第13話 女神像

翌朝、素晴らしい朝食を取り、冒険者ギルドへ向かった。どうやら塔のすぐそばに有るそうだ。


昨晩泊まった高級宿から外に出て、この街中央に聳え立っている塔すぐそばの場所に、貴族の屋敷と間違えても可笑しくない程の広さを誇る広場と建物には冒険者達がひっきなしに出入りしており、ギルドの看板や絵は掛かれてない。


冒険者ギルドはこの場所で間違いないらしい。この豪華な建物を一目見ただけでどれほどの利益が塔から得られてるか分かる。それに魔法が建物全体に掛けられており、見た目以上に頑丈に出来ている。扉を潜ると大勢の冒険者達で賑わっており、右側の食堂に、傷だらけの革鎧を着た歴戦を感じさせる戦士。高級素材を惜しげもなく使ったローブを着た女性魔法使い。騎士が着るような金ぴかのフルプレートアーマーを着こんだイケメン青年。それに軽装だが急所の部分だけを金属より強固そうな革防具を付けたシーフ。


他にも様々な装備をした冒険者が木製で造られたテーブルが大量に置かれており。彼等は笑いながら楽しそうに昼前から酒を飲み交わしている。


入り口から入って来た俺に一瞬目線が集まるがそれを無視し、そのまま受付に並んだ。15程一列に並んだ受付は全て列が出来ており、男性受付員や、受付嬢が忙しそうに働いている。この光景をベラに見せたくなったが、余計な考えを捨て。暇つぶしにギルド内に居る冒険者達を神眼で鑑定しながら並んだ。10分程で俺の出番になった。


「大変お待たせしました。本日は何の御用でしょうか」


 落ち着いた雰囲気で大変人気そうな人族の美人受付嬢が座りながら丁寧な対応をしてきた。


「塔に登りたいんだが、何か必要な物でもあるか?」


 塔の名を聞いた瞬間彼女の目がホンの少し見開いた。


「塔…神の試験ですか。原則Dランク以上でしたら誰でも挑むことが出来ます。失礼ですがギルドカードの提出をお願いします」


「ああ、これでいいか?」


 言われた通りに内ポケットから銀色に輝くギルドカードを彼女に手渡した。そのギルドカードをここにもあったロの形をした水晶に置き、そしてどこから取り出したのか、透明な魔石と魔法陣が組み込まれた地球で言うタイプライターでカタカタと入力し始めた。


「確認出来ました『疾速のショウ』様。貴方に神の試験挑戦権を認めます」


 どうやらさっきのタイプライターは俺の情報を冒険者ギルドを通して確認してたようだ。それより疾速のショウってなんだよ。いわゆる二つ名か?元地球人からしたら恥ずかしんだが…


 すると受付嬢はカウンターの下からチェスのポーンの形をした魔道具を取り出し、それをスタンプのようにギルドカードに押すと一瞬カードが輝き始め、光が治まると何も変わっていないギルドカードが在った。


「これでショウ様のギルドカードに魔力を込めるとランクと一緒に塔の最高階数が表示されます。もし塔でこれが落ちているのを見かける事がありましたら、可能な限りの回収をお願いします」


「了解した。感謝するよ。それじゃ」


「お、お待ちください!」


 早速塔を登る為後ろを向いた瞬間、美人受付嬢がまだ言いたいことが有るらしい。


「ん?何か」


「あの…その、神の試験は大変危険です。ですのでパーティーを組むことが推奨されています。もしよろしければ、そちらに設置されてるパーティー募集の掲示板に申請することをおすすめいたします」


