も全て最高級品だろう。後で調べて真似しよう。
開かれた門扉を潜って進む。
広い庭が俺を出迎えてくれた。誰も住んでいない間も庭師が綺麗に芝生を刈っていたらしい。これも先代国王に寄る人徳か。
門から敷地内に入ってすぐに道を示す感じの敷き詰められた純伯の石畳が広がっていた。丁度日の光がいい味を出している。
敷き詰められた石畳を進むと、正面奥に洋風の大きな建物が存在感を示していた。
煉瓦で作られた三階建て。形から屋敷と言うよりかは小さな城の方が合っている。
それに建物の周辺には数々の魔道具が設置され。安全面もバッチリ取られている。
国王が退位したとはいえ、彼を憎む人間も存在したのであろう。用心はしていたようだ。
この本館の近くには使用人専用の屋敷も建っている。大きさだけ見れば下級貴族が住む屋敷よりデカい気がする。実際間違っていないだろう。立派な厩舎小屋もここから見える。後でゴーレムの馬車でも造ってみよう。流石に毎回ここから大通りまで徒歩で行き来するのは面倒だ。
それに後で使用人のメイドや奴隷達を雇わないと。
メイド長は既に決めている。彼女も気に入るだろう。…多分。……確証は無いが。
俺がこれから住む本館へ歩き。小さい階段を上がると玄関扉へたどり着いた。
扉には鍵穴の様な穴は見当たらなかったので、ドアノブに手を伸ばし。
――扉を開いた。
広い玄関が俺を出迎えてくれた。顔を上へ見上げると巨大なクリスタルシャンデリアが天井からぶら下がっている。奥には二階へ上がる為の階段があり、真っ赤なカーペットが引かれている。
絵画のモデルになりそうな玄関だった。
リビングルームに移動すると、既に家具が置かれていた。先代国王が使用した家具という理由で法外な値段で売れるだろう。売らないけど。窓から見える外の景色も素晴らしい。
『いい家だ。十分に満足だ』
一部屋一部屋確認し終わり、一階の広いリビングルームに置かれた黒革製のソファーに横になりながらインベントリから出した炭酸飲料を飲んでいた。調べたのはここ本館だけで、他の建物には足一歩入れていない。
しかし、他の建物もこの感じなら悪くはないであろう。これから雇う使用人や奴隷達の驚く顔を見るのが楽しみだ。
それに、屋敷には地下室も存在しており。そこには立派なワインセラーの部屋も見つけていた。後で神界で作った酒も置いておこう。将来俺の知り合いでも呼んでパーティーでも開催しよう。実に楽しみだ。
『……』
…それより、人を雇うのは後日にしておこう。さっきからナビリスが何も話しかけてこない。無言の圧が圧し掛かってくる、確実に俺が肉体を造るのを待っているだろう。
ならば、彼女の願いを今から叶えよう。
二階の奥の部屋に向かう。ここの部屋が一番広く、そして豪華で気品もそのわっていた。この部屋がマスターベッドであり。先代国王が使っていた寝室だろう。このまま家具を動かさなくてもいいだろう。
俺が今日から眠る寝室に辿り着き。扉を開いた。
置かれた家具は全て一級品で。床には赤い絨毯が部屋中に引かれていた。一歩進む度に足が沈みそうだ。
部屋に置かれたソファーに座り、目の前に置かれたローテーブルにナビリス肉体を造る際に必要な素材を取り出す。今回使用する魔法は創造魔法と召喚魔法の合わせ術だ。そこに大量のマナが込められた魔晶石を使う。
今回使う魔晶石は俺が神界で神になった後も修行していた頃。爺ちゃんがお遊びで作ったダンジョンのボスを撃退後、手に入れた物。魔晶石に込められた膨大で尚且つ神力も混ざり合っている。
さて…準備は整った。後は魔法の詠唱を唱えるだけだ。
俺もナビリスに逢える事を楽しみだった。この世界に降り立った瞬間から。
この部屋全体に神術結界魔法を発動させ。普段抑えている神力を解放する。じゃないと、この世界に要らぬ刺激を与えかねない。
では、始めるか……。
――創造魔法レベル10発動 「種族創造(スピーシークリエイト)」
俺の手のひらに、野球ボール程の立体魔法陣が浮かび上がる。どんどん俺の神力とテーブルに置いた魔晶石の魔力が魔法陣へと吸い込まれていく。
浮かび上がったそれをそっと空中へ投げると、空中で止まり何かを待つように待機する。開いたままの手の平に竜王の骨から出来たナイフを押し込みスッー、と傷をつける。くっぱり開いた切口から黄金に輝く液体が手の平に集まる。
『ナビリス…。今から身体を造る。外見はナビリスになりたい外見を強く想像してごらん』
『…ありがとうショウ。愛しているわ』