 ああ、確かにCランクの俺一人じゃ無謀って言いのか。けれど、誰かとパーティーを組む予定は無い。


「分かった、気が向いたらね」


「か、畏まりました…」


 優しいな。手を振りながら入り口の方へ歩き始めた。


「おい。そこの坊主。ちょいと待ちな」


 また止められた。

 声が聞こえた方に向くと、茶色のローブを着、その下に黒い革鎧に金属製の胸当てと、肩パッド装備した30代ぐらいの男から声が聞こえた。


「おい、あれってAランクパーティー『大樹灰』リーダの『荒野』カーソンじゃねえか」


 周りが教えてくれた、ありがとう。そしてAランクねえ。呼ばれたので、彼とそのパーティーメンバーが座っているテーブルへと寄った。


「何か?」


「おいおい何か?じゃないだろ坊主。ソロで塔に登るなんて自殺願望にも程が有るぜ。装備を揃えて、大人しく気が合うパーティーでも組んどけ」


「問題ない。俺は死なないから平気だ」


 そう俺は死なない。神になった日から死ねない。剣で心臓の場所を刺されようが。首を刎ねられようが。


「ちょっと!カーソンが優しく教えてるんだから。言われた通りにしなさい!貴方Cランクの癖に」


 俺の返答の態度に気が食わなかったのか、彼のパーティーメンバの一人が怒り出した。

 うるさかったので誰にも気づかずに無魔法『インパクト』で彼女を気絶させた。


 一瞬でパーティーメンバーの一人が戦闘不能になり、状況を瞬時に理解した残りの大樹灰メンバー五人が即座に席から立ちあがり武器を構えた。


「迷いのない瞬時の判断力。流石Aランクパーティー」


「お前…何者だ」


 五人の殺気を当てられても平然としてる俺に、怪訝な表情を見せながら質問してきたカーソン。

 ただ事では無い状況にギルド内は誰も動けつシンッと静まっている。


「Cランクになったばかりの只の冒険者だよ」


「ただのCランク冒険者はこの状況に平然としてる奴は居ないけど、な。はぁ…分かった、お前はソロでも平気だろう」


 カーソンが武器を下したので、他のメンバーも渋々彼に従った。


「そうか、それじゃ俺はもう行くよ」


 入り口の扉からやっとギルドから出れた。



ショウが出ていったギルド内では。


「リーダー!あの小僧をあのまま行かせてよかったのですか!?」


 メンバーの一人の怒りが収まらずにカーソンに言い追っていた。


「あいつがどうやってメロディを攻撃したか見えたか?」


 カーソンは逆に聞かれたメンバーに尋ねる。


「そ、それは…」


「多分メロディは無魔法『インパクト』で攻撃された」

「無魔法!?あの無能魔法で!?あ、あり得ません!」


 他のメンバー達もあり得ないと言い出した。


「お前達の言う通り、あり得ないんだよ。魔法を発動した魔力も感じなかった、詠唱もしなかった。その上メロディは魔法攻撃耐性と魔法防御が付いたマジックアイテムと装備を身に着けてる。それでも無魔法で気絶されたんだ」


「「「…」」」


 カーソンの言った意味を理解し、全員絶句した。


「あいつはハッキリ言って化物だ、絶対に敵対するな。分かったか!」



『という会話がされていました』


『ありがと、それに無魔法が無能魔法と言われているんだね。魔法を発動しても足元に魔法陣が表示されないから便利だけど』


『Lv.10まで上げたら確かに便利ですけど、下界の住民はどれだけ上げてもLv.5が限界。最低でも6まで上げないとハッキリ言って使えません』


 そんなものか。インパクトでも状況によっては有効だけど。


 塔の前にある市場を歩いていた。大勢の人でに賑わっており、これから塔に挑む冒険者向けの品物を扱っており。内部で必要な魔道具、背嚢、非常食、ポーションなどの回復薬などを売ってある。

 市場を抜けると広場にたどり着き、そこには冒険者達が塔内の地図を売りお小遣い稼ぎをしている。


「魔法使い、パーティー募集中です!ランクはD」


「聖魔法を使える方、一緒にパーティーを組みましょう!」


 反対側の方へ視線を向けると冒険者達がパーティーを募集してる。


 着てる服装故に誰からも声が掛からずそのまま塔の入り口に入った。

 内部はは太い柱が立ち並ぶ神殿のような内装で、正面に巨大な女神像と祭壇、神官や巫女たちが教会などに設置されている長椅子に座り目を閉じ、両手を胸の前で組み熱心に祈っている。すぐそばに本物の神が居るが気が付かないようだ。


 それよりも正面に置かれた巨大な女神像を見る。神界では見たことが無いが、雰囲気は誰かに似てる。誰だ?


『ナビリス。この女神像は誰か分かるか?』


『当り前じゃないですか。創造神様ですよ』


 ……え?…これお爺ちゃん?でも目の前置かれた像は女神だが。


『あの女神像は創造神様が今のお姿になられる前の姿です』


 確かにお爺ちゃんは精神生命体のエネルギーから発生した最高神でどの姿にもなれるけど、元女神って…


 頭を振りながら忘れる事にした。知らない幸せもある。


 祭壇の近くには大きな横穴があり、穴の内径に沿うように隣の空間に行くための通路が続いている。

 通路を歩き始め五分程で、五角形の形をした広場に辿り着いた。そこにあるのは上に上がるための巨大な階段と、水色の臨光を放つクリスタルだった。クリスタルは一度行った階層に、転移させてくれる代物。各階層に置かれた石碑に魔力を込めるとギルドカードに登録され、何時でも転移できる。それに石碑が置かれた部屋は魔物が絶対に入って来ないので唯一のセーフティールームとなっている。


 勿論俺は今回の挑戦が初なので、階段を上がり第1階から始めた。

 階段は凄く広かったが通路はすぐ狭く低くなり、四方に枝分かれしていくような構造になっていた。全体を包む石壁は白く、塔の外見と同じ素材で出来てるらしい。


 目の前に表示させた半透明の地図通りに進む。珍しいものはこの階層には存在しないので。最短ルートで進んだ。


 電気や光など一切設置されていなく、他の挑戦者ならカンテラか、光魔法『ライトボール』を使わないと何も見えないが、神眼で全く問題ない。生活魔法のライトでもいいが、豆電球程の光なので意味は無い。


 暫く進んでいき曲がり角の先へゴブリンが2匹居た。ゴブリンが俺の存在を確認した瞬間には首は体から離れていた。死んだゴブリンは数秒後塔の床に溶けるように魔石だけを残して消えていった。運が良ければゴブリンからポーションが手に入れることがある。何故塔の中で倒した魔物がドロップして消えるか、研究者が研究しているが、答えは見つからないらしい。


 答えはこの世界を作った創造神が『そういう設定』にしたからだ、ちゃんとした理由や原理は無い。俺も神界で創くられたダンジョンも同じ疑問を抱いた。



 短剣を持ち俺を襲ってきたコボルトをロングソードの一撃で体を真っ二つにした。魔石とコボルトの尻尾をドロップし、床に吸い込まれていった。


 俺は散発的に現れる魔物を撃破しつつ、一切の苦労もせず第3階層まで歩き進めていた。脇に宝箱が置いてある小部屋を無視して上に向かいながら歩き続けた。

 第4階層へ上がる階段を見つけ登った瞬間真上に居た冒険者に攻撃された。

 とっくに分かっていたので、俺の心臓に向かって突き出された剣を人差し指と中指で挟んだ。

 奇襲に失敗した冒険者は即座に手を剣から放し、後ろへ飛んだ。すぐに横から魔法使いの仲間が魔法を放ってきた。魔法防御で攻撃を受け止め、反撃にロングソードを抜き壁へ向かって横に振り斬った。


 何も無い場所を剣を振った俺を奇妙な表情を見せてた魔法使いの上半身が横にズレ、そのまま倒れた。


 奥の仲間が持ったカンテラの光で残り4人程仲間を確認した。折角なので無能と言われた無魔法の一つを見せよう。


――無魔法発動「確定ロックオン」


 指定した相手の首をロックオンして、そのまま何もない場所を一振りすれば、ロックオンされた襲撃者五人の首は一斉飛んだ。血がべっとりと付いた剣を水魔法「ウォーター」で出現させた水球に剣を突き刺し汚れを落として、生活魔法「クリーン」で細かい血や汚れを消した。


 殺された襲撃者たちは、装備を付けたまま床に溶かされギルドカードのみ残し消えていった。

 数日後彼らの武器や防具がどこかの宝箱に入っているだろう。


 帰りにギルドに寄る為地面に残ったギルドカードを拾い、そのまま進み始めた。


 第5階層の石碑に魔力を流し登録してから、一階で空中に浮かんだクリスタルまで転移した。

 水色の臨光を放つクリスタルを横目に内ポケットからギルドカードを取り出し魔力を流すと、Cランクの横にハッキリと5階と表示された。


 ポケットに戻し、巨大な女神像を見ないように塔から出てそのままギルドへ向かった。

 夕方前なのにギルド内は混雑していた。あれだけ大量に置かれたテーブルも全て埋まっている。食堂の方を見ると今朝会ったカーソンとそのパーティーメンバーと目が合ったので笑顔を見せながら手を振った。…無視された。まあいいけど。


 受付に並び、俺の番になるとカウンターには今朝と同じ美人受付嬢だった。


「あっ」


 彼女も俺の存在に気付いたらしい。


 無理矢理作った笑顔を見せながら塔の事について聞かれた。

 

「お帰りませショウ様。無事に帰還できて私安心しました」


 確かに碌に装備してないソロが塔に挑むと聞いたら心配はするだろう。


「今日はお試しで挑んだから第5階層まで到着後、帰還してきたよ」


「この短い時間でもう第5階層ですか…んっ、それより何か御用でしょうか」


 流石プロ、一瞬で営業スマイルに戻った。


「ああ、床にこのギルドカードを見つけたから渡しておこうっと思って」


「6枚も!…あの、これを何処で?」


 俺を少し睨みながら聞いてきた。


「第四階層に設置された石碑の近くで一か所に集まって落ちていたんだ」


「そう、ですか…失礼ですが。ショウ様のステータスを確認させていただいても?」


「勿論」


 俺が手渡したギルドカードを水晶の上に置き、ステータスが表示された。


名前:ショウ

種族:人族

職業:戦士


レベル:25

HP:257

MP:170


攻撃力:220

防御力:189

体力:225

魔力:160

俊敏:200

器用:218

運:10


魔法スキル:

水魔法Lv.3 聖魔法Lv.2 魔力操作Lv.3

生活魔法


スキル:

剣術Lv.4 体術Lv.3 身体強化Lv.3


称号:

下級ダンジョン攻略者 疾速


 何も問題は無く、ギルドカードを返された。


「………ありがとうございます。ギルドカードを拾ってくれて感謝します」


「ああ、また見つけたら拾っておくよ」


 そう言いながら、もう一度、大樹灰に手を振り、街を物色しながら宿に戻っていった。

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