ああ。俺もだよ。
では最後の仕上げを。
――召喚魔法発動…「XXXXXX」
魔法を詠唱する。
「我、中級神。万能を司る神ショウの願いを届け入れよ。汝の名ナビリスを世へ馳せ参じよ……」
詠み進めていく度に、空中に浮かんでいる魔法陣は輝きを増す。水溜りとなった黄金の血が細い線となって走る。
「我の力を源に夢見る彼女は手を伸ばす。遥かなる高みへと。やがて目指すのは主の側。未来永劫共に進む」
立体魔法陣がナビリスの思え描く形へ変えていく。
「今我の元へ下る。主の役に立つ時を」
野球ボール程だった立体魔法陣は大きく広がり、強く輝く。結界を張って居なかったら今頃この王都全体が崩れている。それ程の力が一点に集中している。
「今、願いを聞き届けよう…星を届け、届け。新たな種の来着を」
さぁ、おいでナビリス。これから一緒に楽しみ、悲しみ、遊ぼう。
「種族創造、賢神ナビリス。召喚」
大きく広がり、強く輝いていた立体魔法陣と入れ替わるように、一人の女性が姿を現した。
主のショウによって私はスキルとして創造された。
ナビゲーターの私は作られた当初。心なんて物は無く。ただ命令されたのみ答えるロボットだった。
それが、名前を与えられ。感情を知り。心を持った。
何時からだろう?貴方に触りたい。触られたいと思い始めたのは。
ふふ、楽しい事が有りすぎて思い出せないわ。これも感情を持ったせいかしら?
ああぁ、やっと貴方に私の全てを捧げる事が出来るわ。
それに、アティナ様の遺言を実行出来る。
あの時、ショウによって討たれる瞬間。私だけに念話を伝えてくれた。
『何時、貴方が実体を持ったら私の娘を腕に抱いてあげて』、と。
アティナ様…。貴方から学んだこの愛。一生感謝します。
あぁ…ショウ。……ショウ。私の全て…。
「やぁ、ナビリス。それとも初めましてと言った方が良いかい?」
「ふふ、ええ良いわよショウ。初め…まして…」
姿を現した女性は正に絶世の美女だった。
ナビリスの姿は今初めて見るのに、何だろう。何処か見覚えがある。
「前言ってた通りに髪は銀髪にしたんだね。似合っているよ」
「ありがとうショウ。貴方と同じ黒と銀色でも良かったのだけど。銀が気に入っちゃって」
長く垂らした銀色の髪を搔き揚げる。その姿に目が離せなかった。
初めからメイド服を着ている彼女だが、その上からも分かる素晴らしいスタイルを持っており。
王都を一歩でも歩けば、王都中の男性が彼女を放っておかないだろう。
まあステータス的に彼女を倒せる人なんて居ないであろうが。
「ナビリス。ステータスを確認してもいいかい?」
手足を動かし、動作を確認している彼女に一様聞いた。
「ええ、勿論。私の全ては貴方の物ですから」
「ありがとう」
礼を言うと神眼で彼女のステータスを確認した。
名前:ナビリス
種族:下級神
職業:神
レベル:130000
HP:N/A
MP:N/A
攻撃力:N/A
防御力:N/A
体力:N/A
魔力:N/A
俊敏:N/A
器用:N/A
運:10
魔法スキル:
火魔法Lv.10 水魔法Lv.10 風魔法Lv.10
土魔法Lv.10 光魔法Lv.10 闇魔法Lv.10 聖魔法Lv.10
雷魔法Lv.10 氷魔法Lv.10 無魔法Lv.10 時空魔法Lv.10
支援魔法Lv.10 精霊魔法Lv.3 召喚魔法Lv.5 魔力操作Lv.10
生活魔法
スキル:
全武器適正Lv.10 全状態異常無効Lv.10 物理無効Lv.10
魔法無効Lv.10 神眼 インベントリ 錬金術Lv.10
無詠唱 アカシックレコード接続権限 思考加速 並列思考
称号:賢神 新種族 全てを見届ける者
「おおぉう。予想以上に強いな。他の下級神より強いじゃん」
本気で驚いた。俺が創造した故、ステータスは俺に似ると思っていたが。予想を遥かに超えていた。
神界で俺と一緒に修行でもすれば、今より更に強くなれる。
「でも、これ以上強くなっても意味はありませんわ。それより一刻も早くこの体に慣れたいから、どっかこの屋敷に異空間を作ってくれる?」
「…そうだな。俺も久しぶりに全力で遊びたいから、地下室の一室に俺が創造した異空間を繋げて。二人で遊ぶか?」
「良いわショウ!」
俺の提案に彼女、ナビリスは花でも咲いたような笑顔を魅せてくれた。その笑顔だけで、これまでの努力が報われそうだよ。
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